この春から夏にかけて、テレビではリモート収録された番組や過去放送を再編集した総集編などが多く放送されることとなりました。リモートドラマのような新しい試みが生まれる一方、『野ブタ。をプロデュース』や『逃げるは恥だが役に立つ』といったかつての人気ドラマの再放送も話題を集めています。人気俳優の初々しい姿を見ることができたり、学生時代に見た頃の思い出が蘇ったり、再放送ドラマには様々な楽しみ方があります。その時々の時代精神が読み取れるものも多く、当時の流行、風俗に触れることもできます。いまはストリーミングサービスを通じて昔のドラマも多数配信されているので、かつて見逃した作品や、人気作のなかに埋もれてしまった隠れた名作をこの機会に見てみようという人も少なくないのではないでしょうか。

本稿では現在ストリーミングサービスで見られる日本の旧作ドラマから、女性主人公たちの愛情深いつながりや、家族でも友達でもないかもしれないけど、心のどこかで通じ合うようなゆるやかで確かな連帯が物語を支える作品群を紹介します。恋愛をしてもいいし、しなくてもいい。仕事にバリバリ勤しんでもいいし、そうしなくてもいい。必ずしも視聴者に好かれるようなキャラクターでなくてもいい。完璧ではない、欠点もたくさんあるいろんな女性たちが個人として存在し、互いを認め合い、画面のなかに生きている。その様子に鼓舞されるような3作品です。

三茶の下宿に暮らす、年齢も立場もばらばらな女性たち。特別じゃなくても、目の前の生活を大事に生きようと背中を押してくれる／『すいか』

三軒茶屋を舞台にした『すいか』はドラマ『野ブタ。をプロデュース』の木皿泉さんが脚本を手掛けた2003年の作品。30代半ばの真面目な信用金庫職員・早川基子（小林聡美）の同僚、馬場万里子（小泉今日子）が3億円を横領して逃亡するという事件を起こすところから物語は展開していきます。

ひょんなことからたどり着いた賄いつきの古い下宿「ハピネス三茶」で暮らすことになった基子を迎え入れたのは、「エロ漫画家」の絆（ともさかりえ）、大家の娘のゆか（市川実日子）、学生の頃から住み続けている大学教授、通称「教授」こと崎谷（浅丘ルリ子）。職場で唯一の良き理解者だった「馬場ちゃん」の思いも寄らない大胆すぎる行動と、馬場が姿を消した後の周囲の言動に戸惑う基子は、自分の平凡さに悶々としたり、口うるさい母（白石加代子）に苛立ったりしながら、ハピネス三茶の住人との交流を通して人生を見つめ直していく。脚本の木皿泉さんは本作で『向田邦子賞』を受賞しています。

『すいか』（オフィシャルサイトより）

ハピネス三茶の住人たち、逃亡中の馬場、そして馬場を追う刑事（片桐はいり）や住人たちの行きつけのバー「泥舟」のママ（もたいまさこ）など、『すいか』には実にさまざまな女性キャラクターが登場します。年齢も社会的な立場もばらばらですが、共通するのは自分の信じる道を自分で選びとって生きているように見えること。ふらついたり壁にぶつかったりしながらも、それぞれに自分の足で立ち、小さなことでも他人や環境に判断を委ねるのではなく自分で決断して生きようとしている姿になんだか励まされる。そして彼女たちがハピネス三茶の灯りを見てホッとするように、偶然に集まった人々が互いを尊重し、痛みや喜びを分け合いながら生活を営む様子に安心感を覚えるのです。また、逃亡中にハピネス三茶を訪れ、大金と引き換えに自分が手放した「生活」を思う馬場ちゃんと、彼女と共に行ったことのない場所へ飛び立つよりもいまいる場所で「生活」することを選ぶ基子。2人の関係も大きな魅力の一つです。

『すいか』の主題歌だった大塚愛“桃ノ花ビラ”

第1話で「私みたいなもんも、いていいんですかね」と平凡な自分への疑問をこぼした基子に対し、教授はこう言います。「いてよし！」。特別じゃなくても自分の目の前の生活を大事にしながら、地に足をつけて生きていこうと背中を押してくれる作品です。Huluほかで配信中。