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Rina Sawayama「日本人の女性は怒らない」というステレオタイプを覆す

Rina Sawayama「日本人の女性は怒らない」というステレオタイプを覆す

苦しみから救ってくれたコミュニティとセラピーの存在

2020年3・4月 特集:どこで生きる?
SPONSORED:Rina Sawayama『SAWAYAMA』
インタビュー・テキスト:後藤美波 通訳:松田京子 編集:竹中万季
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ケンブリッジで出会ったベストフレンドたちは私の「Chosen Family(選ばれた家族)」です。

─ケンブリッジ大学では人種差別が激しかったと『情熱大陸』でも仰っていました。

Rina:はい。まずアジア人というだけで、みんなと同じように受験したのではなく留学生だと思われて。つまりお金持ちで、お金があるからここに入学したのだと思われる。私はイギリスの公立学校から来たのに、留学生の集まりみたいなものにしょっちゅう誘われたりもしました。留学生じゃなくて、大学のコミュニティの一部になりたいのに。

─多様性があったロンドンの中学とは全く違う環境だったのですね。

Rina:大好きだった中学では音楽関係のコミュニティがたくさんあったんです。公立学校だったんですが、良い音楽学部があって、教会などでたくさんパフォーマンスする機会がありました。文化の違いがダンス、演劇、音楽に溶け合って体現されているような環境でした。それがすごく恋しくて。

それまでは、学校で自分のことを説明する必要はなくて、すぐにコミュニティに入ることができました。でもケンブリッジでは、白人のイギリス人の男性とかが、なぜ私がそこにいるのかをいちいち「理解」しようとしてくるんです。

─大学でそういった苦しい状況に置かれて、どのようにサバイブしていったのでしょうか?

Rina:私がLGBTQのファミリーに出会えたのもケンブリッジにいたときなんです。ケンブリッジでは全く楽しい日々を送れていなかったんですが、そんな時にベストフレンドたちに出会えました。彼らは私の「Chosen Family(選ばれた家族)」です。

─同名のアルバム収録曲でも歌われているのは、その時に出会った人々だったのですね。

Rina:彼らとの出会いがすべてを変えました。クィアコミュニティ、LGBTコミュニティ、人種的なコミュニティ……なんでも良いんですが、コミュニティがあることの大切さに気づいたんです。

インターネット上にはネガティブな感情がたくさん渦巻いているけど、私は自分の音楽を通じてポジティビティを広めたい。

─コミュニティを見つけたり、新しく入っていくことって勇気がいることでもありますよね。特に若い時だと、自分がいる場所がすべてで他に選択肢がないんじゃないかって思ってしまったり。そうした人たちはどうしたら居場所となるコミュニティを見つけたり、築いたりできると思いますか?

Rina:私はやっぱりオンラインから始めましたね。昔は好きなバンドの掲示板にいって色んな書き込みを見て、そこにいる人たちとライブで実際に会ったりしていました。

─ネット上で似た興味を持っていそうな人を探すところから始めるということですね。

Rina:そうですね。オンライン上でオープンでいることを練習するというのも大事なんじゃないかな。好きなアーティストやYouTuberたちの動画のコメント欄に書き込んだりするみたいなところから始めてみる。

ただもちろん安全な方法でやってほしいです。最初は匿名で始めても良いかもしれないし、あまり自分の情報をさらけ出しすぎないで。インターネット上で適切な場所を、安全に探していくっていうやり方がおすすめですね。

─Rinaさんの音楽を通じたコミュニティもたくさん生まれているんじゃないでしょうか。

Rina:私自身のことでいえば、「Alone Together」というリストバンドをライブ会場で無料配布する企画をやりました。一人でライブに来た人がリストバンドをつけて、それを目印に他の一人で来たファンと交流できるというものなんですが、ファンはすごく喜んでくれましたね。

離れた場所に住んでいる私のファンが、クィアであることだったり、同じユーモアセンスを持っていることだったり、そういう共通点で絆を深めて、交流しているのを見てすごく嬉しかったです。とても美しいことだなと思いました。インターネット上にはネガティブな感情がたくさん渦巻いているけど、私は自分の音楽を通じてポジティビティを広めたい。人々を幸せにしたい。私のやりたいことはそれだけです。

