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政治や人種、性のこと。怒りも疑問も昇華する、刺激的でおかしなスタンダップコメディ

政治や人種、性のこと。怒りも疑問も昇華する、刺激的でおかしなスタンダップコメディ

議論を呼んだ『ナネット』や、BLMで再注目浴びる作品も

テキスト:後藤美波
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(メイン画像:『ハンナ・ギャズビーのダグラスに捧ぐ』 Ali Goldstein/ NETFLIX © 2020)

政治や人種、宗教、社会問題、芸能ゴシップなど様々なトピックが散りばめられたスタンダップコメディ

国内外の映画やドラマから、アニメやドキュメンタリー、リアリティーショーまで多彩なコンテンツが揃うNetflix。同サービスが力を入れている人気ジャンルのひとつにスタンダップコメディがあります。製作に多額の投資もしており、昨年『ハリウッド・レポーター』に掲載されたNetflix担当者のインタビューによれば、前年1年の間だけで1億5000万人近くのNetflixの加入者の約半数がコメディスペシャルを視聴しており、10本以上のスタンダップを見たアカウントは前年から59%増加したそうです。

スタンダップコメディとは、コメディアンがマイクひとつでステージに立ち、観客に話しかけるようにライブでパフォーマンスするコメディのスタイル。多くは話し手の実体験をベースにしつつ、政治や人種、宗教、社会問題、芸能ゴシップ、時事ネタ、下ネタなどさまざまトピックを織り交ぜながら喋りだけで笑いをとります。ジム・キャリー、ロビン・ウィリアムズ、エディ・マーフィー、アダム・サンドラーをはじめ、日本で俳優として人気の人々のなかにもスタンダップコメディ出身者は多くいます。ここではNetflixが誇る豊富なコメディのライブラリから女性のコメディアンのスタンダップを中心におすすめの作品をいくつか見ていきましょう。

女友達とするぶっちゃけ話のようなエイミー・シューマー、大きなお腹で強烈なトークを繰り出したアリ・ウォン

女優としても映画『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』や『エイミー、エイミー、エイミー!こじらせシングルライフの抜け出し方』などへの出演で知られるエイミー・シューマーは、女性の人気コメディアンの一人。2019年に配信された『エイミー・シューマーの成長してますが何か?』では、妊娠中にステージに登場し、自身の妊娠や結婚をネタにしたショーを披露しました。「妊娠したって人は変わらない」と観客に語りかけ、つわりの苦しみや、友人たちから受けたアドバイス、自身が妊娠中の夫の様子などを赤裸々に話します。タンポンを忘れた時の秘密の会話や、医者に妊娠中にセックスをしていいか聞いた時の話、「男性のつらさ」の話、ブレット・カバノーの最高裁判事就任反対デモで逮捕されたときに実は心配していたこと……女友達と飲み会でするぶっちゃけ話のような、親しみやすい雰囲気が楽しい1時間です。

『エイミー・シューマーの成長してますが何か?』 photo credit: Elizabeth Sisson/Netflix

同じく妊娠中の大きなお腹でステージに立ったのがアジア系アメリカ人コメディアンのアリ・ウォン。2016年の『アリ・ウォンのオメデタ人生?!』では、妊娠7か月の彼女がまさに「マシンガントーク」という形容がふさわしいパワフルさで、夫を「策略にはめた」話や過去のセックスについての話などを、強烈な下ネタと共に繰り出します。さらには自身のバックグラウンドに根ざした人種ネタや、「フェミニズムによって女が有能だってことがばれちゃったじゃん。黙ってろよ、それは秘密だったのに!」「働きたくない、家でゴロゴロしてたい」とぼやいたと思ったら、「ハーバード卒の夫の借金を自分で稼いだお金で全て精算してやった」と豪語するなど、「お下品」なだけでない構成や表現力も魅力です。同作でブレイクした彼女は2018年に『アリ・ウォンの人妻って大変!』に今度は第二子を妊娠したお腹で再び登場し、その翌年にはランドール・パークと共に製作、脚本、主演を務めたNetflixオリジナル映画『いつかはマイベイビー』が配信されました。彼女が2つのショーで見せた、大きいお腹にアニマル柄のタイトなワンピース、赤い眼鏡という出で立ちは、アジア系の人々の間で人気のハロウィーンコスチュームにもなったそう。アリ・ウォンは今年日本公開された映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』にも出演するなど活動の幅を広げています。

『アリ・ウォンのオメデタ人生?!』 photo credit: Alex Crick/Netflix

「最も議論されたコメディスペシャル」? ハンナ・ギャズビーによる『ナネット』

ニューヨーク・タイムズをして「ここ長年の間で、最も議論を呼んだコメディスペシャル」と言わしめたのが、オーストラリア出身のハンナ・ギャズビーによる2018年の作品『ナネット』。レズビアンである彼女は、1997年まで反同性愛法が存在したタスマニア州で育ちました。『ナネット』はゲラゲラ笑えるというよりも、ギャズビーのむき出しの感情と言葉に圧倒される異色のパフォーマンスです。

「もうコメディはやらない。自虐ネタでキャリアを築いたけどもうやりたくない。すでに隅に追いやられている人が自虐をしたら謙遜にはならない。ただの屈辱。自分をけなしでもしないとしゃべらせてもらないなんて」。そうステージで打ち明けたギャズビーは、女性であるがゆえ、性的少数者であるがゆえに受けたひどい仕打ちや心ない言動、さまざまな葛藤、社会や男性への怒りをネタの中に散りばめ、気づけば静まり返っている観客席に「この場の緊張はあなたたちのものだ。私は笑いでこの緊張をほぐしてやったりはしない」と言い放つ。

『ハンナ・ギャズビーのナネット』 photo credit: BEN KING

自身のトラウマをさらけ出した彼女はこうも言います。「物語が回復を支える。私の話を怒りだけの話にしたくないから、一緒に私の物語を支えてほしい」。本作は批評家の間で高い評価を獲得した一方、「これはコメディと言えるのか? TEDトークみたいじゃないか?」という声もありました。まずは一度最後まで見て、気まずさを感じたのだとしたら、その理由を考えてみてほしいです。彼女の言葉には、観客がプレッシャーを与える側ではなく受ける側になるような力強さがあります。ギャズビーは最新作『ハンナ・ギャズビーのダグラスに捧ぐ』を配信したばかり。こちらは『ナネット』よりも肩の力を抜いて観賞することができますが、「優しく家父長制をからかおう」がテーマの一つだと冒頭に説明されるように、前作と同様、社会にはびこるミソジニーや、歴史がいかに男性の目線から作られてきたか、ということをアイロニーをふんだんに含んだ知的な笑いで指摘します。『ナネット』にも登場する西洋美術ネタも健在です。

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