社会運動、どうなったら成功?
かん:「デモ=きっかけ」というのは納得したんだけど、社会運動に「ここまでやったら成功!」というゴールってあるのかな? 国内の最近の社会運動で、先生から見て成功だなと思われる事例はありますか?
とみなが:そうですね、例えば2020年から導入されるとされていた「大学入学共通テスト」は、英語民間試験も国語・数学記述式試験も導入見送りになりました。この問題に関しては、大学教員も国会請願署名を呼びかけたり、高校生や学校関係者も文部科学省前でスタンディングをしていましたよね。メディアもこうした活動を報道していましたし、共通テストの問題点を指摘していました。どこまで運動の成果と言っていいかは難しいけど、導入見送りにまで結実したという意味では成功かな。
それから目立つところだと、#KuToo(*7)は成功と言えるんじゃないでしょうか。
*7……日本の職場で女性のみにハイヒールやパンプスを強いる企業の服装規定をなくし、選択肢が男女同じになることを目標にした活動。ツイートをきっかけに、署名キャンペーンに発展した。
かん:あれは成功なんだ! 石川優実さんがいつもアンチの方とTwitter上で戦っているイメージで、何を達成すればこのムーブメントは成功なんだろう? と少し疑問でした。
あんな:私もすごい成功だと思うな。クラウドファンディングで、9月20日の#KuToo(クートゥー)の日に、朝日新聞に意見広告を出してたじゃないですか。「私たちにもフラットシューズを選ぶ自由を」というコピーのもと、賛同者の名前がズラ~っと並んで壮観でした。私も寄付したんですけど、自分の名前が載って誇らしかったもん。他にも、靴メーカーとコラボして理想の靴を作ったり、本(石川優実著『#KuToo(クートゥー): 靴から考える本気のフェミニズム』現代書館)を出したり、イギリスのBBCが選ぶ“世界の人々に影響を与えた「100人の女性」”にも輝いたし。U2のライブでもモニターに石川さんの写真が大写しになって……お忍びで来ていたブラピも見たかもよ~。
かん:流行語大賞のトップ10にも選ばれたもんな~!
あんな:真面目な話、#KuTooをきっかけに服装規定を見直す企業も出てきたりしたし。
とみなが:かんさんは、どうなったら#KuTooが成功だと思いますか?
かん:そうだなあ……。職場でのヒールや革靴を強制するルールの全廃とかですか?
とみなが:全廃はすごくハードルが高いですね。一つの事業所でも残ってたら「全廃」と言えなくなっちゃうわけで……フランス革命ぐらいまでとはいわないまでも、相当社会をひっくり返せないと、成功と呼べなくなってしまいます。先ほどの「デモに意味があるか」という話とも繋がるのですが、社会運動における「成功」は、運動している人々、傍観者、マスコミでそれぞれ考えているものが違ったりするので、定義が難しいんです。
かん:表立って言うかはともかく、声をあげる時は仲間内で「こういう状態になったら成功とする」って最初に定義を決めるものなのかな。
とみなが:SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)なんかは明確に、安保法案を通さないということでゴールを決めて活動し、解散しましたよね。安保法案は通ってしまったから、彼らの活動はその目標から考えれば「失敗」と言えてしまうのかもしれませんが、その後の運動にもいろいろな形で影響を残しています。
あんな:当事者が何を成功と定義しているかは外野から見えにくいから、何を怒って騒いでるの? って標的になりやすいのかも。#KuTooも、本来の主張をよく知らない人達から曲解されて叩かれてたり。
とみなが:気になる場合は、シンプルに直接主催者に聞いてみるのもありです。明確な答えが返ってこないこともあるかもしれないけど、そこからいろいろ議論したり、「成功ってなんだろう?」と考えることも、運動のひとつです。
かん:聞いて教えてくれるなら、どうして最初から成功の定義を広く公表しないんですか?
