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2020年4月4日、8日、10日(安達茉莉子)/違う場所の同じ日の日記

So happyという時もあれば、So sadな時もある

テキスト:安達茉莉子
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4月4日土曜日

とても天気が良い。

Titleさんのウェブショップで注文していた本が届いた。「通販」というより、自分へのプレゼントが届いたような気持ちで包みを開ける。

内藤礼さんの本、花松あゆみさんの作品集。
真っ白な本。『空を見てよかった』。帯も中表紙も前書きもなく、いきなり言葉が始まり、そのままずっと続いていく。
活字しかない絵本のようだとも思った。
展示会場に入っていくときのあの感覚だった。
こんなにもミニマムで、だけど体ごとその世界に入っていける。本当のアートブックとはこういうものなのかもしれない。

言葉が素晴らしかった。

『世界は持続している。私抜きであろうと。その幸福を知った時、私はもういちど私を与えられていた。』

花松あゆみさんの展示にいけなくて残念に思っていたので、せめてweb shopで購入できてとても嬉しい。
手製本の作品集、表紙を裂いていて、そこからタイトルが見えるという装丁がとても可愛い。
どこか神話のような、ダイダラボッチなどの民話のような、畏怖と親しみの間。
版画を見ている間、自分にとって大事なものを補給するようだった。そしてやっぱり素敵で、壁に飾って置きたくなる。

今は極力人との接触を控えたいけれど、食べるものがなくなってしまい、スーパーに買い出しに。
人は結構多い。コロナ前・コロナ後でなんだか人との感覚が違って見えるように思う。
ただこれもまた変わっていくのだと思う。

せっかくなので買い込んだ。
売り場からは納豆とバターが消えていた。トイレットペーパーは復活していた。
イチゴを買う。『リズムアンドフロー』でカーディーBが大きなイチゴを食べていたのを見て、イチゴを食べたいと思って買い始めたものだけど、まあ幸福度が高い。台所でイチゴの香りがする幸せよ。こんなときだから、と言い訳をしてイチゴを買う贅沢を許す。

空っぽになった棚を見るたびに、恐怖とか、焦りとか、不安感とか、そうしたものの残滓が残っているような気になるが、それは私がそう思ってるからそうなっているだけだと思い直す。自分の無意識の見方で、世界は悲しい場所にも、満ち足りた場所にもなる。
それは自転車を漕ぎ続けるように、意識してバランスを思い続けていないといけない。

帰り道、びっくりして足を止めてしまうくらい大きな飛行機が頭の真上を通った。
夕方の透明な少しかすんだ水色のような、黄色のような、それが溶け合ったような空の色と相まって、どこか不思議な光景だった。
あ、月と重なる、と思った瞬間、前を歩いていた大学生くらいの男子が立ち止まってスマートフォンを構えた。
みんな考えることは同じだ。彼はシャッターチャンスをとらえた。

両手に重たい買い物袋をぶら下げていた私はスマホを取り出せず、逃しちゃったなあ、と思いながら歩いていると、またもう一機来た。今日は何が起こっているのか。それともいつもこの時間はこうなのか?
わからないけれど、また空を見上げた。満ちていく月と大きな飛行機が重なる瞬間をただ見た。
今日2回もこんな天体ショー(?)を見るなんて、何かあるのかな、3回目があったらすごいなと考えながら歩いていると、遠くに飛行機の機影が見えた。
またか。今回はスマホを取り出した。
月に向かって構えた。

そして、飛行機は予想していたように月に重なった。

4月8日水曜日

体調が思わしくなく、大事をとって在宅勤務で過ごさせてもらっている。

部屋から出ないと、毎日に変化がなく過ぎていく。
肺炎を去年やっていることと、その時にあまりに辛かった記憶から、なるべく体調を優先させて過ごしている。
やることがあるのにできていない焦りの中、力があまり出ない。

眠れず、暖かいお茶でもいれようと台所に立ったら、ふと、Velvet Undergroundの“Pale Blue Eyes”のメロディーが頭に浮かんできた。

ものすごく幸せに思う時もあるし、ものすごく悲しい時もある、という歌詞で始まるこの曲。
それがなんだか今の自分の心境に合っていた。
私は割と穏やかに生きているけれど、時々エモーショナルでもある。
誰でもそうであるように、感情の揺らぎがあり、So happyという時もあれば、So sadな時もある。

今はSo stillという感じ。動きがなくて、しんとしている。
しんとしていて、寂しい。
曲をかけて、ルーリードの揺れるような声を聴いていたら、絵を描かなければと思った。
でてきた言葉はとてもシンプル。

“I. Miss.You.”

