<Where do I belong?(私の居場所はどこ?)>。Rina Sawayamaさんの1stアルバム『SAWAYAMA』の収録曲“Chosen Family”はそんな一言から始まります。
1990年に新潟で生まれ、4歳の時にお父さんの転勤でロンドンに移住したRinaさんは、両親の離婚後もお母さんとロンドンに残り、13歳の時から音楽制作を開始しました。ケンブリッジ大学卒業後から本格的にアーティスト活動を始め、モデルとしても多くの世界的な雑誌に登場。2019年にはTBS系『情熱大陸』で密着されました。
大学で人種差別的な言動を受けたというRinaさんは、LGBTQのコミュニティと出会い、居場所を見つけることができたのだそうです。自身が家族だと思っているクィアな友人たちに捧げられた“Chosen Family”では、<We don’t need to be related to relate, we don’t need to share genes or a surname(共感のための共感はいらない/苗字や遺伝子を共有しなくたっていい)>と歌います。血の繋がりがなくても、姿形が似ていなくても、ファミリーになれる。あなたを愛してくれる人がいる。家族や友人、コミュニティから疎外され、居場所をなくした人々に向けて、Rinaさんはそう語りかけます。
The 1975などが所属するイギリスのレーベル「Dirty Hit」から、4月17日に配信リリースされた『SAWAYAMA』は、イギリスと日本、2つの文化をバックグラウンドに持つ彼女の「家族とアイデンティティ」を主題にした、とてもパーソナルな作品です。今回She isでは特集「どこで生きる?」に際して、ロンドンにいるRinaさんと電話をつなぎ、お話を伺いました。取材日は奇しくもイギリスのボリス・ジョンソン首相が新型コロナウイルスにより罰則を伴う外出制限命令を出した日の翌朝。ロンドンのこと、コミュニティを見つけること、ステレオタイプを覆すこと、そしてポジティブでいること。たくさんの真摯な言葉を伝えてくれました。
とても苦しい時間が続いているけど、クリエイティブでいて、喜びを広める方法を見つけなきゃって思います。
─ロンドンはいまどんな雰囲気ですか?
Rina:昨晩のボリス・ジョンソンのスピーチを聞いてパニックになった人も多いと思います。普通の生活を送ろうとしている人もいるけど、2人以上で会うことは禁止されているし、食料みたいな必要最低限の買い物や不可欠な通勤などを除いて外出することもできません(※イギリスでは現在、共に暮らしていない2人以上の公共の場所での集まりは禁止されている)。
─日本も含め、世界中で事態はどんどん深刻になっていますよね。
Rina:クレイジーですよね。雇用問題にも影響していますし、とても恐ろしいことだと思います。この状況に打ちひしがれないように、あらゆる手を尽くさなきゃいけない。
─Rinaさんはこの状況でどのように過ごされていますか?
Rina:私は家にいるのが好きなので、いまのところ心理的な影響は受けていません。いまって膨大な情報が流れていると思うけど、私はSNSでずっとコロナのことだけ話してるっていうのは嫌なんですよね。
─ついコロナの情報ばかりを追ってしまって、暗い気持ちになることも多いです。
Rina:そういう人も多いと思います。だからこそ、いまミュージシャンはポジティビティを広める責任があるんじゃないかなと思っています。私のアルバムは4月に配信開始しますが、やっぱり世界がいま音楽を必要としていると思うんです。
─Instagramライブや、ライブ配信を行なっているミュージシャンの方も多いですね。
Rina:ライブストリーミングがあるのはすごく大きいですね。とても苦しい時間が続いているけど、クリエイティブでいて、喜びを広める方法を見つけなきゃって思います。
─Rinaさんも“Chosen Family”の音源を配信する前に、歌詞とコードだけ先に公開して、ファンの方に自由にメロディーを作ってもらうという企画をスタートしましたね。こういった企画も、この状況でもクリエイティブでいようというメッセージでしょうか?
Rina:間違いなくそうです。家で時間がある分、この機会にギターを練習しようとか、DIYで何か作ろうとか、多くの人が趣味に時間を割いたり、自分を見つめ直したりしようとしているみたいですし。
ファンの方に独自の解釈で演奏した“Chosen Family”の映像や音源を募集する企画。Rinaが選んだ作品はYouTubeの「RINA TV」でも紹介。
─反応はどうですか?
Rina:すでにいくつか曲が届いてるんです。同じコードから違うメロディーや全然違うスタイルの曲が生まれるっていうのは面白いですよね。みんなのクリエイティビティに触れられて楽しいです。
ロンドンは多様性の面では最高の場所で、一人ひとり全員が違う。だから大好きなんです。
─ファンの方からの投稿も今後公開されるということで、どんな解釈が生まれているのか楽しみです。今回She isでは「どこで生きる?」という特集をしているので、テーマに沿ったお話も伺えればと思うのですが、ロンドンってRinaさんにとってはどんな街でしょうか?
Rina:ロンドンは本当にスペシャルな街です。私はロンドンが大好き。アメリカとヨーロッパの間で、たくさんのカルチャーがあって、多くの人が行き来している。それにアカデミックの面でも素晴らしい大学があります。
─もともとお父さんの転勤で幼い頃にロンドンに渡って、ご両親の離婚後もロンドンの方がご自身にフィットしている、ということでロンドンに残られたそうですね。
Rina:あの時は母が私にとって何が一番いいかを考えてくれたんだと思います。母は私がクリエイティブな子供だと思っていたし、いま言ったようなロンドンの良いところが母の頭の中にもあったんじゃないかな。
─当時は現地の日本人学校にも通われていたそうですね。
Rina:数えてみたら、私は人生で7個も学校に行ってるんですよ(笑)。イギリスの普通の学校に通っている時も、日本人学校のサタデースクールに行っていました。
─7個も……! その都度、環境に適応していく苦労はありましたか?
Rina:そうですね。ロンドンで日本人学校に行っていた時は幸せな時間でした。でも夏に短い間だけ日本で学校に通ったことがあって、そこでは少しいじめを受けました。他の人と違う人っていうのはどこでも排除したがるものなんでしょうね。いじめをするのは悲しいし、よくないことだけど。
─すごく悲しいことだと思います。ロンドンの日本人学校と、日本の学校ではどんな違いがあったのでしょうか?
Rina:私は日本の学校に通っていた時、みんなと似た姿をしているっていうことが嬉しかったんだけど、たぶん周囲にとっては違ったんだと思います。民族としては同じ日本人なんだけど、私は「正しい種類の日本人」じゃない感じというか?……わからないけど。でも子供の時はそれが人種差別とかっていうわけじゃなくて、ただ「違う人」が好まれないというようなレベルのものだったと思います。そこに通ったのは数週間とか1か月くらいですが、興味深い経験でした。
─ロンドンの現地の学校ではどうでしたか?
Rina:ロンドンのセカンダリースクール(11歳から16歳まで通う中等教育学校)にいた時は絶対に転校したくないと思いました。その学校にはすごく満足していました。人種の多様性もあって、文化的な交流もたくさんあって。私はそこで自信をつけることができたのだと思います。
─日本の学校で感じられた「違い」をロンドンでは感じることがなかったのですね。
Rina:たぶん日本の学校とロンドンの学校は全然別の空間なんですよね。ロンドンは多様性の面では最高の場所で、一人ひとり全員が違う。だから大好きなんです。例えば「白人にならなきゃ」とか「周りに合わせなきゃ」って思ったことは一度もないです。みんなが違うから溶け込むこともできる。ただケンブリッジにいた時は、周囲と違うことで他人からの視線を感じることはありました。
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