東京は名建築に溢れている。『東京建築ガイドマップ』
「時代を超える名建築」をテーマに甲斐さんが1冊目に紹介してくれたのは、『新装版 東京建築ガイドマップ』(2010年)です。1968年から1970年代末までに建てられた近現代建築を集めた1冊で、東京を16の地域に分け、近現代建築の歴史や、建築物の見方などが紹介されています。
「上京してきた時に、最初に買って、この本を片手に街を歩き回りました。建築が好きなので878件という数の建築物を網羅しているのも嬉しいですし、見どころ解説が短い文章でまとまっているのでわかりやすいです。日々、生まれ変わり続けるのが東京だと思っていましたが、古くからあるいろいろな建築が今もなお残っていることを知りました。この本を持って街歩きをすると、街の見方が変わると思います」と甲斐さん。名建築、とはひとくくりにできないほどの数や歴史が残っている建築の世界。建築に興味があるけど詳しく知らないという人の入門書としておすすめです。
白洲正子や林芙美子……作家の家を訪問して著書を楽しむ。『文豪の家』
2冊目に紹介するのは『文豪の家』(2013年)。太宰治や夏目漱石、石川啄木など明治・大正・昭和を代表する小説家、作家、詩人の家を紹介している1冊です。
「林芙美子記念館や白洲正子邸など、女性の作家が住んでいたお家を訪ねて、そこで彼女たちの作品を読むのがとても好きなんです。文豪の家は保存のために公開していない場所もありますが、この本に掲載されている文豪の家はすべて中に入ることができます。家の中に足を踏み入れると、空気の柔らかさや、息苦しさや切羽詰まった重々しさなど、今もまだ残っている気配を感じることができます」と甲斐さんは話します。
実際に本が執筆された場所の空気を感じると、また違った読書体験をすることができるのではないでしょうか。公開日を確認して計画を立て、隣接する家を複数訪れるなど、文豪の家めぐりを楽しんでみては。
暮らすように旅をしよう
最後に、甲斐さんより最近製作された和歌山県田辺市の観光ガイドブックのプレゼントがありました。30ページ強に渡ってまとめられた、読み応えのある1冊。古い駅舎や喫茶店など、何気ない町並みが愛しく切り取られています。
「住人の方々が普段の生活の中で昔から通っている場所を、あえて紹介しました。テーマは“暮らすように旅をする”。どんな街にもときめくものがたくさんあるので、歩いて、自分の目でときめきを見つけてほしいです。この本は、その手助けになると思います。私自身、内気でインドア派でしたが、街に出させてくれたのは植草甚一さんや池波正太郎さんの本の存在です。私は『書を捨てよ町へ出よう』ならぬ『書を持って街へ出よう』派。旅先には必ず本を持っていき、宿で読んだり、立ち寄った喫茶店で読んだり、本とともに旅の時間を過ごしています」と話します。
甲斐さんのように、身構えず、暮らすようにふらりと旅に出てみませんか? 失敗も経験のうち。むしろ、自分の好みを知ることにつながり、好きなものがもっと増えるかもしれません。日常と非日常のスイッチを切り替えてくれる旅先は、意外と近くにあるのではないでしょうか。
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