一緒に住んでると、お互いの良いところが見えなくなったり、お互いに感謝の気持ちを忘れたりしますよね。
─1stアルバム『SAWAYAMA』についてのお話も聞かせてください。今作は「家族とアイデンティティー」というすごくパーソナルな事柄を主題にしていますよね。いまなぜこのテーマを掲げたのでしょうか?
Rina:“Dynasty”がアルバムのなかで一番最初に書いた曲で、書き始めたのは確か2年前だったと思います。私の家族のドラマをメロドラマみたいにして描きたい、みたいな気持ちもあって(笑)。だからこんなにドラマチックな曲になりました。
─ご両親の離婚からインスピレーションを得て作られた“Dynasty”が、このアルバムの始まりだったのですね。
Rina:はい。この曲は昨年9月に一度、完成してたんです。でも私がDirty Hitとサインした時に、彼らが「この曲はすごく良い。もっと良くしよう」と言ってくれて。それでスタジオに入ってエンジニアやドラマー、コーラスの人たちと再びレコーディングをして、最高な仕上がりになりました。
前作のEPでは全部のメロディーと歌詞を私が書きましたが、一人ですべてをやるのってすごく大変なんです。今作では素晴らしいプロデューサーやエンジニア、ミュージシャンと一緒に取り組むことができて、彼らが私のビジョンを最大化する助けとなってくれました。彼らの存在があったら、よりパーソナルなことが書けたというのはあると思います。
─アルバムの制作過程では、お母さんとたくさん話したり、ファミリーヒストリーを辿るといった作業もされたそうですね。その過程を経て、ご自身のルーツに対する考えに変化はありましたか?
Rina:母に対する感謝の気持ちは以前よりも大きくなったと思います。私は15歳まで母と同じベッドルームをシェアしていました。距離が近すぎたんですよね。シングルマザーだったし、周りで話してる言語とは違う日本語で私に話しかけたり、ランチの時も他の子みたいにサンドイッチがいいのに、弁当を持たせたりするのも恥ずかしくて。たくさんの文化の違いがありました。私たちは15年、もしかしたら20年くらいかな、ずっと対立しながら過ごしてきました。
でもいまはすごく仲が良いんです。アルバム制作を通して母の体験を検証することができて、彼女の苦労がわかりました。イギリスに住んで、私を養って、必要なものを与えてくれていた。私はそれを当たり前だと思っていたんですよね。
─いまはお母さんに対してどのような思いを抱いていますか?
Rina:母は私が感謝していることを知っているし、母も後悔があるみたいです。過去にたくさん喧嘩したからだとも思いますが、いま私たちは互いにすごくオープンな関係でいられているんです。いま家族と過ごす時間はすごく美しいものですね。母は私にとって絶対に一番重要な存在です。
─アルバムはお母さんも聴かれたのでしょうか?
Rina:はい。最近聴かせたんですが、彼女は気に入ってくれて8時間ぶっ通しで聴いたそうです(笑)。それを聞いて嬉しかったし、私が家族との関係を変化させたことのポジティブな結果かなと思います。
─お母さんのことを理解できるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
Rina:たぶん彼女がイギリスを離れたからっていうのが大きいと思います。私たちは同じ家で、ずっと物理的にすごく近い距離にいましたから。私はその家に27歳まで住んでいたんです。
でも母が引っ越して、お互いに考える余裕が生まれました。一緒に住んでると、お互いの良いところが見えなくなったり、お互いに感謝の気持ちを忘れたりしますよね。大変な時期に私が母を支えていたこともあって、それを母はわかっていなかったと思いますし、その逆もあったと思います。彼女はずっと私に「自立した人間になってほしい」って言っていたんですが、いま大人になってみて、自立するのに何が必要なのかがわかりました。
ポップこそが、私がポジティビティを広めるために手にすることができる、一番大きなプラットフォームなんだと思います。
─日本とイギリスという2つの文化の文脈で自分自身を理解するということも、本作のテーマになっているそうですが、2つの異なる文化を自分自身のなかに落とし込んでいくというのはどのような作業でしたか?
Rina:たくさんセラピーに行ったというのが正直なところです。自分の過去に何かあったり、家族との問題を抱えていたりしたら、カウンセリングやセラピーに行くことも大事だと思います。
私はケンブリッジで、政治学、心理学、社会学を学びましたが、その学部に入ろうと思ったのは、両親の離婚を理解できなかったからなんです。私には人間の行動が理解できなかった。でもそういう疑問を学術的に説明してくれている本に出会って、その本を読んだことがすごくセラピーみたいな体験だったんです。それが人間の行動に興味を持ったきっかけでした。
─セラピーやセラピー的な体験を通して、自分自身やそれまでの経験を理解していったのですね。
Rina:そうですね。あとは正直で、オープンでいることかな。人生は本当に短い。どんな状況にいたとしても、常に感謝すべきものがあると思います。感謝して生きること──例えばいまは健康でいることも感謝すべきことですよね。
自分よりも恵まれていない人の存在を常に考えることも大事です。つまり、人間の行動を理解しようとするってことがたぶん一番の方法じゃないかな。他人や家族、友人、世界、政治……色んなことを知ることに繋がると思います。
Rina Sawayama” Comme Des Garçons (Like the Boys)”
─あまり日本はセラピーに行く習慣が根付いていなくて、弱さを他人に見せることに慣れていない部分もあるかもしれません。Rinaさんはご自身のパーソナルな物語を自分のアルバムでオープンにすることに怖さやリスナーの共感を得られないかもしれないという不安はありませんでしたか?
Rina:良い質問ですね。私にとって一番大事なことは音楽が良いということです。それが第一。どんなコンセプトだろうと、歌詞で何を言っていようと、音楽やメロディーが良くなかったり、もしくはポップでなかったら意味がないと思っています。
─歌詞の内容にかかわらず、音楽が良ければ人を惹きつけられるということですね。
Rina:たとえば“XS”は単純にポップソングとして聞こえますよね。これはメタル風にしてアグレッシブにしたくて、それが歌詞で言っていること──資本主義への批判──を反映してるんです。でも多くの人にはただポップな曲として聴こえると思うし、それが美点だと思うんです。それが私の望んでいることです。
コンセプトや歌詞に力を入れすぎると聴く人を遠ざけてしまうことがあるかもしれないけど、メロディーやフィーリングがキャッチーであるようにソングライティングに注力して、ポップに仕上げれば、人は聴いてくれると思う。私はアルバムのすべての曲でメロディーやソングライティングに自信を持っているし、だからこそいろんなジャンルを試す自信もできました。ソングライティングがとにかく大事です。
Rina Sawayama『SAWAYAMA』Spotifyで聴く
─あくまでポップのフィールドで表現をするということもご自身にとっては重要ですか?
Rina:うーん。私は他のフレームワークを持っていなくて、ただポップが大好きなんですよね。だからそれが私が表現する唯一の方法というか。
私にとってポップというのは特定のジャンルではなく、メロディックなものなんです。それに一番多くの人にリーチできるのがポップかもしれないとも思う。私はポップの世界でこんなに大きなプラットフォームを持つことができて恵まれていると思います。ポップこそが、私がポジティビティを広めるために手にすることができる、一番大きなプラットフォームなんだと思います。
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