趣里さんの気持ちがこもった、人生相談室のようなやさしい時間
「私は本当はなにをして生きたいのだろう?」そんな願いに耳を澄ませ、自分にしっくりくる生き方や働き方をあらためて見つめようと、She isでは10月に「なにして生きる?」という特集を組み、さまざまな企画を実施。その連動企画として、毎月の特集テーマから連想される本をゲストに選んでいただくイベント「She is BOOK TALK」を開催しました。
ゲストは女優の趣里さんです。バレエ留学の末、怪我による挫折。恩師との出会いから女優の道へ。肩書きよりも自分の個性や心の形を大切に、選択を重ねてきた趣里さんと「なにして生きる?」をテーマにしたトークイベントと、11月9日より全国公開されている主演映画『生きてるだけで、愛。』の先行試写会を行いました。「ひとりひとりの声を聞きたい」と趣里さんたっての希望で来場者から質問を集めた、人生相談室のようなやさしい時間になりました。
目立つ職業だからといって成功者なわけではない。夢の挫折から立ち直るまで
生きることとは、選択の積み重ね。目立つ職業についていると、成功者のように見えますが「今でもバレエを諦めきれない気持ちもあります」と、趣里さんは正直に話してくださいました。現在28歳。幼い頃は「バレリーナ」になることを夢みるほどバレエに熱中し、イギリスへ単身留学。しかし16歳で怪我をし、バレリーナへの道を辞めざるを得ない状況に置かれます。「どうしたらいいのかわからなくて呆然としました。でも、どうにか前を向かなきゃって……みんなはなにをして生きているのか訊いたり調べたりしたんですね。それで私も大学に行こうと決めて、高卒認定をとって進学して、将来の夢をあらためて考えました」。
「なにして生きるか」考える中で思い出したのは、表現を通してお客さんが喜んでくれる姿だと言います。「いい舞台や映画を観た後って、まるで六本木が外国のようにきらめいて、渋谷の人混みさえもハッピーに感じませんか? エンターテイメントはいろんな感情を教えてくれますし、生活が潤うもの。私もそういう場所に関わっていたくて」と、バレエから演技という表現手法に転換し、演出家・塩屋俊が主宰する「アクターズクリニック」で演技を学びます。スクールの教えは、女優であり演技指導者でもあるステラ・アドラーの教え「人はひとりひとり違うから、そのままでいい」ということ。「迷いながらも自分なりに答えを探す中で、『自分のままでいい』という考えが背中を押してくれました」と趣里さんは話します。
「現代を生きる女性とひとつになりたい」。戯曲『ダニーと紺碧の海』
俳優として生きていこう、と新しい夢を見つけたばかりの頃に出会った大切な一冊が、ジョン・パトリック・シャンリィ作の戯曲『ダニーと紺碧の海』です。
舞台はニューヨーク。心の痛みを暴力によって吐き出す孤独な男と、壊れた家庭環境に疲れた女が出会い、心を通わせながら惹かれ合っていくエチュード(会話劇)です。2017年には長年にわたり蜷川幸雄の演出助手を努めた藤田俊太郎が演出し、話題を呼びました。
「この作品は、言葉では言い表せない涙があるんです。台詞がとても素敵で、ときどき思い出しては戯曲をぱらぱらと適当に開いて、目に止まった言葉を読み返しています。演技をはじめたばかりの18歳で初めて読んで、いつか演じてみたいとずっと願っている役ですね」。
戯曲の言葉に励まされたように、自身も芝居を通して「現代を生きる女性とひとつになって、一緒にがんばりたい」と控えめな声で、しかしハッキリとした口調で話されていました。
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