韓国で2016年に刊行され、国内だけで130万部という大ベストセラーとなったチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』。韓国において1982年生まれに一番多い名前だというキム・ジヨンの半生を通して、女性が人生で直面するさまざまな困難を淡々と描きました。物語は、突然自分の母親や友人が憑依したかのような言動をし始めたジヨンの精神科医によるカルテ、という形で進行します。日本でも2018年12月に邦訳が刊行されると大きな話題を呼び、現在までに発行部数21万部と、アジア文学としては異例の売れ行きとなっています。
10月9日からはこの小説を原作とした同名映画が公開中。She isでは、「映画『82年生まれ、キム・ジヨン』を、個人的な体験から語ろう」と題し、編集部とMembersのみなさまがオンラインで語らう会『She is MEETING』にて本作について語り合うイベントを行ないました。ここではその模様をお届けします。
※本記事は『82年生まれ、キム・ジヨン』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。
個人的な記憶が喚起されたバスのシーン。「(ジヨンを助けた)ああいう女性になりたい」の声も
12回目となる今回の『She is MEETING』に参加してくれたのは、主人公ジヨンと同世代の人から学生まで、世代や住む場所も異なる女性のMembersの方々。原作を読んだ際の感想も、とても心を動かされて周りの人にも勧めたという人もいれば、共感できなかったという人、ジヨンの状況が自分に重なり、悔しさから読み進められなかったという人もいました。
原作にまったく共感できなかったけれど、映画を観て考えが変わったというある参加者は、就活で苦労している時に小説を読んだため、就職できて、仕事もできて、夫もいるジヨンが恵まれている眩しい存在に映り、「理解はできるけど自分の話ではない」と思ったそう。映画ではジヨンが苦しんでいる力関係や景色が映像として差し出されたことで、「この感覚はわかる」と感じ、「原作に抱いていた『共感できないけど共感しなきゃ』という思いを映画で回収してくれた」感覚が得られたのだと話しました。
映画『82年生まれ、キム・ジヨン』予告編
映画を見て、自分の個人的な経験が思い出されて泣いてしまったという人も多くいました。特に強く印象に残っている場面としてあがったのが以下2つのシーンです。
1つ目は学生時代のジヨンがバスの中で男子生徒に付きまとわれる場面。ジヨンの異変に気づいた見知らぬ乗客の女性が、ジヨンを追ってバスを降り、助けてくれるというシーンです。
ある参加者は次のように話しました。「女子高生の頃、ミニスカートを履いて痴漢に遭ったとき、ミニスカートを履いてる私が悪いという人はいたけど、助けてくれたり、声をかけてくれる大人は周りにいなかった。バスを降りて追いかけてくれた女の人を見た瞬間に涙腺のスイッチが入って、そのあとはことあるごとに泣いていました」。この感想には「私もずっと涙をこらえて見ていたけど、あそこでこらきれなくてそのあとは嗚咽みたいな感じだった」「あのシーンは映像化されることで原作以上に辛いと思った」という共感の声があがりました。
さらにジヨンを助けた女性について「私はあの女性になりたい。ああいう女の子がいる時に助けられる人になりたい」という意見も。映画ではジヨンの姉や、以前の会社のチーム長、同僚などに原作以上に光が当たり、意見をはっきりと言う思いやりのある女性として登場しています。「お姉ちゃんがいけてる女性になっていた」「私はあのチーム長になりたい」など、ジヨンを取り巻く女性たちに魅力を感じ、力をもらった人も多かったようです。
ジヨンの状態を知った母親の姿。「ジヨンだけの物語じゃない」
心が揺さぶられた印象的なシーンとして複数の参加者があげたもう1つの場面は、ジヨンの母親が祖母(母親の母親)に憑依した娘を目の当たりにするシーンでした。ジヨンの母親はきょうだいのなかで一番優秀であったにもかかわらず、男兄弟の進学のために自分を犠牲にせざるを得なかった人。再就職を望みながら追い詰められるジヨンの姿を見て、「私が近くに越して子供の面倒を見るから」と娘を抱きしめます。
これには「ジヨンの問題を解決しようとしたら、今度は他の人が犠牲にならなくてはいけないという状況が浮き彫りになっている」という声がありました。「お母さんがいまの仕事を辞めてジヨンの子どもを預かったら、お母さんは一生やりたいことができない。そういう状況がまだなくなってない、ジヨンだけの物語じゃないということが改めてわかる作品だと思いました」とある参加者は語ります。
また小説は淡々とジヨンの状況が綴られるのに対し、彼女の現在の状態を知った母親の視点があるのが印象的だったという人も。その参加者は、「私が働きすぎてメンタルをやられたとき、実はお母さんも不安になっていたのかも、という気づきがあった。ジヨン以外のいろんな女性の姿を見られたのは、映画を見て良かったと思った部分です」と話しました。
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