ファッションの定点観測『ACROSS』編集部に聞く記憶に残る消費

ファッションの定点観測『ACROSS』編集部に聞く記憶に残る消費

震災・アプリ・電子マネーなどの影響で変わる消費生活

2018年9月 特集:お金と幸せの話
テキスト:羽佐田瑶子 インタビュー・構成・編集:竹中万季
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自分にとってお金とはなにをもたらしてくれるものなのでしょうか? 誰のために、何のために、使うのでしょうか? 自分らしい生き方をするためのパワーツールとしてお金をとらえたら、もっと日々が楽しくなるのではないか──そんな、消費への希望やアイデアを映し出しているのがウェブマガジン『ACROSS』です。

渋谷、原宿、新宿で道行く人々のファッションや消費行動を調査研究する「定点観測」や、年齢・性別・職業問わず様々な人たちが自分が何にお金を使ったかを日記形式で記録する「消費生活」は、『ACROSS』が長年ずっと続けてきた独自のコンテンツ。それらを読んでいると、お金の使い方にこそ、その人の生き様や個性が出るのではないか、使い方を変えれば、生き方を変えるチャンスに繋がるのではないか、と消費との向き合い方がすこし変化するように感じます。

特集「お金と幸せの話」では、1977年にスタートし、時代の変遷とともに移り変わってきた人々の消費生活をずっと見つめてきた『ACROSS』編集長・高野公三子さんにインタビュー。毎日持ち歩いているお財布の中身をあらためて見直し、日々のお金と自分と、向き合ってみませんか。

なぜその商品が売れているのかを掘り下げていくと、数字だけで測れない個々人のドラマや価値観がある

『ACROSS』はファッションビル「PARCO」を展開する株式会社パルコのシンクタンク部門が運営している、東京の若者とファッション、カルチャーを研究するウェブマガジンです。ここで公表するのはビッグデータとしての消費ではなく、私たち一人ひとりの消費や意識について。誰が、いつ、どうして買ったのかを研究し、公開しています。

『ACROSS』トップページ(サイトを見る

高野:『ACROSS』をはじめたのは、「PARCO」内に出店していただいている各テナントのオーナー様に向けて、各店の売上データの解析と考察を伝えることがきっかけでした。その後、もっとミクロな視点から、売れ筋商品を比較検討したり、それがなぜ売れているのか、誰に売れているのかなどを考察してきました。なぜその商品が売れているのかを掘り下げていくと、そこには数字だけでは測れない、個々人のドラマや価値観があります。たとえば、現在の経済状況について、個人消費の金額が下がっていることから「今の若い人はものを買わなくなった」といわれがちですが、実際にインタビューしてみると、案外高額消費をしている人もいる。全体の数値は「みんな」の数値ではないんです。

たとえば近年は、自分で雑誌やZINEをつくって売る人、新品の洋服より古着を買ったり、あるいは売ったりする人がいます。高級なブランドものを持ちたいという価値観も、以前のような絶対所有欲とは異なり、流動的。「価値感の多様化」とは、多様な人がたくさんいるのではなく、一人の人の中に多様な価値観がある、という意味だと考えています。情報に対するリテラシーの変化によって、欲望の種類も変わったように思います。そういったことは、一人ひとりに話を聞かないとわからないので、個々人のミクロな消費行動を理解することを私たちは大切にしています。

ある人の消費に対して、周りから見たら「どうして自腹で雑誌をつくるの?」「なんでお金を払ってそのイベントに行くの?」と思うこともあるかもしれません。ですが、そこには個々人にとって消費するものとの物語があります。それが高いのか、安いのかは本人の価値観によって本来は決めるべきもの。そうした個々の物語を見つめる『ACROSS』の人気企画が「定点観測」や「消費生活」です。

高野:1980年8月から渋谷、原宿、新宿の路上で若者とストリートファッション・カルチャーの観察・測定・撮影と「なぜ、そのグッズを買ったのか」などについてのインタビューを行う「定点観測」をスタートして、現在453回目です(※インタビュー現在)。たとえば世の中的にサコッシュが流行っていたとしても、そのアイテムを購入した理由には人それぞれのドラマがある。「流行っている」という現象だけで見ていては理解したことにはならないのです。

1980年8月9日に実施した第1回目の「定点観測」でとりあげたアイテムは「ポロシャツ」と「ツートンスカート」(写真右)。その後、秋にはパンクミュージックの流行とともに、パンクファッションが若者を中心に人気に(左)

2018年12月1日に実施した第456回目の「定点観測」で取り上げたアイテムは「ショート丈ボア・アウター」「ニット・ボトムス」「全身真っ黒男子(ヨウジ男)」(サイトを見る

アイテムを着用した人のプロフィールと共に、それぞれの服の金額や、なんでそのアイテムを買ったのか、来街理由、最近買ったものについて聞くインタビューも併せて掲載(サイトを見る

「Google Arts & Culture」にもアーカイブを提供しており、1980年から現在までのストリートファッション・カルチャーの記録を見ることができる(サイトを見る

