前田エマ&田中茉裕が選ぶ、変身の道しるべとなる4冊

天才棋士や文豪の愛人の人生から見える「変身のとき」

2018年3月 特集:変身のとき
テキスト:羽佐田瑶子 撮影:竹中万季 編集:飯嶋藍子・野村由芽
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田中茉裕さんの即興ライブと前田エマさんの個展・選書から滲む「変身」の予感

日差しが暖かく、桜色で縁取られた景色に高揚する春。環境や人間関係などの変化が訪れ、変身のきっかけの時期でもある3月に、She is では「変身のとき」を特集。その連動企画として、毎月の特集テーマから連想される本をゲストに選んでいただくイベント「She is BOOK TALK」を開催しました。

ゲストは、モデルの枠を越えて、アーティストやエッセイストとしても幅広く活動する前田エマさんと、音楽家の田中茉裕さん。前田さんが個展『失う目』を開催していた尾山台flussにて、田中茉裕さんによるピアノの弾き語りミニライブと、前田さんが「変身のとき」をテーマに選んだ本を紹介するトークイベントを行いました。

左から田中茉裕さん、前田エマさん、She is編集長・野村(会場:尾山台fluss)

「世の中の型にはめていくほど、自分から離れていく気がした」(田中)

イベント当日は『失う目』と題された前田さんの個展の会期中。とある少女が住むマンションの一室から見た景色を軸につくられた、写真や絵、映像作品が展示されていました。目にする景色の中で、自分はなにを見ていて、なにを見ていないのか。目にするものを無意識に選択しながらも、なにかを喪失していく自分や家族、周りのことを深く考える、前田さんのエネルギー溢れる作品が会場に並んでいます。

会場には、大きな存在感を放つグランドピアノが。まずは、田中茉裕さんによるミニライブからスタートです。「美大に通っていたときの特別講義で奈良美智さんがイチオシのミュージシャンとして紹介されていたのがきっかけで、田中茉裕さんを知りました。彼女の歌は力強くて、初めて動画で音楽を聴いたときに泣いてしまったんです」と前田さん。

ピアノの音色が自由に遊び、まるで物語を紡ぐように滑らかに膨らんでいく言葉と歌に酔いしれる30分。「素晴らしいものを見せていただいて胸がいっぱい」と前田さんも拍手を送りました。

事前に演奏する曲を決めていなかったという田中さん。「少し前は、誰かの前で歌を歌うならちゃんと準備をするべきだ という思いにとらわれ、セットリストや話すことを決めて、ライブに臨んでいましたが、良いライブをしたい、と一生懸命考えて頑張ったり、セットリストやMCという世の中の型にはめて活動していくほど、自分でなくなっていく気がしました。苦しくて、だけどどうしたら良いかわからずにいたあるとき、友人——宇宙人みたいなすごい人なんですけど(笑)、その人に『一切なにも決めずにライブをしてごらん』と言われて。

戸惑って、怖くて、だけどわくわくしている自分がいて。実際になにも決めずに、歌とピアノさえその場で感じたことを弾いたら、すごく楽しくて。自分を見つけました。演奏の楽しさや、音楽やライブに対して本当の覚悟がなにか、自分の答えが見えた気がしました。それからライブは即興で、そのときの自分から生まれてくるものを大切に奏でるようになりました。

私の場合は元の自分に戻れた=変われた。自分自身でいることはすごく難しいことだけど、自分自身でいることは、自分にしかできないことだと思います」。

「私たちは見たいものをみて、見たくないものを消し去っている」(前田)

前田さんの今回の作品づくりのきっかけは、自身の住まいと2階下に住む友人の家から見える景色が「同じマンションに暮らしていても、住む階が違うだけで、まるで偽物の世界を見ているような心地になった」から。

「とあるマンションの窓から見える風景を日記のように撮り続けました。気がついたことは、作家の目は、いつも世界のどこかを切り取っているということ。私が留学していたウィーンのアトリエには、大きな窓がありました。私の記憶の中では、窓の外には青空が広がっていて、青空の下で絵を描いていたんです。でも、帰国してしばらくしてから、アトリエで撮った写真を見返してみたら、窓の外には森林が生い茂っていたんです。私にとっての本当の記憶って、なんなのだろうと戸惑いました。私たちは見たいものをみて、見たくないものを記憶から消し去っているんだなと思いました。記憶の上書きを繰り返しているみたいな感じ。

たとえば、今回のテーマにしているこのマンションが地震や再開発などでなくなってしまったら、この高さから景色を見ることはできなくなってしまう。今まで見ていた景色がなくなってしまう。育った価値観を手放すことにもなりかねない。それは建物だけじゃなくて、たとえば人でも、同じことが言えると思う。この人が隣にいたから見れるもの見えないもの……そういうものが誰にでもある。起こり得る。私たちはいつでも、なにか目を失ってしまう生き物なのだと思いました」と前田さん。

原稿用紙に手書きでしたためられた、個展『失う目』のステートメント

誰もが、自分の目で世界のどこかを無自覚的・自覚的に切り取っています。She is編集長の野村は「たとえば窓の外を見ているとき、実際の景色を見ると同時に記憶の風景をよびさましたりしていて、実際の景色だけを見ているわけではなかったりしますよね。前田さんの作品を通して、見ているものの中から私はなにを選び取っているのかなと考えさせられました。ものの見方や生き方を考え直し、再発見するきっかけになる作品たちだと思います」と、四方の壁に掛けられた作品を見つめながら話します。

PROFILE

前田エマ
前田エマ

1992年神奈川県うまれ。2015年春、東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、その分野にとらわれない活動が注目を集める。芸術祭やファッションショーなどでモデルとして、朗読者として参加、また自身の個展を開くなど幅広く活動。現在はエッセイの連載を雑誌にて毎号執筆中。

田中茉裕
田中茉裕

埼玉県出身。幼少期から遊びで歌を作り始め、6歳からピアノを始める。12歳よりシンガポールで生活し、その頃歌作りを本格的に始める2010年に開催されたEMI Music Japan 50周年記念オーディション「REVOLUTION ROCK」のファイナリストとなる。2012年3月、ミニ・アルバム『小さなリンジー』をインディーズからリリースし、箭内道彦氏、亀田誠治氏、児玉裕一氏、佐野史郎氏といった幅広い関係者から絶賛を受けた。同年8月、美術家の奈良美智氏からのラブコールで、個展の会場である横浜美術館で演奏。2013年に体調を崩し活動を休止していたが、2014年ムーンライダーズ鈴木慶一氏のプロデュースによる セカンド・アルバム『I ‘m Here』を11月にリリース。2015年春よりライブも再開し、J WAVE、六本木ヒルズ主催TOKYO M.A.P.Sや、2016年VIVA LA ROCKに出演。都内を中心に勢力的な活動を行なっている。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『聖の青春』
著者:大崎善生

2002年5月7日(火)発売
価格:751円(税込)
発行:講談社
Amazon

『安部公房とわたし』
著者:山口果林

2013年7月31日(水)発売
価格:1,620円(税込)
発行:講談社
Amazon

『ハチミツとクローバー 1』
著者:羽海野チカ

2002年8月19日(月)発売
価格:432円(税込)
発行:集英社
Amazon

『シンプルを極める 余分なモノを捨て、心に何も無い空間を作る』
著者:ドミニック・ローホー 訳:原秋子

2011年2月23日(水)発売
価格:1,080円(税込)
発行:幻冬舎
Amazon

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