主人は主従関係だから、もうそういう言葉を使うのはやめよう。「私の主人は私です」
夫のことを他者に主人と言うのをだいぶ前にやめている。
私の主人は私です。#82年生まれキムジヨンと私の夢
— marimaman (@yh_mari) March 15, 2019
チョ・ナムジュさんは2月に来日され、作家の川上未映子さんと対談を行いました(参考記事:『82年生まれ、キム・ジヨン』著者が来日。「社会の変化と共にある小説」)。そのとき、川上さんが「夫、妻という呼び方は一応フェアだと思うが、主人は主従関係だから、もうそういう言葉を使うのはやめようと新聞に書いたところ、賛否ともにものすごい反響があった。9割方は賛成してくれたが、否定的な意見の人にはかわいそうな女だと言われた」と発言され、それに対してチョさんが絶句してしまう場面がありました。どう呼び、呼ばれるかはそばで聞いている人たち、特に子どもたちに大きく影響します。ちょっとしたことに思えて、実はとても大きな変化を生み出せるテーマかもしれません。
共働きワンオペ育児にモラハラ夫を抱えて文句一つ言わず私を育ててくれた母へ感謝するとともに、母がしてきた苦労を自分たちや下の世代の女性がしなくていいよう、女性差別の連鎖や呪いを食い止めたい #82年生まれキムジヨンと私の夢
— ☀︎ (@manba223) March 12, 2019
『キム・ジヨン』は、前の世代への思いも呼び覚ましてくれる本です。キム・ジヨンのお母さんは農村出身で中学にも行けず、10代でソウルに出て工場で働いていた人。その稼ぎで、兄さんや弟たちの高校・大学進学費用を支えました。彼女自身も働きながら夜間中学に通い、さらに高卒資格まで取得した努力家です。賢くて商売上手で、下級公務員の夫が仕事をやめてしまってもフランチャイズの飲食店や不動産の転売で利益を上げ、3人の子どもの学費をまかないました。
けれどもそんな彼女にもかつて「先生になりたい」という夢をあきらめた経験がありました。幼いキム・ジヨンがそれを知って何となく悲しい思いをする印象的なシーンがあります。本書を読んで、自分の母や祖母の人生について考えたという読者の方はたくさんいました。家族としてだけ知っているその女性を、社会の中の一人の人間として見たとき、「連鎖を食い止めたい」という思いを持つ人は多いのではないでしょうか。
男性の働き方が変わらないかぎり個人の努力では限界がある
「男は仕事」のような抑圧から子どもらの世代が少しでも解放されてほしい.日本の父親が家事や育児に参加する時間がもっと当たり前のように増えてほしい.そのためにも自分の仕事の仕方や生活を変えていきたい. #82年生まれキムジヨンと私の夢
— 須藤建 (@ajian1108) March 10, 2019
子育ての分担は『キム・ジヨン』でも大きなテーマでした。キム・ジヨンと夫は子どもが生まれる前、どちらが子育てを担当するのが良いか何度も何度も相談しますが、結局は妻が会社を辞める選択肢しかありませんでした。一生けんめい娘のジウォンちゃんを育ててきたキム・ジヨンですが、ある日公園で聞いた心ない一言で、溜め込んでいた辛さが爆発してしまいます。
いかに「協力的」な夫でも、夫婦だけでこの問題を解決することはできません。この「夢」を書いてくれたのはまだ小さい子どものいるお父さんですが、ほんとに、男性の働き方こそが変わらないかぎり個人の努力では限界があるんですよね。まずは男性にもっと育休を。それがすぐに無理でも、「育休なしは男にも無理」と、折を見て口にしつづけてほしい。言わないと、感覚が古い上の人たちはわかりませんから。
ちなみに、『キム・ジヨン』は、企業や団体の管理職についている人、人事関連の仕事をしている方にぜひ読んでいただきたいし、事実そういう読者も少なくないようです。子育て世代の働き方について、ぜひ真剣に、具体的に、当事者の意見をよく聞いて考えてほしいのです。
声にならない声を表に出すことで、夢だったことが現実になるかもしれない
ホモソーシャリズムが男の人たちの支柱になる時代はもうこの先どんどん終わっていく気がしてて。
