誰かの悲しさやさみしさに触れることでも、救われたり勇気づけられたりすることがあるんじゃないかなって考えています。(前田)
—心地よい生き方というところで、最近行なっていることはありますか?
前田:私は小説を読むのが好きなのですが、「外出自粛」になってみんながいつも以上に本を読み始めたなかで、逆に読めなくなっちゃったんです。言葉の海に全身を溺れさせたい! って思うのですが、それがなんだかできなかった。
そんなときに、久しぶりに詩集を開きました。詩って小説よりも言葉が少ないし、ストーリーを追うというより、言葉の羅列のおもしろさに触れたり、音楽を聴く感覚に似ている気がして。
—小説に比べると、詩のほうが読み手に与えられる余白が少し多いというか。
前田:そうです、そうです。ぽんぽんと並ぶ単語に、匂いやリズム、色を感じるような、そういう言葉のほうがこの期間は触れることができて。
でもやっぱり、言葉っておもしろいなあって改めて思いました。言葉自体は本のなかでは不動のものですけど、その言葉を生かせるのかどうかは自分の心の深さ次第なんだなって再確認して。
—同じ言葉という箱だとしても、そこに込められている思いや量ってそれぞれの文章で違いますよね。ぎゅうぎゅうになにかが詰まっている言葉じゃなく、もうちょっと軽やかな言葉に触れたいと思うときもあるのかなと思います。
前田:まさしく! 今の言葉そのままです(笑)。Instagramにも載せたのですが、茨木のり子さんがご自身の夫についてずっと書いていた詩を、茨木さんが亡くなったあとにまとめた『歳月』という詩集があって。夫がとなりにいなくなったときに……みたいなこととか、ちょっと暗めの詩も多いのですが、私は逆に明るく軽い気持ちにさせられるというか。
—不安について描写されている詩でも、エマさんが明るくなるのはなぜなんでしょうか?
前田:私はもともと「ハッピー! 愛してるよ!」みたいな明るいものにあまり救われた経験がないんです。明るい言葉だけが人を明るい気持ちにさせるとはまったく思ってなくて。
今こういう状況になって、暗い言葉に敏感になる人も増えて、もちろんそれは人それぞれなのが当然なんですが、私は誰かの悲しさやさみしさに触れることでも、救われたり勇気づけられたりすることがあるんじゃないかなって考えています。そんなときに、この詩集を読んだので、私はやっぱりこういう言葉にすごくパワーをもらっているなと思いました。
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