性やセックスについて積極的に話すことが、恥ずかしいこと、つつしむべきことのように扱われすぎているな、と感じることがあります。性やセックスというのは、多かれ少なかれどこか気になる存在だし、よくも悪くも人生を大きく変えてしまう体験にもなり得るものです。だからもう少しだけ、自分の体のことや、セックスについて前向きに知り、考えてみる。特集「ほのあかるいエロ」はそんな思いからはじまりました。
シンディ・ギャロップさんは、「Make Love Not Porn(メイク・ラブ・ノット・ポルノ)」という、演技ではないセックスを集める投稿型サイトを立ち上げた起業家です。「セックスをもっとソーシャルに」と朗らかに話し、既存のポルノやセックス観を更新する彼女。その言葉とともにもたらされたのは、「私とあなたのセックス」を、どちらか一人の一方的な嗜好や、社会がつくった型にあてはめるのではなく、セックスを通してひとりひとりが幸福感や尊厳を主体的に手にするためのたくさんの方法でした。
ポルノが性教育の教科書となってしまっている。だからセックスをもっとオープンでソーシャルなものにしたい。
―「Make Love Not Porn(メイク・ラブ・ノット・ポルノ。以下、MLNP)」は、プロによる演じられたセックスではなく、世界中の人による日常のセックスの動画を集めたメディアですね。一般の人から私的なセックスの動画を集めて公開するのはとても革新的なことだと感じますが、シンディさんはなぜこういった場を立ち上げたのでしょう?
シンディ:MLNPのはじまりは私自身の体験がもとになっています。私は20代の若い男の子とカジュアルな交際をしていたのですが、決して喜ばしいとは言えない彼からのセックス中の要求に「あ、どこかで見たことあるな?」と気づいたんです。
―それって……。
シンディ:「ポルノ動画で見たな」と(笑)。インターネットが普及した今、幼い子どもでも検索一つでポルノ動画や画像にアクセスできるようになったけれども、社会のなかではセックスについてほとんど語られませんよね。それで、ポルノが性教育の教科書となってしまうことが多いんです。
―もちろんポルノと同じ行為をしては絶対にいけないということではないけれど、公に語られない分、偏った情報源から学びがちという状況はありますよね。
シンディ:だからセックスをもっとオープンでソーシャルなものにしたいと思い、MLNPを立ち上げました。MLNPは自由に投稿ができますが、明らかに演技していたり、台本があるものは省いたりと、キュレーターチームがすべて審査します。選ばれた動画に関わる人々の素性も調べますし、ビデオをアップロードするときにも5ドル支払ってもらうことで、悪質な投稿やスパムを防ぎ、サイトのクオリティーを保つようにしています。
―プロではない人たちの個人的な体験を集めることで「ひとりひとり異なるセックスがある」ということを提示しているんですね。
シンディ:そうですね。MLNPでビデオをアップロードしてくれている人の多くは、それまで裸をさらけ出してこなかった人たちです。でもこのプロジェクトは、ただ裸を共有するという話ではなくて、セックスをオープンにすることでその固定観念を変えていこうという社会的ミッション。そこに共感したうえで、自分の身体やセックスを通してメッセージを伝えている人が多いように感じます。
セックスに正解なんてない。
―それは素敵ですね。でも実際には、大切な人との大事な場面で「失敗」するのも怖いし、どうしても正解っぽいやりかたをなぞってしまうことがあるなと思っていて。
シンディ:セックスに正解なんてないということを伝えるために、まずはMLNPを日本でローンチしたいなと思っているのですが(笑)、それはおいておくとして、はじめの一歩はやはりセックスについてオープンに話し合うことがもっとできるといいですよね。
話しづらいトピックかもしれないけれど、私がこれまでの経験で確信しているのは、どんな国や文化でも多くの人がセックスに興味を持っていて、機会さえあれば話したがっているってこと。むしろ、セックスについてオープンに話せないというのは危険でもあるんですよ。
―それはなぜですか?
シンディ:正しい情報が公開されないから。自分の心や体を危険から守るためにも、まずはセックスについて身近な人と話し合い、共有する場をつくることが大切です。私は、旅行の写真や誕生日の写真を友達がFacebookにアップしたときに、「いい景色ね」とか「お誕生日おめでとう」といったコメントにプラスして「いいセックスを楽しんでね」と付け加えたりしていますよ。
―おお!
シンディ:もちろんその言葉がポジティブに働く関係性ありきの話ではありますけどね。でもそれよりももっと重要で、多くのカップルが今すぐにできるのは、ベッドのなかでお互いの正直な気持ちを話し合うこと。
―セックスに関する本音を言うのは、恥ずかしさのほかに、相手を傷つけてしまうかもしれない怖さもあるなと。そうやって先延ばしにしているうちにいよいよ言いづらくなってお互いの関係性に影響が出るというパターンも多い気がします。
シンディ:そうですよね。だけどね、まだ起こってもいない懸念を心配するよりも、ベッドのなかで想いを共有する時間をつくり、素晴らしい体験をするこれからの可能性を探ることのほうが、お互いにとってきっとずっと大切です。これはセックスに限りませんが、自分がしてもらいたいことや、してほしいことは、ちゃんと言ったほうがいいんです。
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