こんにちは、新宿ゴールデン街のバー「西瓜糖」のオーナー、はくるです。
さまざまな専門業種・趣味嗜好の人がひしめく場所で働きながら、わたし自身は服に読書に外食に……とブラつきまわり節操なく生きている。そんなノンジャンルな日常を構築する、モノ、人、場所、時間などにフォーカスをあて、目に留まったものや愛用しているものをこの連載にて紹介していきたいと思う。
この春は緊急事態宣言が発令されていたため、一周年を目前にひかえた西瓜糖は臨時休業。自室で過ごす時間が多く、出突っ張りのわたしにとって少々特殊な数か月だった。
自粛期間とはいえ、必需品を調達するために近所へ赴くことはある。そんな中で欠かせない習慣だったのが、友人である写真家・佐々木里菜ちゃんがネットプリントにて配布した壁新聞ZINE「KKPK通信」をセブンイレブンで印刷することだ。写真と短歌と日記が掲載された全50号のこの壁新聞を、わたしはすべて愛読し、現在は無印良品のバインダーにファイリングしている(ネットプリントは軽さがいい、壁に貼る読み物が作りたかった、と佐々木ちゃんは書いていたので少々後ろめたい)。
連日ぎっしりと書き綴られた日記の内容は、仕事や自炊、近しい人物との交流や時事ネタ、そして思い出ばなし。情報過多で息切れをしてしまいそうな日々の中「誰かが自分のために書いたフラットなもの」をゆっくりと読む時間がこんなにも爽快で、息抜きになるものかと驚いた。人と直接的に関係することが難しい期間でも、一人の友人がたしかにそこに存在し、わたしと同様に気分を浮き沈みさせながら過ごしているのだという手触りを得られることが、あたたかい。
壁新聞は「今私にできること」ではなく「今私がやりたいこと」をやっている。ちなみに『今私にできること』は何もないです。ニンテンドースイッチもないし、あつまれどうぶつの森もない。あるのは酸素と水と電気とガス。あと電気圧力鍋。山下達郎のレコード。成人祝いに父からもらった隕石。それだけ。
— 佐々木里菜 rina sasaki (@kirakirapinkin9) April 8, 2020
日記の中で頻繁に取り上げられるテーマのひとつに「宇宙」がある。美しい隕石コレクションを持つ父、そしてアルバイト先である宇宙関連施設(彼女はこの仕事を“趣味”だという)。これらについて語る際の彼女からは、純な生命力と愛のようなものが溢れている。思い返せばわたしは、親と趣味について語らうことや、日々の仕事についてゆっくりかえりみることを、近頃ほとんどしていない。日常の土台となりうるトピックをうやむやにせず、切実にはたらきかけてこそ、人生に張り合いがでるのではなかったか。目の前の事柄にかまけて、内観する機会が減っている自分に歯止めをかけてくれることも、わたしにとってブログやエッセイの魅力のひとつだ。
壁新聞に興味を持った方は、バックナンバーを販売しているサイトをぜひチェックしてみてほしい。
自粛期間中で印象に残っているもうひとつの出来事は、以前から思い悩んでいた肌質・体質改善のため食事制限期間を設けたことだ。西瓜糖の臨時休業中で飲酒をせず、外食をする予定も無い日々は、食習慣を変える好機だった。厳密なマクロビやベジタリアンではなく、穀物や動物性タンパク質の摂取を避ける簡易的なグルテンフリー生活ではあったが、不規則な生活に慣れてきっていたわたしにとって、体調に耳を澄ます日々は久しぶりだったように思う。
幸いなことにオーガニック専門のスーパーが徒歩圏内にあり、主食からおやつまで、様々なシーンでお世話になった。その中で特に気に入ったものは「LOVE TEA」のウェルネスセレクションだ。「スキングロウ(美肌)」や「ダイジェスティブ(消化促進)」など、四種類のアソートそれぞれに魅力的な効能がある。ハーブの個性を活かした風味、そしてカフェインフリーだという点にも惹かれ、食生活を元に戻した現在も引き続き購入している。
ところで、この食事制限中、仕事に協力していただいた友人の事務所兼自宅でごはんを共にする機会があった。こちらの事情を説明すると、すんなりと受け入れ、便乗して同じ条件の食事をたのしんでくれたので救われた。誰かが自分のため、または社会や環境のために制約のある暮らしをしている際に、大袈裟だと一蹴せずまずは知ろうとすること。わたし自身も、こういったふるまいを心掛けていきたい。お互いが過度にヒステリックになることなく、提案し、耳を傾け、実践していくことができれば、より良い日常や世界を穏やかに模索できるのではないかと思う。