She isでは、特集テーマをもとにGirlfriendsに選曲してもらったプレイリストを毎月Spotifyで配信中。7月の特集テーマ「旅に出る理由」では、7月に5年ぶりの新作『The Dream My Bones Dream』をリリースしたシンガーソングライター、プロデューサー、マルチプレイヤーの石橋英子さんが選曲してくれました。
ここにいながらもどこか別の場所に連れ出してくれるのが音楽の力。非日常の世界へ走る女の子を描いた1曲や、荒涼とした風景を横切る煙のようなギターが印象的な1曲、行きたい時代や頭の中で探している存在しない場所に旅できる1曲など、現代音楽や実験音楽を中心に10曲をセレクトしていただきました。非日常へ誘うプレイリストを聴いて、夏の脳内トリップに出かけてみては。
「過去、現在、未来へと行き来した旅の記録」であるという新作について、マームとジプシーの藤田貴大さんとの対談の形でたっぷりお話していただいたインタビューと合わせてどうぞ。
01:Morton Feldman “Samoa:Ⅰ.-”
ニューヨーク州ブルックリン出身の現代音楽家。1968年リリース。
「American Samoa: Paradise Lost?」 というドキュメンタリー(アメリカ領になったサモアの人たちへのアメリカの文化や法律の影響などを描く)の為に作られた音楽。夏の夕暮れの楽園を彷彿とさせるこの曲は、私たち自身が失ったものや遠い記憶をもう一度思い出させてくれる様な気がします。
この曲は組曲になっているので、是非アルバムを買って続きを聴いて下さい。
02:David Ackles “Midnight Carousel”
イリノイ州出身の不遇の天才シンガーソングライター。1972年。
ナレーター、町の人たち、David自身の立場で歌われるこの曲は、日常を捨て非日常の世界へ走るアウトサイダーの女の子を鋭い視点で描く、ゾッとするほど美しい歌。
自由な心は、人が知らずに正しいと信じこんでいることを揺るがし、なかなか理解されないものです。何か問題があると「自己責任」でくくられる世知辛い世の中。
祭りにいくお嬢さん方、気をつけて。
03:Loren Connors “Part 7”
コネチカット州ニューヘイブン出身のギタリスト。2002年。
荒涼とした風景を横切る煙のようなギターといえば、この人。煙の匂いまでしてきます。
似た様なギターを弾く人を他に知りません。一度でいいから生で聴きたいです。
04:Strafe F.R. “Himmelgeist”
ドイツ、デュッセルドルフの実験音楽二人組。2018年。
夏は暑いからと言って冷たいものを飲まない方がいいらしいですよ。
同じ様に夏だからこそ暑苦しい音楽を聴きましょう。
それにしてもチャーミングな曲! チャーミングさとごつさって表裏一体。そんなドイツ人のセンスが好きです。
05:The Swingle Singers“Largo [Harpsichord Concerto No.5 in F minor BWV1056]”
今も新しい、バッハの曲。バッハを聴くと冬の海を思い出し、頭の中がスーっとします。
そしてこのThe Swingle Singersのバージョンを聴いていると、金銀財宝、素敵なドレス、形の綺麗な靴を身につけてなくても、そんな気持ちになれます。
経済的な一曲。
06:John Adams “The Chairman Dances”
カリフォルニアの現代音楽家。1985年。
『中国のニクソン』(米大統領リチャード・ニクソンの1972年の中国への電撃訪問をテーマに書かれたオペラ)の曲を管弦楽に編曲したもの。
ニクソンが育った1930年代や、ワーグナー、ストラヴィンスキーという作曲家の時代をも一曲で旅することができる、贅沢な一曲。
冷房をガンガン聴かせた部屋で引きこもっているそこのアナタに是非おすすめしたいです。
07:Syrinx “December Angel”
カナダの異端的エレクトロニックサイケグループ。1971年。
昔、子供の頃、田舎のアーケードやショッピングモールでこんな大げさなのがかかっていたような。
七夕祭り、蛍光灯、店からもれる冷房の風、自転車の後ろに乗って、「私は誰の子供?」「さあどうだかねえ」
かかっていたことにしたいと思います。
08:Autechre “Drane2”
言わずも知れたイギリス、ロッチデールのテクノ実験ダンスミュージック二人組。1998年。
私のドライブのお供だち。
リラックスし、かつ、理性を失わないバランスが旅を楽しむ秘訣なのでしょうか? でも夏だし、たまにはハメも外したいですよね。
ニューキャッスルに行った時、裸同然の酔っぱらいのお姉ちゃん達が道端でフィーバーしており、ホテルのエレベーターで遭遇したその内の一人に耳元で「セルフィー!」と叫ばれ写真を一緒にとるハメになりました。そういう人にたまにはなってみたいですが、一生かかっても無理かもしれません。そんな人が家で一人で踊れる曲。
09:Ingram Marshall “Peaceable Kingdom”
ニューヨーク州マウントバーノン出身の現代音楽家。1991年。
「狼さえも子羊と住まい、豹は子供の横に伏し、子牛、若き獅子、肥畜も集い、幼き子が彼らを導く」というイザヤ書の言葉を描いた、同名のエドワード・ヒックスの絵。
関係があるのでしょうか?
行きたい時代、頭の中で探している存在しない場所、これを聴けば思うがままに旅できます。
10:Florian Fricke “Spirit of Peace 2”
ドイツ、リンダウ出身の音楽家。1985年。多くのヴェルナー・ヘルツォーク監督映画の音楽を担当。
この曲を聴いていると、同監督の『カスパー・ハウザーの謎』という映画で、一家が事故で全滅し、盲目となったピアニストを演じるフロリアン・フリッケを前に「なぜこうも息をする様にピアノを弾けないのか」と言う主人公カスパーのセリフを思い出します。
クソ暑い夏をこの息づかい、このテンポのように乗り切れたらいいですね。