「いつも一人の女の子のことを考える。
たった一人、どこで、いつ、どんなことを考えているのか。
笑っているの? 泣いているの? 怒っているの?
一人の女の子のスリルとサスペンス。
一人の女の子の自由とタフさ。
いつだって物語のようにいかないけど、
テキパキ働いて、
ウキャウキャ遊んで暮らして、
憧れは憧れのまま、でもいつか追い越すよ。
そんな彼女たちの、
別の存在でも
同じような
私たち。
こんにちは、Girlfriend。」
世界で感じる違和感をそのままにしないで、何かを表現している人や作品は私に勇気を与えてくれる。もちろん、これを読んでいる人たちにだって勇気を与えてくれるだろう。
これはライター・吉野舞が公募によってShe isの「Girlfriend」になった女性を短いテキストだけではつまめないような「存在」まで知りたいために、好奇心のまま会いに行ってみるフォト・ドキュメンタリー。
見つけたものはひとりひとりの決して逃せない輝きと同時代に生きる女の子が感じとる日常のお話。
彼女がどんなふうに日々を過ごしてるのか、何を夢見て、何に打ち破れているのかを知りに、会いに行く
待ち合わせに遅れたのは私の方だった。久しぶりに「初対面の人と会う」ということで変な緊張の糸が一直線にピンっと張って、起きてすぐに着て行く洋服選びに難航したり、そもそも寝すぎてしまった。これから会う女の子、麦島汐美さんについて知っていることは、記事やSNSから浮かび上がる文面と写真だけ。私はそれだけに満足せず、彼女の考えてることをもっと知りたいと思った。彼女がどんなふうに日々を過ごしてるのか、何を夢見て、何に打ち破れているのか、知りたいと思った。それを知る方法は、実際に彼女に会いに行き、どんな存在かを掴むしかないってことに気付いていたので、さっそく彼女と会うことにした。
土曜の午前10時。待ち合わせ場所は新宿西口すぐの喫茶店。数日ぶりの暖かな日差し。
走りかける私を見て、静かに微笑んでくれた。目の前に「本物」の彼女がいる。
ベージュのニットにパンツ、耳元にはお花の形をしたガラスのイヤリングが太陽に当たって、きらきらひかり輝いている。かわいい。初デートをする時、世の男子はいつもこんな気持ちなのだろうか。彼女の全てを直視したいのに照れてしまい、やっとのことで見れるのは洋服の一部や後ろ姿だけ。私は恥ずかしい空気をかき消すように質問をし始めた。
吉野:今日はどうもありがとう。事前に説明した通り、この度「She is」で公募(She isは月に一回「VOICE」という名前で毎月のテーマにあった文章や作品などを誰からでも受けつけている)でGirlfriendになった人から気になった人を取材するという連載をはじめさせてもらって、その第一回目の取材が今回なんだ。
取材させてもらう前に、私の自己紹介しておかないと失礼だね。ええっと……吉野舞と申します。普段、新聞社で働いていて、社外でも物を書く仕事をしていたりするんだけど、書くっていうことより人に対して興味があるの。それは男性より女性で、有名な人よりまだあまり知られていない人に。その人が同じ時代に生きていてどんなことを考えているのか、どんな人生を歩んでいるのか気になって。この企画を使って、好奇心むき出しにどんどん女の子に会いに行ってみようと企んでいるんだ。
麦島:楽しいお誘いありがとう。プロフィール見て思ったんだけど同じ年なんだね! 会うの楽しみだった。
吉野:麦島さんの文章(『拝啓 シスターズ、来週香港へ行くことにしました』)を読んで、生きていく困難さをありのままに書いてるところにすごく共感を覚えたの。だからどんな女の子だろうってぜひ会ってみたかった。早速質問してもいいかな。今、仕事は何を?
麦島:会社員をやってるよ。後は、自分が書いた本を発表するためにどうしようか考えている時期。
吉野:出身は?
麦島:ずっと東京。
吉野:そう。「She is」の公募にはどうして?
麦島:ハードルが低かったからって言ったらわかりやすいかな。「公募」で載せてくれる所があんまり他にはないし、有名じゃなくても「誰でもいいよ」と言ってくれている気がして。
「『私の生活って地味だけど面白い部分があるんだ』って思えたの」
吉野:確か、自分で本もつくったりしてるんだよね?『文鯨』という冊子の編集をやっていることも気になっていて。
麦島:これ。今、第2号まで発売してるの。元々、大学の同期10人くらいが集まって、それぞれが今所属している学校や社会の立ち位置を考えるきっかけになればいいなと思って始めた冊子なんだけど。
吉野:これはウェブ上とかでは公開していないの?
麦島:ウェブでやってもいいやって思ったこともあったんだけど、それには多くのことをする器用さが必要で。じゃあまず一回紙の上でやってみようか、ということに行き着いて今は紙媒体で発売しているの。
吉野:いつから自分と「書くこと」が結びつき始めたの?
麦島:高校の時から。その頃から人と繋がりたい欲求もなく、何気なく書いた文章をウェブ上に載せてて、それを知らない人が「面白い!」って言ってくれて、「私の生活って地味だけど面白い部分があるんだ」って思えたの。だから、自分の生活のなかから文章の素材にできる所があったら絶対書いた方がいいなと思って。
それにこの前、どこに住んでるかも知らない女の子から「She is」の文章を読んでzineを欲しいって連絡があって、おすすめの本を教えてもらったり、お互いのzineを送り合いっこした。こんな風に、どんな文章でも発表することで、自分にも他人にもとてもいい循環になっている気がする。これがもっと大きな循環になったら、とても凄いことだとも思うし、自分が大好きな「本を読むこと」から受けてきた恩恵や救い、文化とかを次は私が生産できたらとも思って。
私も、もし何かをしたい、訴えたいということがあれば、「動け」ということにつきると思っている。動けば動くほど、多くの人にとってよいことが増えていくと思う。なるべくたくさん、遠い所へ動いていく。そうすれば自然といるべき場所に落ち着けるだろうと。
質問の中から、彼女には表現する意識のある子がときに抱きやすい「見る側」より「見られる側」に立ちたいという私欲がそれほど感じられない人だと思った。静かに微笑む人。年齢だけじゃなく、表現方法なども含め、何かしら自分と共通項のある人に出会えたことが嬉しくて、ふと机に置かれていたパンケーキを見ると、お互い同じパイナップルの形に切ってあと一口のところで残していたことも嬉しかった。
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