2015年に公開されたジョージ・ミラー監督の映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。『第88回アカデミー賞』では10部門にノミネートされ、6部門を受賞するなど高い評価を獲得し、世界で多くのファンを生み出しました。
公開から5周年となった今年5月、米『ニューヨーク・タイムズ』がキャストやスタッフが撮影当時を振り返った「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のオーラルヒストリー」を掲載するなど、同作が与えたインパクトは現在も失われていません。韓国ドラマ『愛の不時着』を見た人なら、ヒロインであるユン・セリのお気に入りの映画として劇中で言及されていたことも記憶に新しいかもしれません。本稿では、同作が9月12日にフジテレビ系「土曜プレミアム」で地上波初放送されることを機に、女性キャラクターを中心に光を当てながら作品の魅力や見どころを紹介していきます。
激しいカーチェイスや巨大砂嵐……リアルな撮影にこだわった荒野の逃走劇
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、メル・ギブソンが主演を務めた『マッドマックス』(1979年)、『マッドマックス2(原題:Mad Max2:The Road Warrior)』(1981年)、『マッドマックス/サンダードーム(原題:Mad Max Beyond Thunderdome)』(1985年)に続く、シリーズ4作目の作品。約30年ぶりの新作でした。
物語の舞台は、石油や水も尽きかけた近未来の世界。限られた資源を独占し、戦闘集団ウォーボーイズを従えて恐怖と暴力で民衆を支配しているイモータン・ジョーは、荒野の要塞に独裁者として君臨しています。彼らに捕らわれ、輸血が必要なウォーボーイズ・ニュークスの「血液袋」となった元警官のマックスは、ジョーの「妻(ワイブス)」たちを連れて砦から脱出した大隊長フュリオサの追走劇に巻き込まれる。やがてフュリオサの車に乗り込んだマックスは、追ってくるジョーの軍団と激しいバトルを繰り広げながら、女性たちが目指す「緑の地」への逃走に加勢していきます。
本作は長い構想期間と、何度かの製作中断など紆余曲折を経て完成に至りました。リアルな撮影にこだわり、ナミビアの砂漠などで長期間の過酷なロケを行なったことでも知られ、ワイブスの一人、トーストを演じたゾーイ・クラヴィッツは、前述の『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューで「人生で一番大変だったことの一つだけど、その価値があったし、ジョージ(・ミラー監督)に頼まれたらまたやると思う」と語っていました。
製作陣のハードワークとこだわりの甲斐もあって、さまざまな改造車とバイクが荒野を疾走してぶつかり合う様や、巨大な砂嵐、崩れ落ちる岩壁などの描写は大迫力です。また、武器将軍や人食い男爵と呼ばれる男たちや、火炎放射器付きエレキギターを掻き鳴らすドゥーフ・ウォリアーなど独創的なキャラクターたちも本作の大きな魅力の一つです。
「私たちは物じゃない」。女性たちが主体の物語に
本作は囚われの身から逃げる女性たちと、それを追う悪の軍団というシンプルなプロットですが、その物語には現実社会に対する様々な批評的な視点を見ることができます。ジョーの存在を神のように盲信するウォーボーイズたちは、「名誉の死」を遂げることで「英雄の館」に招かれると信じており、ワイブスたちの奪還ミッションにおいても死を恐れぬ攻撃に出ます。砦では小さな子供も働かされ、女性たちはジョーの子を産むための「子産み女」として監禁されたり、資源として母乳を搾り取られるなど、権力者の所有物であり、搾取の対象として扱われています。ワイブスたちは砦から脱出する際に「We are not things.(私たちは物じゃない)」というメッセージを残していますが、階級間や性別間の不平等を温存することで成り立っているのがこの世界です。
そんななか、フュリオサはワイブスたちを解放すべく、希望を持って逃亡劇を企てます。本作はトム・ハーディが新たに演じたマックスが主人公ではありますが、物語の中心にいるのはシャーリーズ・セロン演じるフュリオサと言えるでしょう。逃亡の道中で指揮を執るのはフュリオサで、マックスは彼女やワイブスたちを手助けします。もちろん女性たちはマックスに助けられていますが、マックスもまた女性たちに助けられている。男性主体のアクション映画シリーズに連なる作品でありながら、明確に女性たちが主体の物語となっています。
- 1
- 2