ピンクのリストバンドを身に着けている「Pixel」(Rinaのファンを彼女はそう呼んでいる)と出会ったら「hi」と声をかけようとSNSでも呼びかけていた

“STFU”のPVの冒頭シーンが象徴しているのも、「日本人の女性は怒らない」っていうステレオタイプなんです。

─実際に、自身に向けられたマイクロアグレッションに対する怒りをテーマにした“STFU”や、楽曲の公開と共にご自身がパンセクシャルであることを明らかにした“Cherry”のPVのコメント欄にはたくさんの共感のメッセージがついていますね。

Rina:“STFU”のPVは私にとってセラピーみたいなところがありました。コメント欄には「オーマイゴッド。これって私が毎日感じていることだよ」っていうコメントもありましたね。“Cherry”でもたくさんのメッセージをもらいました。“Cherry”を聴いて、誰かがカミングアウトする勇気を持ったって考えただけでもすごいことだなと思います。

Rina Sawayama “STFU”

─“STFU”はヘイトに対してユーモアで返すという楽曲ですよね。PVでもコメディーに昇華しながらも、欧米で日本人の女性としてRinaさんが経験してきた多くの偏見に対する怒りが痛烈に感じられました。

Rina:“STFU”のビデオの会話は、すべて実際に私が言われたことです。怒るっていうことはすごく重要なことだと思います。怒りを表したっていいんですよ。

“STFU”のPVの冒頭シーンが象徴しているのも、「日本人の女性は怒らない」っていうステレオタイプなんです。あれは、ああいう悪気のない差別的な言動を向けられた時に私がいつもやっていること──つまり何も言わないっていうことなんですけど。そこで怒るっていうのは、ある種、私の妄想なんです。

それと、かつては「ハリウッドで活躍するアジア人はルーシー・リューだけ」みたいなところがありましたよね。「怒り」という意味では、『キル・ビル』や『チャーリーズ・エンジェル』の彼女はめちゃくちゃイケてて、素晴らしかった。“STFU”ではそんな彼女に少しチャネリングした部分もあると思います(笑)。

何年間もかけて作られてきたアジア人のステレオタイプというものがあって、それとは違うものを作りたいと思っています。

─ご自身の音楽や活動で、そういったアジア人へのステレオタイプを壊していきたいという思いもありますか?

Rina:私は初めから、ステレオタイプにはまった活動をするつもりはなかったです。何年間もかけて作られてきたアジア人のステレオタイプというものがあって、それとは違うものを作りたいと思っています。

たぶんステレオタイプに当てはまらない人に1人か2人出会うだけで、偏見が少し壊れたりすると思うんですよね。実際、“STFU”のPVのコメント欄に、「うわ、これ俺だ。めちゃくちゃ恥ずかしい」っていう無意識にステレオタイプに当てはめていた男性からのコメントもありました(笑)。

─いまは欧米で活躍するアジア系のアーティストや俳優もどんどん増えていて、もともとあったステレオタイプが覆される場面も多そうですよね。

Rina:そうですね。インタビューでもよく「アジア人の活躍が『十分』でないこと」について聞かれるんですが、状況は変化していると思います。もちろんそれでも「十分」だと言うつもりはないですし、何人いたら「十分」なのかもわからないですが。NIKIをはじめとする88risingのみんなやLIM KIM、Mitski、Japanese Breakfast、ヘイリー・キヨコ……みんなアジアンですよ。だから確実に変わってきています。

PROFILE

Rina Sawayama
Rina Sawayama

ロンドン在住。幼少期から歌うことが大好きだった彼女は、13歳から音楽制作を始動。ケンブリッジ大学卒業後から本格的にアーティスト活動を始め、作詞・作曲、プロデュース、ミュージックビデオの監督をするなど多才。The FADERで「2017年の知っておくべきアーティスト」、DAZEDの人気企画「DAZED 100(次世代を担う100人)」に選出された。VOGUEやi-Dなどファッション誌でモデルを務める他、VERSUS VERSACEやadidasなど、ファッションブランドのキャンペーンにも起用された。2019年6月には情熱大陸に取り上げられ、「ネクスト レディー・ガガ」と称される。

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
『SAWAYAMA』

2020年4月17日配信開始

1. Dynasty
2. XS
3. STFU!
4. Comme des Garçons (Like The Boys)
5. Akasaka Sad
6. Paradisin’
7. Love Me 4 Me
8. Bad Friend
9. Fuck This World (Interlude)
10. Who’s Gonna Save U Now?
11. Tokyo Love Hotel
12. Chosen Family
13. Snakeskin
14. Tokyo Takeover

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