あなた(達)が恋しい。

外に出て、人と会ったりすることからいかに区切りや変化をもらっていたかがわかる。

本当にびっくりするほど人に会っていない。Self-Isolationの日々。
生きている人、(あるいは生きていた人が生きていた時の記憶)はそれぞれ独特の迫力を持っていると今ならわかる。
それは今そこで肉体を持って息をしているということの凄さで、それが当たり前にあったことを今感じている。
目の前でドンドコ上がっている花火のような感じで、目の前の人の心臓は鳴っている。花火と違って、聞こえないだけだ。だけどその聴こえない振動が、こちらの心臓にも響いている。音だけじゃない。換気のためにベランダの窓を開けると、春のたとえようのないくらい甘い空気が入り込んできた。肉体はいつも、たくさんのものを文字通りその身で受けているんだなあと思った。

もう何度も何度もこれを引用しているけれど。
ベルリン天使の詩の一節。

「寂しさは嫌いじゃなかった。寂しさを感じることは自分自身を丸ごと感じることだから。」

久しぶりに、寂しさを感じたまま過ごしていた。

今この瞬間、自分自身を丸ごと感じている。それはいつもよりも渋く苦いけれど、だけどリアルだ。I MISS YOUと強く感じたし、それくらいしかもはや今夜はいうことがない。
誰か特定の人ではなく、特別な時間を一緒に過ごしていた人達。
その人たちと日常的にすれ違ったり疎遠になったり、そうやって当たり前に、人と会っていることがあまりにも当たり前だった毎日に向かって、I MISS YOU ALLを送っている。(こう書くと大袈裟かもしれないけれど。)
それはすべてI LOVE YOU ALLなのだ。
I LOVE YOUと、I MISS YOUを潮の満ち引きのように繰り返しながら、寄せては返し、寄せては返して生きている。

インスタグラムに久しぶりにイラストをあげた。自分に戻ってきたような気がする。やって良かったと思った。

4月10日金曜日

NZにいるアーティスト友達から電話がかかってきてちょっと話した。
Self-Isolationはどう、という話を交換して、まりこは元々引きこもりなんだからそんなに苦じゃないんじゃない、と笑われる。
まさに息抜きという感じで、いろいろ話した。
友達がインスタのストーリーに上げていた、背景に映る街並みや自然の美しさとか、動画めちゃめちゃ楽しかったよとかそんな話をする。Creativeってこういうことかな、と思う。一瞬一瞬を楽しめること、楽しもうとすること。友達は生来の(?)エンターテイナーでもあって、いろんな人がhappy vibesをもらったのではないかなと思った。ちょっと前に、今はどんなことを思っても言っても正解がないし……とぐるぐると考えていたけれど、what is right for me、その人にとって一番rightなあり方というのは、ちゃんとあるのだと思わされた。自分の「作風」で一番最高なことをやるのだ。

自分の中で、ちょっと気持ちに風が通ったような気がして、元気が出た。

夜、スケッチブックに向かう。
詩集の表紙の絵が描けなくて悩んでいた。
コロナが自分の体感として危機感を覚えるようになった(遅すぎたと思うけれど)
少し前に原画がすべて完成し、打ち合わせもできて(今思うと奇跡のようなタイミングだった)、そこから言葉と表紙の絵を仕上げることになっていたのだけど、大きな変化を経て、この本をどういう本にすべきなのか、どうしたいのか、そういうことにしっかり接続しないと描けない、となった。
こういう時、とても苦しい。夜、机に座り、ひたすら家のドアを開けてもらうのを待っている人みたいになる。手を動かせば何かに掠るか、何か見えてくるかと思って、ノートにひたすらスケッチをしたり色探しをしたりするけれど、違うな、違うな、違うな、という感じ。無言で押し問答をしているみたいになる。

「プロセスを信頼する」という、この制作で試して見ている、約束事。
正直不安でしょうがないし、ずっと考えている。きっとこれも必要なプロセス、苦悩なのだと信じる。

「違う場所の同じ日の日記」
この日々においてひとりひとりが何を感じ、どんな行動を起こしたのかという個人史の記録。それはきっと、未来の誰かを助けることになります。
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PROFILE

安達茉莉子
安達茉莉子

大分県日田市出身。大自然に囲まれながら、本と空想の世界にトリップするインドアな幼少時代を過ごす。政府機関での勤務、篠山の限界集落での生活、イギリスの大学院留学など様々な組織や場所での経験をする中で、人間が人間であるための「言葉」を拠り所として制作を続けてきた。

2015年からは、東京都内で"MARIOBOOKS"として活動開始。セルフパブリッシングで詩集・エッセイ集、ZINEを発行している。言葉とイラストで「物語」を表現する。

note『毛布』− 言葉と絵のエッセイを連載中。

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