街に出よう、人と出会おう。オーセンティックバーへのいざない

この夜景の中に、肌に馴染む酒場がきっと隠されている

2018年7月 特集:旅に出る理由
テキスト:ときとう藤花 写真:はくる 編集:野村由芽
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あなたはオーセンティックバーに行ったことがありますか、はじめて行った日のことを覚えていますか、この言葉の意味を知っていますか、それらについて、あなたはどう感じていますか。

「オーセンティック」とは「本物」といった意味の言葉で、オーセンティックバーとはつまり、いわゆる“ちゃんとしたバー”のことである。なにもパブや居酒屋のような異なる業態の酒場を指差し正統でないと糾弾したいわけではないが、この種の飲み屋に「雑多だからこそ気詰まりしない楽さ」があるのだとすれば、オーセンティックバーには「調和がとれているからこそ体の力を抜くことのできる楽さ」がある。同じ酒場とはいえ、楽しみ方のベクトルがまったく違う。オーセンティックには「信頼できる」という意味もあり、おそらく本物だということ以上に、肝となっているのはそこだと思う。

純粋に場所として日常使いするもよし、非日常のイベントとして訪れるもよし。そこにはプロの手から生み出される質の良いお酒が、スマートな会話が、気の利いた音楽が、常に差し出されている。こういった言い方をすると、中にはやはり「自分には難しい」と敬遠してしまう人がいるのではないかと推測するが、知識は全くと言っていいほど必要なく、そしてお酒に強い必要も、また同様にない。これはわたしの活動圏内である新宿に限った話になってしまうが、本格的なバーになるほどマスターが柔和でにこやか、そして充分すぎるほど、優しい。セカンドと呼ばれる補佐の男の子も犬っぽくて可愛い。

たとえば既存のメニューから選択してオーダーしなければならない居酒屋に対し、メニューすら置いていない一見玄人向きのバーは、たとえば「甘いものが飲みたいんだけど、今日は暑かったからちょっとサッパリしている方がいいな、朝が早いから度数も抑えめでお願いネ」と好き勝手を言うと、“すみれのリキュールにシュガーシロップをひと匙たらし、レモンジュースとソーダで割ったもの”(バイオレットフィズですね)が目の前に登場したりするわけである。ああ、快適。酔いのまわった真夏の深夜に「最後にデザート、ラブリーなやつ」とだけ言い放ったところスイカとマスカルポーネチーズのカクテルを悠々と差し出され、バーテンダーは常に数枚ウワテであることを思い出しうっとりしながら帰路についたこともある。こういったものと不意打ちで出会うこと、格好をつけたり甘やかしたりすることに職業として長けている人から迎え入れてもらうこと、そして彼らに礼儀程度であれ甘えることが前提として許されていること、そのすばらしい均衡の上で休息を取ることの、どの娯楽にも代え難い素晴らしさ。

そもそも、オーセンティックバーの格式というものには実はとてもバラツキがある。ジャケットや白のタキシードを着用し、髪をポマードで撫で付けたコテコテのバーテンダーのいる店もあれば、首元のボタンを外したシャツにジーンズといった、自室の延長のような服装で接客をしているマスターもいる。使用する氷やグラスにどの程度のこだわりがあるのか、旬の果物を使うカクテルを随時扱っているのかいないのか。複数人で行ってもいいのか、音楽はリクエストできるのか。“ちゃんとした酒をちゃんと出す”という共通項を前提としてこそいるが、店主、内装、音楽は一店ずつそれぞれに表情がある。バーとはどういった雰囲気の場所であるかということは到底一概には言えず、つまりあなたの現在持っているバーのイメージはその一角にすぎない。この夜景の中にあなたの肌に馴染む酒場がきっと隠されている。街に出よう、人と出会おう、孤独すらも肴に、酔ってもさめても、夜から夜へと健やかに。

PROFILE

ときとう藤花

町歩きと買い物が趣味の編集アシスタント。

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