100歳/最果タヒ

「未来からきた女性」に寄せる詩

2017年9・10月 特集:未来からきた女性
詩:最果タヒ
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100歳

としをとるということは、
ぼくが終わっていくのではなく、
世界が終わっていくということなのだけど、
きみがいつも出かける西の果てにはなにもなく、
白い海と白い空が混ざりながら光っている。
そこへ向かうきみの体と、
そこから帰ってくるきみの体が、
同じなのかはわからない。
ただ、きみはきみの家を知っていて、
鍵を持っていて、冷蔵庫の中身を覚えている、
だから、今晩もここで眠る。

ぼくが町の南を見たとき、空の左手が、
ビルの、白壁に定規をあてて、
影と光の境界線をひいた。
息を吸いながら、吐きながら、
その線がゆっくりと動くのを見まもると、
ぼくは、植物よりも動物よりもコンクリートが、
この世界にうまれるべくしてうまれた、
赤ちゃんかもしれないとおもう。
365日かけて、365回、
あの左手はひたいを撫でてくれていた、という、
そのことを知らずに、
生きてきていた。
ぼくらにはそれは、少なすぎたのか。

忘れることで、ぼくは、
ぼくの命を軽んじていたことになるのかなあ。
光がふる草原で、横たわれば、ぼくも、
光の一部として、星に降り注ぐことができた。
頬の果て、
思い出せないものが古い地層にしまいこまれ、
ぼくの体とともに、宇宙を、回転している。

 
 
 
 
 

PROFILE

最果タヒ
最果タヒ

詩人。中原中也賞・現代詩花椿賞。
最新詩集『愛の縫い目はここ』がリトルモアより発売中。その他、詩集に『死んでしまう系のぼくらに』『空が分裂する』『グッドモーニング』などがあり、2017年5月に詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』が映画化された。また、小説に『十代に共感する奴はみんな嘘つき』『少女ABCDEFGHIJKLMN』、エッセイ集に『きみの言い訳は最高の芸術』、対談集に『ことばの恐竜』などがある。この秋に、食べ物エッセイ集『もぐ∞』が刊行予定。

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
詩集
『愛の縫い目はここ』

2017年7月27日(木)発売
価格:1,296円(税込)
発行:リトル・モア

Amazon

エッセイ集
『もぐ∞』

2017年10月13日(金)発売
価格:1,404円(税込)
発行:産業編集センター

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『ことばの恐竜 最果タヒ対談集』

2017年8月25日(金)発売
価格:1,944円(税込)
発行:青土社

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