高野:「消費生活」は、個々人が毎日何にいくら使ったかを2か月間日記形式で記録してもらう、リアルな消費生活を公開している企画です。「消費生活」を見ていていつも気付かされるのは、収入と支出の関係はそんなにシンプルじゃないということです。つまり、収入が少ない人は必ずしも低価格のスーパーで低価格のものを買うとは限らないのです。同じ人の2か月を比較するとまったく消費行動が違ったり。また、最近だとパーソナルトレーナーを付ける人が増えているなあ、という気付きもあります。いろんな方の「消費生活」を見ていると、その人の輪郭のようなものが見えてくるから不思議です。また、「消費」に対するリテラシーが鍛えられると思いますよ。

2018年12月の「消費生活」に参加している、大学2年生の女性のページ。その日に何にいくら使ったかが日記形式で記録されている(サイトを見る

一つ言えるのは、どの時代でも「お金を使う人」と「お金を使わない人」がいるということ

「消費生活」でおもしろいのは、同世代、同じような職種でも人によって購入しているものが全く異なること。消費にはその人が日々何を選択し、何を大切に思っているのかが映し出されることがわかります。時代によって消費の仕方に変化はあったのでしょうか?

高野:時間軸で見ると多少の変化はありますが、ひと言で言えば人それぞれ。一つ言えるのは、どの時代でも「お金を使う人」と「お金を使わない人」がいるということでしょうか。「プチバブル」といわれていた2007年も使わない人は使っていなかったですね。「消費」自体を楽しいと思っていない人や、休みの日に出かけるのが面倒という人もいる。つまり個々人の価値観の多様化です。

2011年5月の「消費生活」に参加していた、以前はシステムエンジニアだったという専業主婦の32歳の女性。3か月主婦に専念し、夫に教えてもらえながら家事を覚えている最中だという。節約しており、出費が0円の日が多い(サイトを見る

時間軸以外にも「トレンドや時代の潮流によって変わることもある」と高野さんは話します。

高野:時代や社会による傾向として顕著だったのは、ファストファッションの上陸・浸透と震災です。2000年代初頭に比べると、2000年代後半は洋服にかける金額が減少していますが、それはファストファッションの登場により衣類の単価が安くなったから。ですが、購入数は変わっていない。むしろ、レイヤードスタイルが流行し、着用するアイテム数は以前よりも増えている。

2000年11月の「定点観測」。ファストファッションがまだ普及していなかった頃はベーシックな服もブランドのもので揃える人が多い(サイトを見る

2008年3月の「定点観測」では、19歳の女性がユニクロの3,990円のパーカーをアウターとして着るなど、数多くの人がファストファッションを取り入れていた(サイトを見る

また、2011年の東日本大震災直後は、生き方をはじめ、自分自身の消費を見直す人も増え、本当に欲しいものは何かなど、以前に比べ深く考えるようになったと思います。また、インターネットの普及や@cosmeや食べログなどの口コミサイト、C to Cのプラットフォームが増えたことで、コストパフォーマンスを考えることが当たり前のようになりました。ファストファッションやプチプラコスメ、古着などで安く賢く購入したり、シェアハウスに住んだりして、ライブや旅行、ダンスのレッスンなどに消費する。自分らしい消費生活を見つける人がさらに増えたように思います。

2012年4月の「消費生活」に参加していた、印刷会社に就職したもののやりたいことができなかったという25歳の女性は、東日本大震災を機に退職し、清貧な生活を経て新しい職場で働きはじめた頃の消費生活を綴っている(サイトを見る

お金との付き合い方の価値観は、世代によっても大きな差があるそう。社会全体の経済状況、時代の流行、育ってきた環境。それぞれの時代の潮流が身体に染み付いているのかもしれません。

高野:ざっくり言うと、バブル世代(1965年~1970年頃生まれの人)は今でもお金を使う人が多いです。多くの人がお金がたくさん消費した時代で、ブランド品も台頭していました。その頃の価値観から変化していない人が多いので、全方位的に消費する人が多い。その後の「失われた世代」といわれる団塊ジュニアとポスト団塊ジュニア世代(1970年~1983年頃生まれの人)は基本的には貯蓄派。情報をたくさん持っていて、普段は会社にお弁当を持参して堅実ですが、美味しいワインにはこだわるなど、選んで消費するタイプの人が多いように思います。人にもよりますが。

一方、90年代生まれの若者たちは「レンタル&シェア世代」。次々消費しますが次々リリースもしている。また、団塊ジュニア世代の子ども、今の小学生は「よく吟味して買いものをしたい」と今思っているようです。幼いのにしっかり者です(笑)。

PROFILE

高野公三子
高野公三子

(株)パルコ『ACROSS』編集長。
パルコのファッション&カルチャーのシンクタンク「ACROSS」の代表。2017年、Google Culture Project「We Wear Culture」に参画。共著に『ファッションは語りはじめた~現代日本のファッション批評』(フィルムアート社)、『ジャパニーズデザイナー』(ダイヤモンド社)他。日本流行色協会トレンドカラー選考委員、文化学園大学講師。

INFORMATION

ブランド情報
『ACROSS』

ストリートファッションマーケティングウェブマガジン。1977年以来、東京の若者とファッションを観察・分析する研究チームが作成するメディアです。
ストリートファッション マーケティング ウェブマガジン ACROSS(アクロス)

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