She isでは、特集テーマをもとに選曲したプレイリストをSpotifyで配信中。2月の特集テーマ「美は無限に」では、ヒップホップに精通されている音楽ライターの渡辺志保さんが、「美しさの基準」を更新し続ける黒人女性アーティストの魅力について、コラムとプレイリストを寄せてくださいました。
楽曲やミュージックビデオを通じてはもちろん、アリシア・キーズが「#NoMakeup」キャンペーンを始めたり、リアーナがコスメブランド「FENTY BEAUTY」を立ち上げるなど、様々なかたちで美しさの基準に対する改革を行い続けている黒人女性アーティストたち。そのパワフルな楽曲を聴けば、誰かの決めた「美」の定義なんて関係なく、自分が美しいと思える姿を追求することこそが大事なんだと勇気づけられるはずです。
「Black Is Beautiful」。美しさの基準を更新し続ける黒人女性たち
アメリカで黒人たちが自身らの地位向上を訴えた公民権運動が盛り上がる1962年、当時、文化発信の中心地でもあったニューヨークのハーレム地区にあるナイトクラブで、ある一つのイベントが開催されました。『Naturally '62』と題されたこのイベントは、「黒人女性のナチュラルなヘアスタイルやとびきり美しいファッションを楽しもう」というコンセプトで、ステージにはアフロヘアの美しい女性モデルやジャズバンドが登場し、会場の扉の前には長蛇の列ができたと言われています。その『Naturally '62』が掲げていたスローガンこそが「Black Is Beautiful」というものでした。
欧米的かつ西洋的な美の基準は、白い肌にブロンドヘア。パーツが小さくまとまった顔立ちに痩せた体躯といったもの。我々日本人も、いわゆる「お姫さま」の姿を思い浮かべる時は、自然とディズニー映画に出てくるシンデレラやオーロラ姫のような姿を描くのではないでしょうか。まるで積荷のように、労働力としてアフリカ大陸からアメリカへ連れて来られた人々の多くは、元の名前も欧米風に変えられ、自らのルーツと切り離された環境の中で生活することを強いられていました。そんな中、自分たちが持って生まれたナチュラルな美しさをもっと誇ろう、という意志のもと掲げられたのが、「Black Is Beautiful」というフレーズです。
その頃同時に、ニーナ・シモンやアレサ・フランクリン、ダイアナ・ロスといった歴史的な女性アーティストらが、自らのアウトフィットや歌詞の中に、黒人女性としての美しさを忍ばせ、アイコニックな存在となっていきました。そして今も、多くの黒人女性アーティストが「美しさの基準」を更新しながら活躍を続けています。
全40色のファンデーションを生んだ、リアーナによるコスメブランド「FENTY BEAUTY」
翻って現代、まさに「美しさの基準」に改革を起こすような出来事がありました。それが、アメリカの歌手リアーナの手がけたコスメライン、「FENTY BEAUTY」の登場です。全米1位を記録したヒット曲を多く持ち、これまでにPumaからChristian Diorまであらゆるファッションブランドとのコラボ企画も成功させてきたリアーナが次に挑んだのは、コスメブランドの立ち上げでした。
彼らがもっとも注力したのは、リキッドファンデーションのカラーバリエーション。多くの時間を費やした結果、全40色という異例のラインナップで店頭に並びました。
FENTY BEUTYが発売日を迎えると、ファンデーションは、濃いトーンの色味から売り切れていったと言います。これまで、市販のファンデーションではなかなかマッチする色味が見つけられなかったダークトーンの肌の女の子たち、さらには、アルビノにより白い肌で生まれてきた黒人女性までもが、「初めて自分の肌に合うファンデーションを見つけられた!」と次々とInstagramに投稿していきました。
ダークトーンの肌の女性は「Sephoraでこのファンデーションがぴったり合っているダークトーンの女の子を見ると本当に嬉しい気持ちになる」とコメント
ちなみに、WWDが報じたところによると、FENTY BEAUTYのメインとなる客層は黒人とヒスパニック系で、ついでアジア系、そして白人は最も小さいシェアを占めているそう。今では、LANCOMEやMAYBELLINEといったコスメブランドも40色近くのファンデーションの色味を揃えており、MACに至っては60色もの色味を販売しています。このようにして、美の多様性を新たに定着させた存在こそが、女性アーティストのリアーナだったのです。
リル・キム、ミッシー・エリオット、カーディ・B、ビヨンセ……自分が美しいと思える姿を追求するアーティストたち
私が、こうした黒人女性アーティストたちによる楽曲を聴いたときに強く感じるのは、「美とは自由に表現するもの」というアティチュード。「悪びれない」という意味の『Unapologetic』という単語をアルバムに冠したリアーナはやはりその最たる例でもありますが、まるで女版ピンプのようなミンクのコートをまとってシーンに登場したリル・キムや、迫力あるボディに真っ黒な口紅を塗り、その存在感をさらに増していったミッシー・エリオット。バービー人形と自分をシンクロさせて、まるでコスプレのようなアウトフィットと世界観を創り出したニッキー・ミナージュ。超プチプラの通販ブランドからメゾンブランドまでをミックスして気こなすカーディ・B。自分が最も美しいと思える姿を追求し、誰の目も気にせずに我が道を行くアーティストたちには大きな魅力を感じますし、美の定義は一つではない、ということを痛感させられます。
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