SNS時代だから、「なんて品がないんだろう」と感じる発言もある。でもそれに立ち向かえるのが、こっちのつくるフィクションなのだとも思います。(吉岡)
—吉澤さんの場合も、ギターを持った女性のシンガーソングライターというと、もしかしたら「等身大の気持ち」を吐露するような表現が求められやすいかもしれないけど、「物語の主人公になりきって歌う」というスタイルが吉澤嘉代子なんだ、ということがだんだん強度をもって伝わってきているんじゃないかなと。
吉澤:自分の体験を切り売りするような表現はとても強いし、衝撃がありますよね。でも16歳で曲を書き始めたときから、そこを避けてきて。曲ごとに主人公像が変わるから、まわりから「なにをやろうとしているのか」「ぶれてるんじゃないのか」って言われる時期も長かったんですけど、それが最近は「次はこういう主人公なんだね」と受け入れられるようになってきて、ようやく実を結びつつある感じがします。
吉岡里帆が撮影した吉澤嘉代子と2ショット
吉岡:うん、リスナーの一人として、ちゃんと伝わっています。でも全部見せる人より、見せない人の方が魅力的ですよね。私は、自分の体験を切り売りするスタイルも素敵だと思うけど、切り売りしてます風で実は切り売りしてない……というのも、すごく魅力的だなって。なんなら、受け取る側は実体験だと思い込んで聴いたり受け取ったりするんだけど、実はその表現者のワールドに巻き込まれているだけってことも多いですよね。
今はSNS時代だから、本当にみんな自由奔放に言葉を発しているし、なかには「なんて品のない言葉だろう」と感じる発言もたくさんあります。でもそういうものに立ち向かえるのって、こっちのつくるフィクションというか、フェイクなのだとも思います。
—フィクションやフェイクという話で言うと、吉岡さんが以前おこなわれていた、グラビアの話もうかがえたらと。前にイラストレーターのたなかみさきさんと吉岡さんのグラビアについてお話ししたことがあって、なかでも「紐の細さがすばらしい」という話をしまして。
吉岡:紐は細いに限りますよね(笑)。
吉澤:(笑)。
吉岡:あの時間もある種、文字通り切り売りの時間だったんです。だって私は水着姿なんて絶対出したくなかったし、両親からも、「本当に結婚するような人にしか見せちゃだめ」という教育を受けてきたから。それを、全国区の、ワンコインで買える週刊誌で披露して、1週間後には廃棄処分されて。こんなに脱いでも、翌週には別の女の子のことを見るんだろうなと思うと、自分のその「旬すぎる時間」みたいなものがすごく辛かったです。
吉澤:そうですよね……。
吉岡:でもこれを言うと、ファンでいてくれる方たちはすごく怒るんですよね。「応援している人をバカにしてる」という手紙をいただいたこともあります。でも決してバカにしているわけじゃなくて、やりたくないというのは私の偽れない本当の気持ちで、でも、そう思いながらも脱ぐことに意味があると思っていました。嫌なんだけど、自分の夢をつかむために、それをやってほしいと求めてくれる人がいる以上、その人たちに応えるのが私の生き方だということに抗えなかったんです。
私が本当に自分の好きなことだけをする人間だったらーーつまり、人に染まるんじゃなくて自分の色に染めたいような人間だったら、グラビアはやっていなかった。でも、誰かに染められたい以上は、これもやらなければと思ったんです。だから、自分で選んだという自信はあります。同時に、「私は最初にこういうハンデを抱えるんだ」というのもお芝居をしていくうえでの覚悟に繋がりましたし。
吉澤:ハンデと言うと?
吉岡:人は、脱いだ人を「脱いでる人が芝居している」って見るんですよ。脱がない人のことは、はじめから「この人は芝居する人なんだ」という目で見ます。その壁ってすっごく厚くて高くて、自分で自分の首を絞めるみたいな行為をしてしまったと思うこともあります。でも、時間が経って、それがよかったと言ってくれる人がいるのは、やっぱりすごく嬉しい。今となっては、グラビアは本当にやってよかったです。
吉澤:すごく素敵な話。
吉岡:グラビア撮影用の水着って、本当に冗談じゃないくらい痛いんですよ……! スタイリストさんが素敵だって思った布でつくっていて、ゴムとかが入っていないんです。
吉澤:そうなんだ、完全にフィクションなんだね。
吉岡:市販の水着はちゃんと伸びるし守ってくれるけど、私が着ていたグラビア用の水着は、人に見てもらうための水着だったから、ゴムが入っていないどころか、革紐や伸びない布でできることもあって。皮膚に食い込むくらいぐっと縛るから、次の日も跡が残っているんですよ。食い込ませることでお肉がちょっと盛り上がって、それが色気になるという。
—たんに「服を脱いだ」のではなく、文字通り、身体や人生をかけた物語をつくりあげて提示しているわけですね。
吉岡:だから、週刊誌を見るときに本当に考えてほしいのは、写真に写っている子たちは、一世一代の賭けをしているということ。消耗品になることを前提に脱いでいることも含め、いろんなことを思いながら、そこで笑顔でいるんだよっていうのをわかってほしいなと思います。
里帆ちゃんは、運命かもって思わせる人。男の人にも思ったことのない感情を抱かせる人。(吉澤)
—残り時間もわずかになってきたところで、吉澤さんから吉岡さんになにかお話したいことなどありますか?
吉澤:はい。里帆ちゃんに聞いてみたかったことがあって。
吉岡:うんうん。
吉澤:光の当たるところでお仕事をしていると、嫉妬されることが人一倍あると思うのですが、その対処をどういうふうにしているのかなって。最近これは嫉妬なのかな……? ということがあって、信頼している里帆ちゃんに聞いてみたかったんです。
吉岡:嫉妬かあ。中学生ぶりくらいにその言葉を聞いたかもしれない。嘘っぽく聞こえるかもしれないけど、今は人が羨ましがってくれるというよりは、どちらかというとむしろ、「大変だね」みたいに気の毒がられることのほうが多いかもしれません。ただがむしゃらに、毎日馬車馬のように働いているから、気づかないだけかもしれませんが……。だからそれに答えるなら、スルーに限るんじゃないかな。
吉澤:そっか、そうだよね。
吉岡:でも私は女の子が好きなので、女友達がとられたような気分になると、嫉妬するかも(笑)。嘉代ちゃんのこともそうです。ただ、好きって伝えれば伝えるほど振り向いてくれないのがこの世でして。
吉澤:里帆ちゃんこそ、運命かもって思わせるような人なんですよね。この先もう会えないかもしれないけど、今、なにか繋がれたかもって思うような感覚を共有できて、それでいいと思えるような。ゆきずりの恋でもいい、みたいな……。男の人にも思ったことのない感情を抱かせるような人だなと思います。
吉岡:わああ、人たらし……! テンション上がっちゃった。今日は面白かったな、いい時間でした。
吉澤:私もすごく楽しかったです。またお話しましょう。
- 3
- 3