私は30代半ばで役者から監督へキャリアをシフトさせました。若者だけじゃなく30代以上の女性もインスパイアしたいなと思う。
劇中に登場するモリーとエイミーの部屋の装飾からは、ミシェル・オバマやルース・ベイダー・ギンズバーグ、ヴァージニア・ウルフなど、彼女たちがそれぞれにリスペクトしているのであろう女性たちの存在が感じられます。劇中の2人がこのようなフェミニズムアイコンにエンパワーされたように、本作の若いキャストたちはカメラの後ろに立つワイルド監督の姿から大きなインスピレーションを受けたと様々なインタビューで明かしています。
グレタ・ガーウィグ監督の初単独長編監督作『レディ・バード』にも出演しているモリー役のビーニー・フェルドスタインは「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューでガーウィグを引き合いに出し、「誰かが物語を語ろうとしていて、自分がその語られようとしている何かの一部である時っていうのは自然とわかるものです。『レディ・バード』の時は、その人にしか語ることのできない何かを作り上げている人の姿を見ていると感じました。そしてオリヴィアに会ったとき、『そういう人はここにもいたんだ』って思ったんです」と語っていました。
ワイルド:若い女性たちをインスパイアしていきたいですね。若い女性にもどんどん映画監督をしてほしいですし。私はある程度自分のキャリアを重ねた後に違うキャリアを始めたことを、とても誇らしく思っています。
私たちって、習慣的に人生の早い時期にこういう仕事をするんだと決めてしまうところがありますよね。大学を卒業したばかりで私はこういう人間なんだと決めてしまう。それを変えるのって怖いことです。私は30代半ばで役者から監督へキャリアをシフトさせました。それが若い女性のインスピレーションになれば良いなと思うし、若者だけじゃなく30代以上の女性や、子どもがいる女性もインスパイアしたいなと思っています。小さな子どもがいる人が、私にできるかな? と思った時に、できる! と感じてほしいし、母親であるなら母親の物語もあるわけですしね。
ワイルド:『ブックスマート』はそういう人たちをインスパイアできるような作品だと思っています。主人公2人は自分を誇らしく思っていて、まわりに染まろうとしないんです。多くの映画ってその状況に自分を合わせる姿を見せがち。私が子供のころに見ていた映画は、ナードな女子がなんとかイメチェンをして、姿を変えてパーティーに行く、なんて映画が多かった。でも私の場合そういう物語ではなくて、キャラクターたちが自分に足りなかったことを知って、学んでいくような道のりを描きたかったんです。
モリーとエイミーは学業については優秀で、誰よりも勉強してきたというプライドを持っていますが、表面的な先入観で周囲の人をジャッジして跳ね除け、見下してきた。その間違いに気づき、学校を離れた場所で自分や他人のことを知っていく過程が映画のなかでは描かれます。
ワイルド:頭が良いこと、知的であるということは2人にとって問題ではありません。知的で世界のことを理解していて情熱的であるということについては、そのままの彼女たちでいてほしい。私はそこに価値を感じています。
一方で彼女たちが学ばなければならないのは、オープンなマインドを持つということ。若い世代の観客には、周りと同じようになろうとするのではなく、自分自身を進化させることができるんだ、ということを彼女たちの姿から感じてほしい。自分のことをもっと知り、より開かれた心を持てるような、そんな気持ちになってほしいです。
『ブックスマート』は勝手に一人歩きを始めてくれた作品。たくさんの人がパーソナルな作品として見てくれたからしっかり届けられたのだと感じています。
高校生活というのは、友達でも同僚でもないクラスメイトという存在と集団生活をする特殊な環境で日々を過ごす、最後の機会でもあります。高校を卒業する直前に大事なことを学んだエイミーやモリーの物語には、2人と同世代のティーンの観客からかつてティーンだった大人まで、幅広い世代からポジティブな反響があったそうです。
ワイルド:観客の皆さんからの反応の大きさには本当に感激しています。若い人に限らず、自分よりも年上の男性がこんなにもこの作品に気持ちが通じるなんて予想もしていませんでした。本当にいろんな人に響いていて、作り手として何よりの名誉だと思っています。
特に若い世代の方で言うと、作品の内容をリアルに感じてほしいという想いがあったので、「自分たちの姿をこの映画の中で見た」とか、「自分の姿を認知されているように感じた」などの声を聞いたとき、達成感を感じました。大人の方からも「当時はみくびってしまっていた友情を思い出して少し後悔しているけれど、それだけ価値のある時間を過ごせたんだと感じられた」と言われたりして嬉しかったです。みんながちょっとペースを緩めてリラックスして、周りをしっかり見渡して、周囲の人間関係を大切にするきっかけを与える、ということが私の目標でした。
ワイルド:また、クイアである女性たちがエイミーの物語がとても心に響いていると言ってくれて、彼女たちの経験を尊重できたのかなと思うと、すごく感動しています。『ブックスマート』は勝手に一人歩きを始めてくれた作品で、たくさんの人が自分のパーソナルな作品として見てくれたからしっかり届けられたのだと感じています。作品が受け手たちによってさらに成長を遂げて、世界中の方々に届いていると思います。
『ブックスマート』は今年7月に発表された『GLAADメディア賞』で、最優秀映画に選出されました。GLAAD(中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟)が主宰する同アワードは、メディアにおけるLGBTQコミュニティのレプリゼンテーションを称え、彼らの体験やその生活に影響する問題を公正かつ正確、そして包括的に表現しているメディアを表彰しています。GLAADメディアインスティチュートのライナ・ディアウォーターは映画公開時に、「エイミーのシーンは誰かが私の人生を直接見ていて、そのままスクリーンに映し出した気分だった」と述べていました。
本国での公開から1年以上を経て、ようやく日本に上陸した本作。最後にワイルド監督は日本での公開に際して喜びのメッセージを送ってくれました。
ワイルド:日本で『ブックスマート』が公開されることが楽しみです! 日本の観客がどう反応するのか気になります。日本という国が大好きだし、長く滞在してみたい! 日本の文化には大きくインスピレーションを受けました。日本での公開は私にとって本当に大きなことなので、皆さんのリアクションを楽しみにしています。
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』予告編
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