アイドルにモテるために化粧する女/劇団雌猫『だから私はメイクする』

「ここだ。私の楽園はここだったんだ……」

2018年11月 特集:モテってなんだ?
テキスト(本文):ミニチュアブタ 編集:ひらりさ(劇団雌猫) イラスト:kamochic テキスト(リード):野村由芽
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「インターネットで言えない話を集めて、同人誌にしよう」。
インターネットを駆使していた30歳目前の四人の女性たちがふと思いたち、好きなものについて熱く、そして精彩さをもって語りまくるオタク同人誌『悪友』シリーズを発表したのが2016年のこと。『悪友』では、四人が愛する対象にまつわるあれこれはもちろん、「浪費」や「美意識」など、日々をのびのびとひょうひょうと生きるためにときに戦うわたしたちにどんぴしゃりではまるテーマの数々を追求し続け、出版にイベントなど、いまや大きな活躍を見せているのが「劇団雌猫」さんです。

なにかを好きになること、お金を使うこと、メイクすること。一見、誰かのためにもなりえるこれらの行為を劇団雌猫さんがテーマにするとき、それは「他人の目」を気にすることよりも、自分で自分の機嫌をとったり、自分の心を励ましたりしながら、なりたい自分になるための行為として楽しんでいるような雰囲気があって、それっていいなあと思うのです。ああ、血も涙もないぜと泣きたくなる夜に、それでもなにかを愛する過程や、よりよいものにひっぱられて頑張りたいとふんばったなけなしのタフネスは、いつかギフトになって、自分にかえってくることがある。劇団雌猫さんがひょうひょうとやり続けているのは、わたしたちが生きていくための内なる力を鍛えてくれる、がんじょうな幸福を育ててくれる、そんな活動だと感じるのです。

She isの11月特集は「モテってなんだ?」であるわけですが、「モテ」というのも、他者のためのものなのか、自分のためなのか、はたまたその両方なのか、なんなのか。そんなことを考えたくて企画した特集で、そんななかで、劇団雌猫さんの最新著書である『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』にこのテーマについてぴったりのエッセイがあると知り、本記事で紹介できたらと思います。さてさて、長くなってしまいました。どうぞごゆっくり、お楽しみください。

『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(Amazonで見る

名前:ミニチュアブタさん(35)
出身:栃木県
好きな映画:プラダを着た悪魔
性格:小さいことを気にしない

みなさん、萌えや愛が一定量を超えるとどうなりますか?

ただただ涙を流し「とうとい……」とつぶやく、声にならない叫びをあげる、呆然とする――。100人いたら100通りの反応があります。私は記憶が一瞬なくなり、その後本当だったのか妄想だったのかわからなくなり戸惑うタイプです。

世の中にはさまざまなオタクがいますが、私が愛を注いでいる対象は、ステージの上でスポットライトを浴び、笑顔を振りまく女子アイドルです。

「同性のアイドルを追いかけているのはおかしい」と揶揄されることもあるのですが、そのたびに、お前は福山雅治の男祭りを知らんのかい!! 矢沢永吉の武道館前で同じこと言ってみろい!!! みたいに憤ってしまいます。そういうことじゃないんです。彼女がいるだけで、オーディエンスを見渡しながら歌うあの子を見るだけで幸せなのです。

そう、思っていたのに。見るだけで幸せ、なんて思っていたのに、少しずつ握手会やチェキ会などの接触イベントを繰り返していくうちに、「好きな子に認知してもらいたい。特別だと思われたい」と考えるようになってしまいました。

始まりは数年前。推していたアイドルの握手会。それまでにも握手会に参加しており、軽く認知されるだけで満足していた私でしたがその時は違いました。なぜか私を軽く認知している彼女は私の顔を指差して「かわいいね」と一言。

うろたえた私は「ど……どこが?」と聞いたのですが、彼女はふふって笑ってこう言ったんです。

「全部♡」

はい死んだ。その瞬間に、今までの私は死んだ。細胞が作りかえられた。

その一言で私は頭がおかしくなりました。

普通に考えておかしくないですか? 顔を指さされて「かわいいね」。

こういうの知ってる~~~!! 乙女ゲーのスチルじゃない?! 少女漫画?! 意味わかんなくない?

好きな人が、テレビに出ているような女の子が自分を指差して「かわいいね」って言うんですよ。

正直「かわいい」という言葉自体は、言われなれていたんです。

化粧をするようになったのは、大学生になってから。そこから社会人数年目まで、私は男性にモテるためにコスメを選び、男性受けがいい化粧をしていました。恋コスメと呼ばれるエクセルのアイカラーを選び、メイベリンのマスカラは絶対に茶色。ボリュームタイプではなくロングタイプ。目を伏せた時にまつげの影ができるように仕上げていました。特に誰と付き合うとかそういうことではなくてもただのオタク、ただの女よりも「かわいい」ほうが有利だと思っていたから。でも、推しに「全部♡」と言われたその日から私の人生は一変し、好きな女の子に「かわいい」と言われるためだけにリソースを使うこととなりました。

私に「かわいい」と言った元推しがアイドルから舞台女優に転向し、接触イベントが減る一方で、並行して行っていたガールズグループの現場がどんどん増えていき、年齢が一回り下にもかかわらず、「一生好きだ。この子がアイドル活動をやめたとしてもずっと応援したい、できれば結婚式に呼ばれるようになろう」と心に決めた推しもできました。いわゆる「ガチ恋」です。