とみなが:そこはジレンマがあって、例えば「1年以内にヒール強制を全廃する!」と目標を細かくしてしまうと、ハードルも高く見えちゃうし、「とりあえずその問題に関心がある」みたいな人が参加しにくくなっちゃう。目標をボカすことによって社会運動の多様な可能性を担保してる側面もあります。
あんな:やっているうちに、段階的にゴールが変わって、バージョンアップすることもありますもんね。
とみなが:そう。あえて抽象的にし、いろんな見せ方で発信し、じわじわと成功させていくのもテクニックの一つです。
かん:分かりやすくしすぎることにも弊害があるんですね。うーんノウハウの世界だ……! こういう「デモのノウハウ」って誰に教えてもらえばいいんですか? 少なくとも私は誰からも聞いたことがなかった。
とみなが:社会運動は市民が自発的にやるものなので、あまりマニュアル化しすぎるのも……という考えもあるのかもしれません。ただ、アメリカなどでは社会運動のオーガナイジング・マニュアルなどもあったりします。日本語で読める本でもいくつかあって、ケイリン・リッチの『世界の半分、女子アクティビストになる』(晶文社)、あとは『活動家一丁あがり!』(湯浅誠・一丁あがり実行委員会著、NHK出版新書)もおすすめです。これは実際の市民団体での講義をもとにした本です。さっきお話ししたロビイングに関しては、『誰でもできるロビイング入門』(明智カイト著、光文社新書)も。
いろんな人が社会運動に携わるのは、実はすごく重要で、例えばデモの申請とか、勉強会のオーガナイズとか、「その人がいないと回らない」プロセスができてしまうと、その作業を特定の人が独占することで、その人が権力を持ってしまう。あんまりいい表現じゃないけど、「デモ申請おじさん」とか「勉強会発言しすぎお姉さん」がいると、知らず知らずのうちにみんなその人の顔色を伺ってしまいますよね。
あんな:デモ申請おじさん!!
とみなが:あとは、社会運動をするにあたっては、やはり警察が怖い人は多いんじゃないでしょうか。日本のデモは機動隊も多いし、それこそ、首相演説にヤジを飛ばして排除された人のニュースが去年の夏にもありましたよね。警察のやっていることが正しいかどうか問うことも、社会運動の重要な役割ではありますが、気になる人は多いでしょう。
私たちがいきなり参加して急に逮捕されるってことはほぼないと思いますが、ベテランの活動家の人はすごく気にします。仲間が逮捕されたらどうすればいいのか? なんてことが書いてある、『救援ノート』なら存在していますよ。
あんな:そこはマニュアルがあるんだ!
とみなが:逮捕されてしまった人と、救援をする人の間にラブが生まれるなんて話も聞きました。本や手紙の差し入れで、「自分はこの人のおかげで外と繋がっているんだな」と実感するんですね。あえて政治色を出さない、「昨日はカレーを食べました」みたいな日常的なやりとりに、逮捕されてしまった人もすごく癒されるみたいです。
かん:入院してる時に看護師さんに恋しちゃう話みたい。
とみなが:それに近いかもしれない。社会運動やってる人の恋バナは色々聞きましたが、深い話がたくさんありました。『救援ノート』は新橋の救援連絡センターに売ってますよ。行ったらすごく歓迎されると思います。冤罪関連の活動などもやっていて、私はそこで「社会運動って本当に幅広いんだな」と学びました。訪問したら、なんらかの活動に勧誘されることもあるかもしれませんがお勧めです。
かん:でた勧誘! 先生、私そういうのが怖いんですよ!!
とみなが:いけない、感覚の違いが出てしまった(笑)。
<ポイント>
Q.「社会運動って、どうなったら成功なの?」(かん)
A.「何を“成功”と考えるかは、参加する人の立場によってそれぞれ。参加の幅を広げるため、あえてゴールをぼやかすことも。気になる場合は、率直に参加者に聞いてみましょう」(とみなが)
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