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新たな『若草物語』をどう見た?人生のタイミングで物語の見方は異なる

新たな『若草物語』をどう見た?人生のタイミングで物語の見方は異なる

自分の人生の手綱を自分で握る。四姉妹それぞれの生き方

テキスト:後藤美波
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四姉妹のうち、誰に感情移入した? フローレンス・ピュー演じるエイミーの魅力

『She is MEETING』の後半では、「四姉妹のうち、誰に感情移入したか?」というトピックにも話がおよびました。

原作小説において、これまで読者をもっとも夢中にさせてきたキャラクターは作者自身をモデルにしたジョーでしょう。女性であるからといって決められた枠にとらわれず、強気で芸術家としての野心があって、自分の意志に従って生きようとするジョーの姿は、いつの時代でもさまざまな困難に直面する女性たちの希望であり、夢のような存在であったと思います。グレタ・ガーウィグ監督も、ジョーに自分自身を重ね、「ずっとジョーが大好きだった。彼女になりたかったし、自分が彼女だったらいいなと思っていた」「彼女は男の子の名前を持った女の子で、作家になりたくて、野心があって、そして怒りも持ち合わせていて、彼女のそういうたくさんのことに私たちは共鳴する。彼女が私たちを自由にしてくれる」と本作のプロダクションノートに掲載されたインタビューで振り返っています。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

一方、今回のイベントでは「誰に感情移入したか?」という上述の問いについて答えが分かれました。服の着こなしやローリーとの関係性を含めて「圧倒的にジョー」という人、「4人全員が私だと思った」という人、「ジョーに憧れるけど、共感したのはエイミー」だという人。本作ではジョーだけでなく、4人それぞれが自分で自分の人生の手綱を握ろうとしている姿が印象的でした。たとえばメグは一見保守的に見えますが、ジョンとの結婚を自分の人生のために自分が望むものとして主体的に選びとっていることがわかります。

姉妹のなかでも原作と比べて今までとは違う印象のキャラクターに仕上げられているのは末っ子、エイミーでしょう。ガーウィグの脚本、そしてフローレンス・ピューのパフォーマンスは、「わがままでいたずら好きな末っ子」というイメージだけでない、エイミーの一人の人間としての複雑な側面を引き出しました。エイミーは、ジョーと同じく芸術家を夢見るものの、画家としての才能の限界を悟り、結婚することを決めます。「女性で有名な芸術家は何人いると思う?」「結婚は女の人にとって経済問題」と話すエイミーは、もうジョーと取っ組み合いをしてた頃の小さな女の子でありません。そんなエイミーの姿に「自由な末っ子だったのに、そんな風に話す大人になるということにリアルさを感じた。自由に生きてくれって願ってしまった」という感想もありました。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

またお金持ちの男性からプロポーズを断ってローリーと結婚するというエイミーの選択には、「色んなことを諦めたエイミーにそういう落としどころがあって救われた」という声や、「お金持ちではなくて愛している人と結婚するというのは、エイミーが能動的になれた瞬間」と見る意見も。フローレンス・ピューは上述のインタビューで「もしかしたら、私たちはみんなジョーよりエイミーに近いのかも」と発言しています。たしかに挫折を経験しながら、自分なりに納得して前に進むエイミーの姿に、ジョー以上に自分を重ねた人も少なくないのかもしれません。

ジョーを演じたシアーシャ・ローナンはこう語っています。「人生のどんなタイミングに立っているかで物語の見方も変わってくる。どのキャラクターにも自分を見出せる」。生きている時代は違えど、それぞれに夢を持ち、悩み、何かを妥協したり、選択したりしながら生きていく。そんな彼女たちの姿はどこにでもいる女の子の姿でもあります。だからこそこの物語は場所や時代を超えて愛され、現代のオーディエンスにも響くのでしょう。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

結婚しても、しなくてもいい

ジョーはオルコットの分身のようなキャラクターですが、オルコットが生涯独身だったのに対し、原作小説のジョーはニューヨークで出会ったベア先生と結婚します。オルコット本人は別の結末を望んでいたのではないかと考えたガーウィグ監督は、150年前のオルコットが望んだかもしれないエンディングを映画のなかに用意しました。ジョーの結婚にまつわる描写には、過去と現在を交錯させる演出の効果がダイナミックに発揮されています。

このエンディングについては「結婚してもしなくても良い、どちらを取っても幸せになる方法はある」というメッセージを受け取ったという声があがりました。それはガーウィグからのメッセージであり、ガーウィグが汲み取った150年前のオルコットからのメッセージでもあるのでしょう。本作はそれぞれの方法でそれぞれの幸せを追求する生き方を尊重する映画だと言えます。自分のためにやりたいことをやるということ。小さくても望んだものを手に入れることの切実さと大切さが詰まった作品です。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』グレタ・ガーウィグ監督(左)とキャスト

新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う公開延期を経て、ようやく日本の映画館でも封切られた『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。今回『She is MEETING』では、年齢や住む場所も異なるMembersの方々とともに本作について語り合いましたが、久しぶりの大きなスクリーンで本作を楽しんだあとは、誰かと感想を話し合ってみると映画についても、その相手についても新しい発見があるかもしれません。子供の頃のことや、結婚、お金を稼ぐことについての考え方などから、それぞれの「私の物語」が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

グレタ・ガーウィグは本作に際して、上記のインタビューでこう話しています。「私たちは道を歩く時、いつも小さかった頃の自分と一緒に歩いている。私たちはいつも、自分たちがなりたかった自分を今の自分に融合させている」。

INFORMATION

作品情報
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

2020年6月12日(金)より大ヒット上映中
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
原作:ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:
シアーシャ・ローナン
エマ・ワトソン
ティモシー・シャラメ
フローレンス・ピュー
エリザ・スカンレン
ローラ・ダーン
メリル・ストリープ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ | 6月12日(金)全国順次ロードショー

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