つきまとう「嫌われ者」のイメージ。「自分を大切にする」ことで乗り越えた
「完璧すぎる」イメージ、嘘くさい明るい性格、ひとりよがりな傾向……『ワシントン・ポスト』は当時ハサウェイが「彼女らしくいること」を理由に悪評を向けられていたと書いています。SNSでは「Hathahaters(ハサヘイターズ)」という言葉まで生まれ、「なぜアン・ハサウェイはみんなに嫌われるのか?」といった記事も。ハサウェイはその記事を見つけたときのことを振り返り、「ショックで、恥ずかしかった。今でもその恥ずかしさを感じる」と語っており、当時はそのパブリックイメージが仕事のオファーにも影響したとのちに明かしています。
ネット上の誹謗中傷は相手が有名人だからといって許されるものではありませんが、顔の見えない相手にその都度反論するのは途方もない戦いです。ドレスの着こなしや話し方、振る舞い、表情などが、何をしても偏ったジャッジの目にさらされるとしたらどんな気分になるでしょうか。ロクサーヌ・ゲイは2013年の『アカデミー賞』授賞式の際に飛び交った人種差別的、性差別的なツイートやジョークを批判したコラムで、ハサウェイに向けられた声にも触れながら「ハリウッドの若い女性は何をしても勝てない」と綴りました。
ハサウェイにとってこのような状況を切り抜ける鍵となったのは、「周囲に何を言われようと自分を大切にする」というマインドでした。一見単純にも見えるこの対処策ですが、その考えを自分のものにすることは簡単なことではありません。彼女は2014年に出演した『エレンの部屋』で、自身が浴びた批判について問われると「シャットアウトしようとしたけどできなかった。なぜできなかったのかというと、私は自分自身を愛することができていなかったからだと気づいたんです」「誰かにひどいことを言われている時に自分を愛せないと、心のどこかで彼らの言うことを信じてしまうんです」とコメント。さらにその経験を経て「私は他人に対してこれまでよりも大きな愛と思いやりを持つことができるようになりました。そしてこれが一番良かったことですが、自分自身に対してもそうなんです」と語りました。
そして37歳となった2019年には『PEOPLE』のインタビューにおいて、次のように述べています。「私は、自分を大切にすることで人生に感謝する方法にたどり着いたのです。自分でいることを謝るのではありません。その方法が10年前はわかりませんでした」
ハサウェイが、無職で酒浸り、恋人に家から追い出されたヒロインを、ボサボサ頭で演じた『シンクロナイズドモンスター』
またハサウェイは役者として確かなパフォーマンスを見せることで、嫌われ者のイメージを過去のものにしてきたとも言えるかもしれません。『インターステラー』(2014年)、『マイ・インターン』(2015年)といった大きな作品への出演だけでなく、2016年にはインディーズ映画『シンクロナイズドモンスター』で主演を務め、製作総指揮も兼任。韓国に現れた巨大怪獣と自分の動きがなぜかシンクロしてしまうという奇想天外なストーリーのSF映画において、無職で酒浸り、同棲中の恋人に家を追い出されて田舎に帰ってきた、大人になれない女性を演じました。そして2018年の『オーシャンズ8』では、「わざとらしい」「芝居がかっている」という彼女のイメージをパロディーしたかのような演技で、ナルシスティックなハリウッド女優ダフネを演じてみせ、批評家から高い評価を獲得しました。
『オーシャンズ8』では、振る舞いが「わざとらしい」ハリウッド女優に扮した
以前から社会問題についても声をあげている彼女は、ハーヴェイ・ワインスタインへのセクハラ告発と#MeToo運動の広がりを受けてハリウッドのセレブたちが立ち上げた、職場でのハラスメントや差別撲滅を掲げる運動「Time's Up」にも参加。自身もキャリアのなかで不当な扱いを受けたことを明かしつつ、変化を起こす動きの一員になるという意思を示しています。
「これまで傷ついてきた多くの人と同じように、私が経験したような最悪のことから他の人たちを守りたい。私が最良の経験だったと思っていることが当たり前の基準になるように助けになりたい」(『GLAMOUR』より)
ハリウッドでキャリアの初期からスポットライトを浴びてきたアン・ハサウェイ。いまだにバッシングされた当時のことをインタビューで聞かれるという彼女は、そのたびに「世間にどう思われるかは気にしない」としたうえで、「でもその指摘が自分に響くものであれば受け止める」とも答えています。自身も短くないキャリアのなかで理不尽かつ不当な目に遭い、失敗も成功も経験しているからこそ、自分を信じて行動すること、そして他者のために声をあげることを恐れずにいれるのかもしれません。
そんな彼女の最新主演作が、まもなくHBO Maxで配信されるロバート・ゼメキス監督の『The Witches(原題)』(日本公開は現時点では未定)。ロアルド・ダール『魔女がいっぱい』の映画化作品において魔女軍団を率いる大魔女に扮し、世界で愛される児童文学の悪役に挑みます。かわいいプリンセスから酒浸りの荒れたキャラクターまで、さまざまな女性像を演じてきたハサウェイの新たな姿が見られそうです。
『The Witches』本国トレーラー映像
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