あなたは美しい人ですか? 違う、と思った人はなぜそう感じたのでしょうか。私たちのまわりには誰かによっていつの間にかつくりあげられた美の基準が散りばめられています。でも、あなただけが感じられる美しさを愛せたら、美しいと感じるものが増えたら、そして自分を美しいと思えたら、世界の見え方がいまよりもずっと素敵なものになるでしょう。
She isでは2月の特集「美は無限に」のギフトでお送りするオリジナルプロダクトとして、はくるさんと一緒に、SNSでさまざまな人の声を集めたカットソー「on a daily basis clothing」をつくりました。
今回、はくるさんと、大の電線好きとして知られるタレントの石山蓮華さんを招いて、ふたりが考える「美」、そして美しいものを美しいと言えるその強さの源について語っていただきました。
なにを見てなにを思うのかという眼差しや手引きに興味がある。(はくる)
もともと共通の友人や知人が多かったというはくるさんと石山さん。ふたりの出会いはまるで恋の始まりのようだったと話します。
石山:共通の知り合いも多かったんですけど、私がTwitterを一方的にフォローしていて。この人おもしろいな、会ってみたいなと思って、3年前くらいに新子(はくるさんが働く新宿・ゴールデン街のバー)に飲みに行きました。
はくる:なんか恋の始まりみたいな気がしたよね。ボトルが入ったら瓶に名前を書くんですけど、酔っ払った蓮華ちゃんが「私が書きたい」って言い出して。承諾すると、マッキーを口に咥えてカッとふたを外したんです。その所作が異様にあざやかで、かわいい! 逸材きた! って思いました。都合よく忘れ物してくれたので、次の日に会いに行って。
心を射抜かれるような出会いから親交を深めていったはくるさんと石山さん。そんなふたりがこれまでに「美」を感じてきたものとはどんなものなのでしょうか?
はくる:私が美を感じるのは「言葉」です。なにを見てなにを思うのかという眼差しや手引きみたいなものに興味があります。たとえばレビューサイトの言葉とかコンペの審査員のコメント、エッセイなんかもそうですね。形容詞や語彙のバリエーション、感性の出し方としての言葉に、惚れぼれすることが多くて。愛のあるところに言葉が宿ると思っているんです。
そのなかでも「読んでいる途中に息切れします」というほど美しさを感じるのが、作家・多和田葉子さんの言葉なのだそう。
はくる:ひとつひとつの事柄をこれだけ的確に言い表わせるものかと驚くんですよね。多和田さんの言葉はオリジナルの言語体系でありながら、人に伝わるすごさがある。トーベ・ヤンソンもそうで、小説によっては1コマ、1センテンスに対して形容詞が過剰なくらい用いられるけど、ディテールとして機能していて、散漫にならない。それって文章や対象に敬意と愛があるからできることなんじゃないかなと。そういう言葉に出会うとうれしいです。
メディアのなかでの美の基準ってなんだろうっていうのは、ずっと考え続けています。(石山)
「私も多和田葉子さんの文章、好きです」と話す石山さんは、小さい頃から「曲線」に美しさを見出していたと言います。
石山:子どもの頃から、「曲線」とか「粘度の高い液体」のモチーフがすごく好きなんです。マンガ雑誌に載っていた、平面に描かれた曲線を、なんだかすごくいいなと思うようになって。そこから、ゲームの『クーロンズ・ゲート』のような、こわくてちょっと薄暗い、光のあたるところから少しずれた世界、普段見ている世界とは別のものに美しさを感じるようになりました。『ガロ』に掲載されていた古屋兎丸さんのマンガは、美少女、曲線、ちょっと暗い、こわい、みたいな私の好きな要素が詰まっていて、すごく好きです。
はくる:まさに『ガロ』は蓮華ちゃんの好きなものが詰まっている感じがあるね。少しグロテスクな要素もあったり。
石山:グロテスクとそうじゃないものの狭間にすごく惹かれるんだよね。街を歩いていてもそういうものが浮き出て見えるんですよ。たとえば植物に詳しい人は、目に触れた街路樹の名前がきっと浮き出ているはず。そんなふうに街を見ているので、電線が浮き出て見えて、美しさを感じたんです。
平面の天球に曲線や直線が引かれているのがおもしろくて。しかも、その線のなかに電気が通じている。生きている感じがしませんか? 都市の血管や神経みたいだなと思って……電線は無機物と生物の狭間に近いんじゃないかなと感じているんです。あと電線は「用の美」ですよね。必要不可欠なインフラだから、設計者はだれも美的観点からつくっているわけではないのに、結果的に独特の美しさが生まれていていいなと思います。
石山さんのInstagramでは美しさを感じた電線の写真の数々が「#いい電線」のハッシュタグとともに投稿されている(Instagramを見る)
そんな美しさを感じている石山さんに対して、はくるさんはある希望を抱いているそう。
はくる:蓮華ちゃんは芸能系のお仕事で、しかもレギュラーで地上波の朝の番組のレポーターとしても活躍していて。均衡のとれたコンサバティブな美しさが行き渡った世界のなかで、本人の感性が別のベクトルを向いている。目線もすごくとがっていて好奇心旺盛だし、そういう人が地上波に出ているって希望だと思います。ギャップとバランスのとり方がおもしろいですよね。
石山:仕事では、自分のなかにあるいろんな要素の中から、そうした世界の型にはまる部分を取り出して届けているところがあります。でも、それが結果的に誰かの美の基準を狭めてしまうこともあるんだろうなと思うこともあって。テレビに出ている女の子たちって、実際に会ってみると思ったよりもすごく細かったり、異常に綺麗だったりする。メディアのなかでの美の基準ってなんなんだろうっていうのは、ずーっと考え続けています。
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