たとえ他の人に理解されなかったとしても、自分だけの好きなものを持って生きてゆくのは尊いこと。She isでは、リクルートスタッフィングとBEAMSが運営するサイト「出会えた“好き”を大切に。」と連動して「調査隊コラム:好きなものの愛し方は人の数だけ。」という企画を立ち上げ、「好き」を仕事にした人や、「好き」を広める活動をしている人、「好き」なものに囲まれて生きるために工夫している人に、その工夫の方法を教えてもらいます。
第一回目となる今回は、爪を使って独自の表現を行なっているつめをぬるひとさんに「好きなものを組み合わせる」というテーマでお話をお聞きしました。新たな爪を生み出すことや、爪を通じて広がる可能性に、心からわくわくしている様子がうかがえる、つめをぬるひとさん。CDジャケットやイベントのフライヤーを爪に描く「#描いてみたつめ」や、ライブストリーミングチャンネル・DOMMUNEの配信内容を描く「今日のDOMMUNE爪」など、「爪」と「音楽」という好きなもの同士を組み合わせるアイデアが生まれた背景や、爪と音楽それぞれに対する思い、今春に独立し、爪の活動に使える時間が増えたなかで感じていることなどについて、お話いただきました。
また、事前にShe is読者の方々から募集した「好き」にまつわるさまざまな質問にもお答えいただくとともに、読者の方の「好き」なものに関する投稿をもとに描いていただいた爪もご紹介します!
<もくじ>
P1:
・「自分でつくったものを好きだという気持ちは隠さなくていいと思っているんです」
・「『やったことがない』という理由で断っていたことをやってみるのは大事。自分の得意なことって、意外とわからない部分もあるから」
・大好きな海外アーティストの来日のタイミングで、ジャケットを爪に描いて見せたら「その爪、アメージングだね!」
P2:
・「反応がなくても続けていきます。それはきっと好きなものだけを描いているから」
・「好きな対象に詰め寄るのではなく、ぽんと放置しておいて、興味のあるときだけ手を伸ばす。『好き』との距離感って、そんな感じでいいような気がする」
P3:
・つめをぬるひとさんが読者から集まった「好き」を形にするためのお悩みに答える
・She is読者の方から募集した「好き」なものを描く:「青いバラ」の塗り方
「自分でつくったものを好きだという気持ちは隠さなくていいと思っているんです」
「爪作家」として、爪を通じたさまざまな可能性を切り開いているつめをぬるひとさん。一方で、「もともと爪のことにすごく興味を持っていたわけではなかった」と言います。爪を塗ることの楽しさに目覚めたのには、どんなきっかけがあったのでしょうか。
つめをぬるひと:7年前くらいに、当時働いていた会社を辞めて。激務な会社だったので、辞めた開放感からか、退職した翌日に高熱を出して寝込んでしまったんです。本当なら、辞めた次の日って遊びたいじゃないですか(笑)。でも家から出られないので、家でできる楽しいことを何かしたいなと思って、家に2、3本だけあったネイルをとりあえず塗ってみたら、すごく楽しかったんです。
最初は単色を塗ってみただけだったんですけど、当時モデルのKanocoさんが、ブログに「Kanocoネイル」という名前でご自身のセルフネイルを載せていたのを見て。上下に線を引いたり、点を乗せるだけといったシンプルなデザインを見て、自分でもやってみたいなと思って続けるうちに、どんどん楽しくなっていったんです。
塗り始めたばかりの頃
爪の魅力にのめり込むようになるうちに、自身の爪に塗るだけでなく、詩的なイメージを喚起させるタイトルが添えられたつけ爪をつくるようになったのだそう。これまでにつくったつけ爪は、およそ740セットにも及ぶと言います。爪の活動をしていて、喜びを感じる瞬間について訊ねてみると、こう答えます。
つめをぬるひと:私、自分でつくった爪がすごく好きなんですよ。新作をつくるたびに「私、なんでこんなにかわいいのがつくれちゃうんだろう! 天才じゃない⁉︎」って思います(笑)。もちろん、もっとうまい人はほかにいると思うんですけど、自分の機嫌がよければいいから、ほかの人は関係ないなって。新しい爪をつくって「わあ、すごいのができた」っていう瞬間が、やっぱり一番興奮します。何年か経ってこの記事を読んだら恥ずかしくなるかもしれないですけど(笑)、自分でつくったものを好きだという気持ちは隠さなくていいと思っているんです。
つめをぬるひとさんによるつけ爪。余韻の残る言葉が添えられています
これまでつくったつけ爪はなんと740セットにものぼります
「『やったことがない』という理由で断っていたことをやってみるのは大事。自分の得意なことって、意外とわからない部分もあるから」
爪を生み出す楽しさに心を躍らせていることが、ひしひしと伝わってくる、つめをぬるひとさん。以前にInstagramの投稿で「爪に描くことで愛着のわくものがこの世にはたくさんある」と書いていましたが、爪に描くことは「好き」な対象とじっくり向き合う時間にもなっているようです。
つめをぬるひと:描くためにはその対象についてすごく調べますし、爪を通していろいろなことを知るきっかけができていると思います。それに、爪を塗っている間って携帯を触らないじゃないですか。その間だけはSNSから離れられるのもいいなと思います。
「東京事変2020.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ」無観客実演から着想を得てつくられた爪
今年の春には、以前の仕事を辞めて、爪を塗ること一本で活動していくことになったつめをぬるひとさんですが、爪の活動を仕事にしていくまでには、どのような思いがあったのでしょうか。
つめをぬるひと:爪の活動だけでやっていきたい思いもありながら、なんとなく、このまま趣味としてやっていくのかなと思っていた時期もありました。そもそも自分が家で集中して仕事をできるのか、不安があったんです。そんななかで、2年前くらいに、会社に所属しながらリモートワークをすることになって。その2年間で、家で仕事をすることにも慣れていったし、自分には結構向いているかもしれないと気づきました。
爪の活動で関わっている人からは、「フリーランスになっても大丈夫だよ」とか「まだ会社員だったの?」と言われることがあって、褒められると素直に真に受ける方なので、そういう言葉も嬉しかったし、家族も少しは不安に思ったはずなんですけど受け入れてくれて。その間に、つけ爪を販売してくれる委託の店舗を増やしていきながら、いろんな要因が重なって、ちょっとずつ自信がついてシフトできた感じです。
「楽しさ」や「自分に合っている」という気持ち、人からの褒め言葉など、そのときどきに感じたポジティブな力を、すっと受け入れて自信に変えていくことで、つめをぬるひとさんが進んできた様子が感じられます。まずはやってみて、それから考えるという姿勢は、会社員時代に培われたのだそう。
つめをぬるひと:「やったことがない」という理由で断っていたことをやってみるのは大事だと思っています。自分の得意なことって、意外とわからない部分もあるし、当時は「なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう」と思っていたようなことが、後で活きることはあるんですよね。自分の中で、「絶対にこれだけは曲げられない」という部分はもちろんあるんですけど、すべてを曲げないでいると、それはそれで失う機会があると思うんです。「ちょっとくらいなら曲げてもいいな」くらいの気持ちでいると、ちょうどいいなと思うことが増えてきました。
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