いつまでもネガティブだったり不思議な気持ちでいたりするのは違うんじゃないかって。(荻野)
─このMVは、ひとりのアイドル、アイドルグループの話でありながらも、自分を更新することで夢を叶えていくという普遍的な強度を持った作品になっていますよね。
荻野:公開された日にInstagramに100件以上のメッセージが届いたんですよ。ほとんどが女の子で、NGT48を知らなかった人もたくさんいて。「諦めかけていた美容師の夢を追いかけます」というメッセージもあって、アイドルに限らず、夢を持っている方の希望になったのかもしれないって。こんなこと初めてでしたね。
山戸:すさまじいことですね、嬉しい。夢見る女の子たちにとって、とくにアイドルを目指す子たちにとっては、荻野さんは一番星のような存在として、かがやかんばかりだと思うんです。そんな荻野さんもかつては、大島優子さんの姿に、夢を見て、誰に言われなくても、ひたすら踊り続けた時間の果てに、いまはっきりと星として生まれている。誰かの背中を追って夢を見続けた先に、オリジナルな存在になっているというのはとてもかっこいいですよ。
─憧れる存在から、憧れられる存在に変わっていくなかで、プレッシャーは感じますか?
荻野:『総選挙』後、今年は環境も一緒に過ごす人も一変して、正直、今自分が何をしているのかわからないときもありました。「選抜にいるだけでなにも結果を残せていないんじゃないか?」とか「ここにいることでみんなは喜んでくれているのか?」とか。
周りの目をもともと気にするタイプだったのが、余計に気にするようになってしまって、ネットの「可愛くない」「誰?」みたいな意見を気にしては、「私はやっぱりいなくてもいい存在なんだな」と考えるほどネガティブになった時期もありました。NGT48のファンの方から「新潟を捨てた」と言われたことにもとても悩んだこともあります。せっかく選んでいただいたのに、はじめは全然自信がなかったんです。
山戸:どんな言葉を口にしても違うのというのは、言葉と身体が、ずれてしまった時期だったのかもしれませんね。空を飛びたくて、飛ばなければいけなくて、じぶんの羽がどうしてもうまく動いてくれない感じ。それを乗り越えるための物語が、自分自身のために必要だったのだと思います。今の、荻野さんの言葉を聞きたいです。
荻野:選抜どころかAKB48グループに入ることもきっと無理で、遠い憧れで終わってしまうんじゃないかと思っていたから、実際にアイドルになれても今自分がここにいることがずっと不思議でした。その延長線上で、周りの声をしっかり受け止められない部分があったのですが、今私はここにちゃんといるんだから、いつまでもネガティブだったり不思議な気持ちでいたりするのは違うんじゃないかって。先輩たちは偉大で尊敬していて、だからこそこの人たちを超えたい。しかもNGT48として自分が一番に憧れていたAKB48を超えたいと思うようになりました。
これから夢を叶えたい女の子がもしも、才能がないと落ち込んだとしても、きっとこの先、天からは何も降ってこない。(山戸)
山戸:まさに「ついていくだけじゃダメなんだ」と思えるかどうかというのは、ひとつのブレイクスルーのポイントなのかもしれません。AKB48グループのアイドルの方たちのなかでも、荻野さんが憧れてきた大島優子さんや指原莉乃さんという、リーダーシップをとれる女の子の横顔は、格好良いですよね。そのままでも愛してもらえるはずなのに、周りにいる人の気持ちを盛り上げて、誰かの希望になるためになにができるかを考えて実行できる人の美しさ。
それは荻野さんの佇まいの美しさでもあると思います。荻野さんは、まだたった19歳で、周囲に甘えることだってできたはずなのに。「今、私が舵をとるんだ」と、自ら手を挙げて、船頭としての自覚をもち、自立的に突き進む姿に、ふるえるような美しさを感じます。そういう心の在り方が、尖り続けてゆく時間の向こうに、唯一無二の女の子として、羽ばたいてゆくのだろうなって。
荻野:ありがとうございます……。
山戸:お話するなかで、オーディションを受けて苦しまれていたのは3〜4年間だったと聞いたとき、長いといえば長いけれども、例えばどんなジャンルだとしても、10年単位で芽が出ず苦しむということもあるわけだから、数字で聞くと驚かなかったかもしれません。でも、アイドルにとっての、3年間というのは、あるいは10代にとって、それは永遠のような長さなのですよね。
10代の頃は、学校で1か月くらい仲間外れにされたりすると、その1か月が、まるで地獄のような長さに感じたりしますよね。膨張してゆく地獄。あの時間感覚において、アイドルを夢見るというのは、どれだけの暗闇のなかを生きたのだろうか、と感じます。荻野さんは、その永遠のような地平から立ち上がって、たった今、爆発しないと生きられない、というパフォーマンスをされているのだと思うんです。だから、このたった今に、永遠の時間を生きている女の子たちにとって、涙が出るくらい格好良くって。
─悩んだ時間の分だけ、輝きが枯れずに継続している。
山戸:荻野さんは「努力の人」と言われていて、それはたしかに本当だと思います。けれどもやはり、いつ見ても鮮烈に光っているという、天性を秘められている。そうした彼女だけの天性を、努力でしっかり開かせたと言うのが、正しいのだと思います。そしてそれは、素晴らしいことですよね。誰が見ても天才なんだけれど、そうであるための努力を隠さないところが、これから先に続く女の子たちに、大きな夢のヒントを手渡している。
これから夢を叶えたい女の子がもしも、才能がないと落ち込んだとしても、きっとこの先、天からは何も降ってこなくて。気付いたときにはいつでも、この世に自分自身として生まれてしまったということ、それだけが最大の天啓である限り、生まれてしまった私たちがやれることは努力しかない。努力だけでしか、その天性をこじ開けることはできない。天才だけど努力をして、泣きながらも笑っていて、すごいのに自分ではすごいことに最後まで慣れなくて。そういう満ちることのない渇望が、彼女を新しい形のアイドルにしていると思います。
荻野:ああ、本当に嬉しいです。