この先それに替わる新しい倫理的ななにかが生まれるなら、女の人と男の人両方を支えてくれるものであってほしい #82年生まれキムジヨンと私の夢— 𝕕𝕒𝕣5𝕠𝕠🐨 (@olar_500) March 15, 2019
暴力、偏見に怯えることなく暮らしたい。見た目などで勝手にジャッジされることなく、支配/被支配ではない、対等で楽しい人間関係を築きたい。既存の制度を使えないなど、異性愛者ではない人たちが被っている不便、窮屈さ、不自由をなくしたい。自由に生きたい。 #82年生まれキムジヨンと私の夢(@Nakijin65)
この本を読んで、改めて「自分も当事者だったんだ」と気づいた人がたくさんいたはず。そうでなかったらこんなに多くの人に手にとってもらえなかったでしょう。そして、数でいえば国の半分を占める女性たちですらこうなら、もっと少数派の人たち、つまり異性愛者ではない人、障害や病気を持つ人、在日外国人……すべてのマイノリティが日々どんな思いで暮らしているか、想像がつくのではないでしょうか。『キム・ジヨン』は自分の声にならない声を表に出すと同時に、より広い社会に目を投げかけるための一歩としても役に立つ本だと思います。
私は抑圧に対して迎合してきたけど、何年か前にもうやめたいと思って、でも身につけた迎合のくせは染み付いてて中々抜けなかった。でも自分のためにも、他の人のためにも変わっていきたいなと思った。この本を読んで、昔はこうだったんだってびっくりしてもらいたい。#82年生まれキムジヨンと私の夢
— なの (@basilnanoko) March 8, 2019
『キム・ジヨン』の日本語版は翻訳小説、しかもアジアの小説としては異例の売れ行きを見せており、現在、発行部数は13万部を超えました。なぜこんなに読まれているのか? その秘密は、読んだ人が友人や家族に勧めたくなり、実際に勧めていることにあるようです。「良い本だから、読んで」というより、「読んだ人どうしで話したいから読んで読んで!」という感情を引き起こすのですね。本を読むことが他者とのつながりを求め、それが共通の夢につながっていく。そんな力を持った小説です。
2月中旬に著者のチョ・ナムジュさんが来日してイベントを行い、大盛況を呈しましたが、そのときチョさんは「この本は読者が完成させる本」と語ってくれました。つまり、物語の中で主人公のキム・ジヨンは社会に何か変化を起こそうと行動したりはしないけれども、読んだ読者が自らいろいろな声を上げてくれた。そこから、「読者の方々が共にこの小説を読むことで、作品を完成させていくのではないか」と感じた、というのです。「共に」というところが大事だと感じました。今後、この世界でどういう人たちと共に生きていきたいか。その答えに裏打ちされて、一人ひとりの夢が光ります。
最後に紹介したこの方の夢の通り、10年後20年後の韓国で、日本で、「えー、ひどいねこれ。こんなだったの?」という言葉がたくさん聞けるといいなと思います。ここに集まった投稿の全部を紹介することはできませんでしたが、夢を教えてくださった皆さん、ありがとうございました。
*1……東京医科大学で2013~2016年度に実施された医学科入試において、女性の学生や多浪生らを含む109人が合格ラインを上回りながらも不合格になっていたことが2018年に発覚。その後、他大学でも相次いで得点調整が公表された。
*2……2019年元日の新聞紙面に、女性の顔にパイが投げられた写真に「わたしは、私。」というコピーが添えられたそごう・西武の広告が掲載され、物議を醸した。
*3……2019年1月13日放送『ワイドナショー』でNGT48・山口真帆氏の暴行被害問題を取り上げた際、コメンテーターとして出演した指原莉乃氏の「誰がトップなのか、誰が仕切ってるのか、私ですら分からない。私が(トップに)立っても何もできないと思う」というコメントに対して、松本人志氏が「そこは、お得意の体を使って、何とかするとか……」と発言。
*4……2018年12月、NGT48・山口真帆氏が自宅マンションで2人の男性に暴行されたことを告発。その後、2019年1月10日に出演した公演でファンに向けて謝罪を行った。
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