劇作家イヴ・エンスラーも協力。ワイブスを演じた女優たちとワークショップ
この変化には、「男性権利団体」などの人々がボイコットを呼びかけるといった反応があったことも公開当時は話題となりました。シリーズの生みの親であるジョージ・ミラー監督は本作で虐げられてきた女性たちを描くにあたって、『ヴァギナ・モノローグ』で知られる劇作家イヴ・エンスラーをコンサルタントとして招いています。
ミラー監督は、ワイブスを演じた役者たちに自身のキャラクターをより理解してもらうため、エンスラーに協力を要請しました。世界中、特に紛争地域での女性に対する暴力についての視点を役者たちに提供することを求めたそうです。エンスラーはロケ地のナミビアを実際に訪れて役者たちと交流し、性暴力にあうということ、性奴隷にされるということがどういうことなのか、理解を深めるためのワークショップも行なったと、映画公開時の『タイム』のインタビューで明かしています。
トースト役のゾーイ・クラヴィッツは前述の『ニューヨーク・タイムズ』の記事で「女性たちの過去はあまり会話に出てこなかったけど、ジョージにとって私たちが何から逃げているかを理解することはとても重要だった」と話しているほか、イモータン・ジョーの「お気に入り」であるスプレンディドを演じたロージー・ハンティントン=ホワイトリーは「イギリスの中流階級で恵まれた幼少期を過ごした自分にとってすごく衝撃だった」とワークショップを振り返っています。
またミラー監督から映画への参加を持ちかけられた時は驚いたというエンスラーは『タイム』のインタビューで、「女性への暴力は人種や経済的な不公正と関係しており、この作品はそうした問題を真正面から扱っている」と本作を評価し、「ジョージ・ミラーはフェミニストだと思いますし、彼はフェミニストのアクション映画を作りました」と語っていました。
シャーリーズ・セロンのアクション映画への思い
フュリオサを演じたシャーリーズ・セロンは、本作では髪の毛を剃って坊主にし、大隊長として激しいアクションを披露しています。当初フュリオサの髪は長い設定だったものの、セロンの提案もあって頭を剃り、より中性的で地に足のついたキャラクターになったそう。
セロンは『マッドマックス』出演後も、諜報機関のエージェントを演じた『アトミック・ブロンド』(2017年)で数々のアクションシーンをこなしています。とくに、廃墟のビルで屈強な男性の殺し屋たちを相手に、銃や手足だけでなくそこら中にあるものを武器にして一人で立ち向かう7分半のワンカット風バトルシーンは圧巻です。また今年7月にNetflixで配信されたアクション映画『オールド・ガード』でも不死身の戦士を演じました。セロンは戦闘のプロである人物を演じることも多いですが、格闘技などのトレーニングを積んでその設定に説得力を与えていると同時に、完全無敵というわけではなく、何度も自ら攻撃を受け、傷だらけになり、弱さもあわせもった姿を見せているのも印象的です。
今年7月の『ハリウッド・レポーター』のインタビューでは「女性主人公のアクション映画では、失敗すると多くの場合セカンドチャンスを与えられない」「女性ついてはあまり寛容なジャンルではない」とコメント。『オールド・ガード』や『アトミック・ブロンド』では製作にも携わっており、伝統的に男性優位のジャンルのなかで際立つ存在感を発揮しています。人気Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』では、役のために坊主頭になることを不安に思った主演のミリー・ボビー・ブラウンが監督陣にフュリオサの写真を見せられて納得し、髪の毛を剃ったというエピソードもあり、彼女の姿は次の世代の女優たちも勇気づけていることがわかります。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、荒野で繰り広げられる激しいカーチェイスや、魅力的なキャラクターたちの戦いを楽しめる痛快なアクションエンターテイメントであると同時に、架空の荒廃した世界と自分たちが生きる現実との重なりに目をやらずにはいらいない作品でもあります。女性や弱者が虐げられる状況や、権威主義、格差の問題や労働の搾取、環境破壊などのテーマは、公開から5年が経ってもなお今日的なトピックであり続けています。そしてそんな世界では、フュリオサやワイブスたちの怒りと反逆の精神が、まだまだ必要なのだと改めて実感してしまうのです。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』予告編
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