2人目:昭霖さん(セレクトショップ「南瓜」経営/アーティスト)
続いて私たちが訪れたのは、高雄ではめずらしいヴィンテージの洋服や小物を扱うセレクトショップ「南瓜(Nan Gua)」。そこでお店を経営する昭霖(ジャウリン)さんは、台湾で古着やヴィンテージアイテムが一般的になる8年前に、ネットショップで販売をはじめたそう。今では古着好きの間では「聖地」とまで呼ばれるお店になっています。
そんな自分の「好き」をぶれずにとことん追い求める昭霖さんに、古き良きものを今に引き継ぐということ、そして「好き」をどうやって実現してきたのかについて、武居さんと話を聞いてみました。
そもそも日本と違って台湾ではまだ『古着』はアンダーグラウンド」(昭霖)
ーお店の雰囲気が独特ですね。気になること、聞いてみたいことが山のようにあります! まず最初は……ここで販売しているのはどんな商品なんですか?
昭霖:よく「南瓜」は古着屋って言われるんだけど、一度も古着屋だと思ったことはないんです。ただ自分とパートナーが心から好きなものを集めて、売っているだけ。だからあえて言うならセレクトショップだと思ってる。
武居:具体的にどんなスタイルや服が好きなんですか?
昭霖:好きなスタイルはたくさんあるんだけど、時代で言うと1980年代の日本のバブル時代の雰囲気がお気に入り。テカテカの生地とか、どこで着るんだろう? って想像力をかきたてる洋服が多いから。
ー確かに、店内を見渡すとバブリーなムードがありますね。商品の仕入れはどこでしているんですか?
昭霖:台湾と日本のヴィンテージ衣服を取り扱う問屋から仕入れています。だから、日本にもよく行くの。
武居:日本の古着もあるんだ! 全然気づかなかったです。だって「南瓜」の洋服は日本の多くの古着屋で販売されているものとはまた違った、独自のセンスが際立っているし、状態もいいから、特別な仕入先があるんだと思ってました。
昭霖:はは、ありがとう。そもそも日本と違って台湾ではまだ「古着」はアンダーグラウンドなのね。一般的に、新しいものをどんどん買って取り入れていこうと思っている人が多い。だから、洋服を仕入れるときは、見た目が新品のように見えるものを選んでいます。そして仕入れた後も、きれいにクリーニングをして販売しています。
武居:なるほど、古着に対して日本と捉え方が違うかも。
昭霖:うん。例えば日本の古着屋は、ジーンズについたシミやペンキの汚れも、その服の「歴史」の一部としてそのまま販売するじゃない? そしてお客さんもその歴史感に価値があると思っている。でも台湾人はシミがついてたらそれはただの「汚れ」として認識しちゃうから。だから洋服の状態にはとことん気をつけなきゃ。
「自分の『好き』を追い求める生活を送るために、どんなことを頑張ればいい?」(武居)
ー自分たちの好みをあくまでも最優先させながら、手に取るお客さまのこともしっかり考えているんですね。
昭霖:高雄は台北のようにセレクトショップが立ち並ぶエリアがないんです。面白い個性的なお店はいっぱいあるんだけど、それがみな点在していて。だからこのお店に来る人は、ふらふら通りがかりに寄った人ではなく、私たちが選んだ洋服を求めて来るんですね。そうやって来てくれたからには、ちゃんともてなしたいって気持ちがある。あと、そもそも週末にしか開けていないし。
ーお店を開けていないときは、何をしているんですか?
昭霖:大好きな絵をずっと書いているよ。あとはネットショップで入った注文の処理をしたり、SNSを更新したり。友だちがやっているお店に行って、ぐだぐだお酒を飲んだりしてる(笑)。
南瓜のInstagram。時計も主力商品。
武居:すごく自由……いいですね。昭霖さんのような、自分の「好き」を追い求める生活を送るために、どんなことを頑張ればいいのでしょう?
昭霖:お金があればできるよ(笑)。はは、半分冗談、半分本当。ここで「南瓜」をオープンするまでは、毎週のように台湾各地のマーケットイベントに出店して古着を売って、顔を覚えてもらえるように頑張ったよ。あと今は、投げ銭がもらえる動画配信アプリを使って稼いでる! (昭霖さんとパートナーは)ライブ配信界隈では結構有名なの。ここでは言えないような内容を配信してる(笑)。
武居:見てみたいです……。
「自分が好きなものはこの世の中にまだまだ溢れてる。寂しいとか、わかって欲しいと感じるよりも、好きなことに徹底的に向き合ってきたんだ」(昭霖)
ー昭霖さんは自分のスタイルが確立されていますよね。そもそもヴィンテージを楽しむ土壌がなかった台湾で、どうやって理解してもらえる人をみつけたんですか? 今ならSNSとかで世界中の趣味が似ている人とつながれるけど、昔はなかなか出会うことができなかったのでは?
昭霖:ずっとずっと一人だったよ。80年代のカルチャーに惹かれている人は、学校の中でもずっと自分だけ。でも、誰かとわかち合いたいって思うことはあんまりなくて。自分が好きなものはこの世の中にまだまだ溢れていて、そのすべてを味わうための時間は全然足りないから。寂しいとか、わかってほしいと感じるよりも、好きなことに徹底的に向き合ってきたんだと思う。
扉を開けると、看板猫の次郎くんと日本からやってきたヴィンテージのお洋服たちがズラリ。どれも本当に可愛くて、しっかりとお手入れがされていて、昭霖さんの「好きなものたち」に対する愛をたっぷりと感じられる空間でした。
昭霖さんおすすめの高雄スポット
「嫦娥美容院」
3年前くらい前に店の前を通りかかったことをきっかけに行きつけになった美容室。普通の椅子の上でシャンプーが始まり、洗い終わったら流し台まで自分で歩いて行って泡を流してもらうスタイル。昭霖さんいわく「ここに来ると、タイムスリップしたかのような気分になり、おばちゃんと話すと雑談して、すべての悩みが飛んでいく(笑)」とのこと。約100TWDが目安の値段ですが、地元の人はもう少し多めに払うこともあるとか。