「Join the regeneration~一人ひとりの変化が、何かを、誰かを突き動かす~」というメッセージを掲げて
あなたが昨日買ったものは何? それはどこで作られて、どうやって運ばれてきたのだろう。そして、なぜそれを選んだのだろう?
速いスピードで流れていく日々の中で、目に留まるニュース。遠い国で起きている社会問題や、失われる自然や動物たちのこと。身近な問題のはずなのに、私たちとそれらを隔てるものは何だろう?
慌ただしい日常の中で、私たちの多くは食品や日用品、生活必需品と呼ばれるものたちを無意識に選択している。作られる過程を一つ一つ想像して選んでいくことは大変なように思えるけれど、実はシンプルな答えに行き着く。例えば、化粧品や入浴剤ははだかの肌に触れるもの。日々の喜びや悲しみを洗い流してそっと支えてくれるもの。それならば、何かを犠牲にすることなく楽しめたら、それが一番いい。
英国発のナチュラルコスメブランドであるラッシュはスキンケア・ヘアケア製品やバスアイテムを作りながら、そうした社会で起きているさまざま問題に対してアクションしている会社だ。「Join the regeneration~一人ひとりの変化が、何かを、誰かを突き動かす~」というメッセージを社員同士で共有しながら、「美しさに犠牲はいらない」という思いから動物実験に反対し続け、さらにはグローバル気候マーチやプライドパレードへの参加や、オーストラリアの森林火災へのチャリティーなども行っている。
ラッシュが取り組む社会へのアクションは特別なことではない。私たちを取り巻く環境や人や動物たちが共に生きていくために必要なことだと考えると、とても身近に感じられる。ラッシュではどんな思いを持ってアクションにつなげてるのだろう? ラッシュのBrand Studioエディター豊田圭美さんにお話を伺った。
この社会でビジネスをする限り、企業の責任として、人と動物がハッピーに暮らせる状態で、犠牲を伴わないかたちでビジネスをする必要がある
ラッシュは1995年にイギリスの最南端、ドーセット州プールで生まれて今年で25周年を迎える。ラッシュと聞くと、動物実験を行わないことや、新鮮なハーブやフルーツを素材に使っていること、紙製で「NO! 動物実験」と書かれたショップバッグの使用など、環境や生き物に優しいブランドという認識はないだろうか。
もともとは前身である化粧品ブランド「コスメティクス・トゥ・ゴー」を経営する中で、原材料の仕入れや適切な賃金など、仕事上のやりとりに疑問を持ったことから始まったのだそう。「この社会でビジネスをする限り、企業の責任として、人と動物がハッピーに暮らせる状態で、犠牲を伴わないかたちでビジネスをする必要がある」という精神性をそのときからぶれずに持ち続けながら、2020年現在、ラッシュの店舗は世界48か国にまで広がっている。
ラッシュが東京の自由が丘に第一号店をオープンしたのは1999年、日本での出店は今年で21年目を迎える。私も、オープンした頃のことはよく覚えている。色とりどりのソープとお店からこぼれる甘い香り、母の手を引いて、好きな物をねだって買ってもらうのが楽しみだった。
それから特に記憶に残っているのは、きびきびと明るいショップスタッフだ。初めて買ったのはホログラムのようなきれいなラメの入ったピンクとラベンダー色のソープ。今でも定番人気の自然由来の原材料でつくった洗顔料「天使の優しさ」は、そのスイートな名前に感動して、「えんソープ」の香りを嗅ぐと大人になった感じがした。宝石のような商品を次々に取り出して説明してくれる。活き活きとしたあのお店は誰が作ったもの?
ピラミッド型ではなくバスタブ型。「Do It Yourself」の精神性でスタッフ一人ひとりがアイディアから変化が生まれることを本気で信じること
例えば、美容に良い化粧品を売りたい場合、モデルを起用して広告を打ち、いかに化粧品が素晴らしいかをその容姿で見せることが一般的だ。しかしラッシュはそうした広告は出さずに、「ショップが最大のメディアである」と考え、ショップスタッフがお客さんのニーズを聞き取り、ぴったりと合う商品を提案できるようにコミュニケーションを最も重要としている。
通常の場合、経営者をトップに置いた「ピラミッド型」の構造がある中で、ラッシュの場合はそれが真逆になる。ピラミッドをひっくり返した「バスタブ」の形に例え、トップダウンでなく、スタッフの一人ひとりが自分のアイデアを発信できる場が作られているそう。「Do It Yourself」の精神性が根付き、そうしたアイディアから変化が生まれていくことをみんな本気で信じていると教えてくれた。
目先の売り上げだけでなく、数字にできない思いや信念を会社で働くひとりひとりが共有している。すぐに結果が出ないこともあるなかで、信じて行動することを全ての部署の人で共有している。ショップスタッフそれぞれが、商品の背景にどういう価値があるのかを自主的に学び、吸収していく動きが強制ではなく起きているのは、自分のなかで企業が掲げるメッセージに共振するものがあるからこそだろう。
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