ライブ会場でつらい体験を打ち明ける場を設け、自分の思いを綴ったジンを交換する。ライオット・ガールがもたらしたシスターフッド
Bikini Killのキャスリーン・ハナは、体に「スラット(売春婦)」とマジックで書き殴り、時には下着姿で攻撃的なパフォーマンスを行った。「ガール」「ビッチ」「スラット」などはすべて女性を軽視した、もしくは口汚く罵るための悪口だったが、みずからそれを名乗ることでネガティブな意味合いをもエネルギーに変え、マッチョなパンク・シーンに体当たりしていったのだ。
ライブ会場では女の子たちを前方に集め、演奏後はだれにも言えないつらい体験を打ち明けられる場を設けるなど、そこが自分や彼女たちにとって安全な場所であることに務め、たがいに勇気づけ、励まし合い、彼女たちの間にシスターフッドと呼ばれる強い連帯感をもたらした。会場で配られたり、郵便で送られる手書き文字や写真の切り貼りでつくられたジンを目にした子たちは、これなら自分もやりたい、できそうだと思い、実際に行動した。
そうやってライオット・ガールはインターネットもSNSもなかった時代に、アメリカ中の女の子たちに、考えを表現することの素晴らしさ、知識や経験を共有することの重要性、それによって生まれる自信、そのままの自分を好きになることなどを伝えていった。それはまさに、草の根から始まった大きな革命だった。
もっと好きに生きていい。ライオット・ガールのスピリットが受け継がれる10曲
もう自分のことをライオット・ガールとは呼ぶ人は少ないけれど、そのスピリットは、今もわたしたちの中に脈々と受け継がれている。だれの言いなりにもならず、自分を大事にすること。もっと好きに生きていいと自分を解放すること。つまらない慣習を疑うこと。許せないことは許さないこと。傷ついた人の味方になること。イエスはイエス。ノーはノー。異なる属性の人々の声にも耳を澄まし、学ぶこと。そして、わたしたちは、なんだってできると信じること。
以下の10曲は、Bikini Killのほか、彼女たちと共通するマインドを持っていると感じるアーティストの曲を、新旧問わずにわたしが独断でセレクトしたもの。ライオット・ガールからの影響を公言している人も、そうでない人も含まれている。
1:Bikini Kill “Rebel Girl”
キャスリーン・ハナが飛び、跳ね、街でいちばんクールな女への憧れを叫んだ、ライオット・ガールの精神を象徴する基本の一曲。「レベル・ガール、レベル・ガール、あんたはあたしにとって最高 あんたを連れて帰りたい!」このレベル・ガールとは、同時代のスポークン・ワード・アーティスト、ジュリアナリュッキングをイメージしたものと言われている。
2:The Slits “Lazy Slam”
1970年代後半にイギリスで誕生した、世界初と言われるフィメール・パンク・バンド。キャスリーン・ハナはBikini Killのドラマー、トビ・ヴェイルにこのバンドのことを教えてもらい、ジャンルを超えた実験的な音のつくりに非常に影響を受けたという。こちらは再結成を経た2009年の楽曲。MVにはクロエ・セヴィニーが登場。そうか、自然な色気、媚びなさ、かっこよさは彼女に繋がっていくんだ!
3:Lesley Gore “You Don’t Own Me”
アイドル然としたレスリー・ゴーアがいきなり「わたしに指図しないで」と歌うようになったので、当時の人はさぞかしびっくりしたのではないだろうか。ライオット・ガールより前の時代の懐メロではあるが、現在もフェミニストたちのアンセムとして愛される名曲。オバマ時代は大統領選の応援ソングとして使われ、映画『スーサイド・スクワッド』ではカバー曲がマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインのテーマソングにもなった。
4:Pussy Riot “Punk Prayer”
覆面姿+色とりどりのワンピースでロシアの悪政に待ったをかけるアクティビスト・グループ、Pussy Riot。政治と宗教の癒着を糾弾すべく正教会内部でゲリラ・アクションを行った際には、プーチンや信者を激怒させ、主要メンバーのマリヤ・アリョーヒナとナジェージダ・トロコンニコワが異様とも言える二年間の獄中生活を余儀なくされた。PVは実際の映像である。
5:Grimes “OBLIVION”
はじめて歌詞を知った時は、明るくポップなサウンドとのギャップにかなり驚いた。過去に暴行(?)を受けたため夜道は後ろを振り返りながらでないと歩けない、でも暗闇でまたあんたに会えたなら復讐してやるから待ってなよといった内容。プロデュースも演奏もすべて自分でこなし、完全に我が道を突き進む天才肌だが、現在はイーロン・マスクと付き合っているため「注目されるのはマスクの彼女だから」と実力を過小評価されることにはっきりと嫌悪感を示している。
6:CHVRCHES “Gun”
グラスゴーのバンド、CHVRCHESのフロントパーソンであるローレン・メイベリーは、10代の頃の自分はBikini KillやそのレーベルであるKILL ROCK STARSに救われたと公言。2013年にはインターネット上のセクシズムに毅然とした態度で立ち向かい、驚くほど勇敢な一面を見せた。どの曲を選ぶか迷ったけれど、わたしのカラオケ十八番のこれで。
7:Janelle Monáe “PYNK”
2020年のアカデミー賞で、圧巻のオープニングアクトを披露したジャネール・モネイ。こちらのPVは女性器を思わせるひらひらしたピンクの衣装が話題に。どれほどセンセーショナルなサウンドなのかと覚悟してみれば、囁きかけるようなやわらかな声があたたかく、一度聴いたら耳をくすぐって離れない。女性であることを祝福する気持ちと、力強いシスターフッドを連想させるすごく好きな曲。
8:KAREN O & Danger Mouse “WOMAN”
いつもエッジーな雰囲気を身にまとい、堂々たる貫禄を見せつけるカレン・O。トランプ当選直後の不安な気分の中でつくられたというこの曲は、女性同士の連帯と、権力には屈しないという力強い意思を表現しているよう。スパイク・ジョーンズが長回しで一発で撮ったという映像では、パフォーマーのひとりに『レディ・バード』のビーニー・フェルドスタインもいる!
9:King Princess “1950”
デビュー曲“1950”でいきなりクイア・ポップ・スターとなった、King Princessことミカエラ・ストラウス。同性愛者であることをあっけらかんと語り、女性に対する恋心を歌ったラブソングが多い。
10:Billie Eilish “bad guy”
映画『007』の主題歌を手掛けることも発表され、今もっともエネルギッシュなアーティストと言えばやはりビリー・アイリッシュをおいて他にいない。“女性らしい”装いやふるまいを全身で拒否し、つねにビッグサイズの服を着るのは体型についていかなるコメントもさせないため。他人の体型について言及するボディ・シェイミングは、どのような内容であってももはやアウト・オブ・デートだと心得たい。
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