メイクのやり方も、それまでとは変わりました。接触現場は、肌が命。毎回、その時一番自分に合う下地とファンデを使って肌を作り込む。接触するのはライブ後が多いので、崩れないように粉もしっかりと叩き込み密着させる。きつく見えないように眉をふんわりとした色合いで仕上げる。その時の服に合わせたアイカラー、アイラインを入れ、チークも。対女の子なので、しっかりビューラーでまつ毛をあげて黒いマスカラを塗る。季節感とアイカラーとのバランスを見てリップの色を決める。そして、ライブが終了した後の握手会前には必ず、携帯のインカメラで化粧崩れはないか、最高の自分になっているかを確認してから、推しと対面する。男とのデートにもここまでしねえぞってくらいの徹底ぶりです。

最近までヘビロテしていたアイテムは、CLIOの10番。2017年、第9回AKB48選抜総選挙の開票イベントで指原莉乃さんが使っていたことで大流行したアイカラーですが、これがまぁ優秀。もちろんこのアイカラー1色だけでもめちゃくちゃかわいいのですが、色はいいんだけどラメが少ない手持ちのアイカラーに重ねることもできるので、底が見えるくらい使ってしまっています。

接触現場に行くときは、自分のメイク以外にも、念入りに用意するものがあります。大好きなアイドルの新譜がリリースされるときには、メンバー全員にお手紙とスターバックスのギフトカード。そして推しには、それらにあわせて小さなコスメを渡すことが増えてきました。それが功を奏したのか、そもそも女性が少ない現場だったからか、メンバーには認知され、名前も覚えてもらい、誕生日も祝ってもらったり、ステージからレスポンスをもらえたり、「今日ラメが大きくて、キラキラしていてかわいい」と言ってもらえたりするように。ここだ。私の楽園はここだったんだ……と意味がわからないことで涙しそうになりました。
最高に、最高に嬉しい。自分が頑張ることで、好きな女の子たちから「かわいい」って言ってもらえると、脳みそが溶けそうになります。

自分を可愛く見せるために、新しいコスメを選びたいし、かわいいコスメがあったら推しにあげたい。コスメ売り場を回る楽しみも、今まで以上に新しいコスメ情報を得る楽しみも増えました。

彼女のことを考えると、たくさん欲しいコスメが出てきます。パッケージに推しの名前を刻印したリップ、部屋に置いておくだけでかわいいボディケアグッズ、リラックスできてちょっと高級な入浴剤、そして季節限定のマカロン型のチーク。かわいい女の子にかわいいコスメを選びたいという気持ちと、9割が男性ファンの現場で、ありきたりのプレゼントではなく、コスメが好きな女性が選ぶ、「女子のテンションが上がる」コスメをあげるという小さな優越感で、自分のコスメと推しへのコスメを買いまくることがやめられません。

紙袋を渡した時の「え、こんなものいいの?」という声、驚いた顔、その後の笑顔、「ありがとう~」という少し間延びした声。全部、私の心の中にある宝箱に入れておきたい。そう思ったのに、先日、冒頭で話した「愛が溢れすぎて記憶をなくす」をしてしまいました。だって仕方ない。

好きな人に、自分が持っているものと同じものをプレゼントするって、どう思いますか? 勝手に作る「お揃い」です。いや、「かわいい」「使用感が良い」という言い訳はあるのですが、私は「推しと自分におそろいのコスメを買う」ことをしました。しかも「前にあげたランコムの限定チーク、恥ずかしいけど、かわいすぎて私も買っちゃったんだ」と彼女に伝えてしまって。どうしよう、年齢がすごい上の女が同じものを持っているなんて、気持ち悪がられるかもしれない。ごめん、実は前あげた入浴剤も、グロスも、名前を刻印したリップも、私が愛用している使用感も間違いないコスメなんだ……。ぐるぐるしている私に、彼女は微笑んでこう言いました。

「えー! あれ、限定だったの? かわいい。本当にあれ、スポンジもかわいいよね。同じもの持ってるって、おそろっちだね」

おそろっち。

なんてかわいいんだ。

なんてかわいい語感なんだ。

「お揃い」ではなく「おそろっち」という言葉。私の脳みそは溶け、記憶が無くなったのでした。

元旦、初詣中にもかかわらず、0時を回ってすぐにランコムのサイトにアクセスをし、先ほどのランコムの限定チークを手に入れたその時からドバドバと出ていた脳汁で脳みそが溶けましたね。

はー。幸せ。推しがかわいくて幸せ。推しにかわいいこと言ってもらえて幸せ。これからも全ての現場にかわいくなって行こう。現場にかわいくなって行ってこんなに幸せになるのなら、普段の生活でもかわいくしているとさらに幸せかもしれない。今は以前よりも普段の生活もめかして生きています。楽しい。どんどんかわいいコスメが増えていくし、自分も毎日かわいいから幸せです。

最近は韓国の女子アイドルも追いかけはじめました。同志たちと、新大久保に行って韓国コスメもどんどん漁っています。新しいコスメを買うのも楽しいし、自分のためにどんどんかわいいものを集めるのも楽しい。

みんなも、かわいくして、好きな人に会いに行きましょう。本当に幸せだよ。

PROFILE

劇団雌猫
劇団雌猫

平成元年生まれのオタク女4人組からなるサークル。インターネットで知り合い意気投合した4人が、インターネットでは語られない「周りのあの子」への純粋な興味から、2016年冬に同人誌『悪友』シリーズを作り始める。トークイベントなども開催し、趣味と仕事に精を出す「浪費女子」たちから支持を得ている。2017年8月には商業書籍『浪費図鑑』(小学館)を刊行したほか、2018年は同作のマンガ化や、オタク女子の美意識に関するエッセイを集めた同人誌『悪友DX 美意識』の書籍化も控えている。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』
著者:劇団雌猫

2018年10月24日(水)発売
価格:1,296円(税込)
発行:柏書房
Amazon

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