今こんなに仕事を頑張れているんだから、この頑張りをほかのことにまわしたら、なんでもできるんじゃないかなって。
社会人3年目の時に結婚した夫の後押しもあり、新卒から4年勤めたTOTOを退職。退職した当時を振り返り「上司に言う時は声が震えました」と笑う雪浦さん。
仕事に慣れてきた時期に、ゼロからファッション業界に足を踏み入れるというのはかなりの思い切りが必要な気がします。もやもやしながらも仕事が辞められず新しい道に踏み出せない人、なんとなく時間が過ぎていって転職の時期を逃してしまう人も多いのではないでしょうか。
雪浦:ファッション業界は才能のあるなしで成功が決まる世界だと思って、私もビビっていましたよ。でも、不安はあるけど、やらなきゃわからないからやろうって思いました。そもそも、会社に勤めるとか、仕事をすることって大変じゃないですか。でも、今こんなに仕事を頑張れているんだから、これからこの頑張りをほかのことにまわしたら、なんでもできるんじゃないかなって。
家の中のものよりもさらに身近な身にまとうものに携わり、そして自分で自由にデザインできるものづくりへと踏み出した雪浦さんは、ファッションを本格的に学ぶため専門学校エスモードジャポンに入学。
高校を卒業したばかりの学生と同じく、朝から晩まで学校で学んでいたそうです。仕事をしながら夜間に学校へ行くという選択もあったはずですが、雪浦さんはなぜ仕事を辞めてまで学校に行くことを決めたのでしょう。
雪浦:「自分でつくらなくても、稼ぐだけ稼いで、好きな服を買って着るのでもいいじゃん」って自分に思わせようとしたこともあったんです。でも、1日を占めるのって圧倒的に仕事の時間が多いし、そう考えると人生の大部分が仕事に割かれるということじゃないですか。
どうせ頑張るんだったら、自分の好きなことで頑張ったほうがいいなって思ったんです。特に今はスマホがあってメールがいつでも見られるから、業務時間じゃなかったとしても仕事の連絡が来ていたら返信しなきゃっていう気持ちになりますよね。それが好きなことに関するものであれば、実際、全然苦じゃなくて。
一番好きなファッションを生業にすることを実現した雪浦さん。「服をつくりはじめてからは、一番好きなことをずっと続けている感じです」と、今でも新鮮な気持ちを保ちながら服と向き合っていることが伝わってきます。
ずっとやっていても苦ではないぐらい好きなことを雪浦さんはどうやって見つけたのでしょうか。そして、これまで生きてきたなかで、ファッションよりも好きなものが現れたことはなかったのでしょうか。
雪浦:前職にいた頃、服の型紙がネットで買えて、それで服をつくったらすごく楽しかったんです。その楽しいという直感を頼りにファッションの道を選んだっていうのもあります。ファッションより好きなものは今まで現れなかったですね。ブランドを始めてからも、ほかのことをやってみたいなどの迷いは芽生えませんでした。
直感とか気配みたいなものはすごく大事にしているんです。なにかに迷った時、ちょっとでも違和感があったら、たぶん違うんだろうなって思うし、なんかいい感じがすると思ったらその方向に行くようにしています。
どんなに新しいことでも、前人未到というわけではなく、誰かがやっていることの応用だと考えればチャレンジできる。
そんな雪浦さんとShe isが10月の特集「なにして生きる?」のギフトとしてつくったのは「ブランペット」。ワッフル生地の優しい肌触りとペンを走らせたようなテキスタイルの雰囲気は、直感を大切にする雪浦さんの足取りの軽やかさにも似ている気がします。
雪浦:ブランケットというと毛布のイメージがあったんですけど、オールシーズン使えて、且つブランケットの安心感はそのままにしたくて。だから、厚みもありつつ、春夏に使っても違和感のないような生地を選びました。
柄は、あとから夫に言われて気づいたんですけど、電話をしている時にぐるぐるペンで書いてしまうメモっぽくないですか(笑)? なんとなく、お仕事中にこのブランケットを使うイメージがあったので、ノートやメモ帳など、机の上をイメージしました。
「肩にかけても落ちてこないように」と、袖が形づくられるように留まるボタンもついています。肩にかけて仕事をしていても、ボタンを留めてボレロのように使えば、ハグするように体を包んでくれる安心感があります。
小さくたたんで収納できるポケットがついているところも魅力的。かばんに入れてどこへでも連れて行けるかたちになるよう、細やかな試行錯誤があったと言います。
雪浦:ブランケットがしまえるようにポケットの一辺だけ長くして、ふくらみをつくったんです。当初、丸いポケットにしようと思ったんですけど、ブランケット自体をたたむと四角になるので、細かい調整を重ねてちゃんとおさまるようにしました。
雪浦さんは「このブランケットが生活の中でほっとする存在になったらいいなって思います」と、「ブランペット」に込めた思い、そして大好きなファッションに対する思いも教えてくれました。
雪浦:自分はこういう人だよとか、こういう世界が好きなんだよっていうのを、表明するのがファッションだと思っていて。私が服をつくっているのも「私はこういうものが好きで、こういう世界を好ましいと思っています」っていうのを表現したり、自分で納得するためのツールだと思っているんです。
会社は自分と好みの合う人ばかりではないと思うから、このブランケットが、さりげなく自分の空間や居場所をつくったり、自分なりに心地良いと思える世界をつくるツールであってほしいです。
「好き」から目をそらさずに、自分で道を選んで歩み続けている雪浦さん。知らない世界に飛び込むことが怖い、プライドが邪魔してなかなか踏み出せない、いろんな理由で「好き」を二の次にして日々を過ごしている人が多いのではないでしょうか。そんな人の背中を、雪浦さんは優しく押してくれます。
雪浦:みなさんそれぞれのベストを尽くしてきて今があると思うので、これまでやってきたことに自信を持つのがいいんじゃないかなって。私も、これまで企業のなかで頑張ってきた自分がいるからこそ、その「頑張り」の方向性を変えることで、新しく好きなことにもチャレンジできるんじゃないかなと思って道を変えたので。だから、みなさんも頑張りの使い方次第でなんでもできるかもしれません。
何か新しいことに挑戦するとき、たとえそれが直接的に前のキャリアとつながっていなかったとしても、仕事の基本はあまり変わらないから、これまでの経験は一つも活かせずゼロからのスタートだ、と考える必要はないのかな、と思います。どんなに新しいことでも、前人未到というわけではなく、誰かがやっていることの応用だと考えればチャレンジできる。そう思っています。
- 2
- 2