メイン画像:『ブラック・イズ・キング』 ディズニープラスで配信中 © 2020 PARKWOOD ENTERTAINMENT
90年代から活躍するスーパースター、ビヨンセ。アメリカに生きる黒人女性としての精神やプロテストを表現し続けてきた
「フェミニストの定義を楽曲やコンサートで発信した理由は、プロパガンダではないし、世界に向けて“私はフェミニスト”と宣言したかったわけでもありません。本当の意味を明瞭にしたかったのです」「それはとてもシンプル。男性と女性の権利の平等を信じる者のこと」(ビヨンセ、2016年『ELLE UK』より)
2020年の今となっては、スタンダードと言えるフェミニズム観かもしれません。しかしながら、このような考え方を世界に広めた活動家の一人こそ、発言の主であるビヨンセと言えるでしょう。
2010年代初頭、彼女は楽曲“***Flawless”においてナイジェリアの作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェのスピーチを引用するかたちで、前述の定義を発信していきました。今よりフェミニズムへのネガティブイメージが強かった当時のアメリカ音楽界において、反発を呼ぶリスキーな選択であったことは言うまでもありません。そして後年、クィアなアーティスト、ジャネール・モネイが「私のような女性にたくさんの扉を開いてくれた」と感謝を述べたように、“***Flawless”以降、ポップミュージックには女性の権利問題を明確に提起するアーティストが増えていきました。これこそ、ビヨンセがアメリカにおいて最も尊敬されるアーティストの一人である理由です。1990年代よりスーパースターとして活動してきた彼女は、ときに大きなバッシングを受けながら、音楽を通して人々を鼓舞し、とくにマイノリティの人々が活躍できる場を創造してきたのです。
ビヨンセの2013年発表の楽曲“***Flawless”MV。作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェが『TED』で行なったスピーチ「男も女もみんなフェミニストでなきゃ」を引用
ビヨンセは、議論を呼ぶかたちで、アメリカに生きる黒人女性としての精神、そしてプロテストを表現しつづけてきました。たとえば、2016年には、ブラック・ライブズ・マター運動のプロテストを打ち出す楽曲“Formation”を国民的スポーツイベントとして中継されるNFLの優勝決定戦『スーパーボウル』でパフォーマンスしています。加えて、近年活発なのは、アメリカの大衆文化においてなかなか表現されてこなかったアフリカン・アメリカンの歴史と文化を広大に描く姿勢。“Formation”が収録されたアルバム『Lemonade』、そして「歴史的ステージ」と評された『コーチェラ・フェスティバル』公演『HOMECOMING』(CINRA.NET参照)など、さまざまな時代の文化を引き出しながら神々しいタッチで包むセンスも彼女ならでは。
『スーパーボウル』のダンサーたちはブラックパンサー党を彷彿とさせる衣装に身を包んだ
2018年『コーチェラ・フェスティバル』でのステージの全貌に迫るNetflixドキュメンタリー『HOMECOMING ビヨンセ・ライブ作品』予告編
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