「パブコメ閲覧室」というWebサイトを知っていますか? 首相官邸や政府、各省庁への意見フォームから投函した意見を再投函という形で集め、公開しているサイトです。2020年に入り、新型コロナウイルスの流行や検察庁法改正案にまつわる問題など、さまざまな問題が生じ、これまで以上に「政府に自分たちの声を届けなくてはいけない」と身をもって感じた人も多いのではないでしょうか。声を届ける方法はさまざまですが、国民の言葉を行政に反映することを目的に開かれているパブコメ(パブリックコメント、意見公募)は、個人が政府に対して直接声を届ける手段として有効なはず。しかし、「本当に届いているのか?」と不安になることもあるかもしれません。
このWebサイトを立ち上げたのは、美術作家のうらあやかさんと齋藤春佳さんの二人。2020年4月に「こういう場所があったら」と齋藤さんがTwitter上でつぶやいたことがきっかけで始まったと言います。なぜ、美術作品を作ってきた彼女たちが「パブコメ閲覧室」を立ち上げようと思ったのか。そのきっかけや、これから目指していることなどについて、二人にメールインタビューに答えていただきました。
私たちの日常で今起こっているできごとやニュースを知る都度感じている怒りは、Twitterのトレンドにこそなれども、歴史には残らず消えていってしまう。(齋藤)
―お二人はいつ、どのような思いで「パブコメ閲覧室」を立ち上げようとされたのでしょうか。きっかけとなった具体的な出来事や、立ち上げるまでに話されたことなどがあればおしえてください。
齋藤:今年の4月12日、私がTwitterで「首相官邸などに送った意見がそのまま集まる掲示板のような場所があったらいいな」という内容を書いたところにうらさんがレスポンスをくれて、一緒に本当に作ろう! と動き始めました。
きっかけはその日、安倍首相が星野源さんとの動画をTwitter に載せたのを見た時に、怒りや失望を感じると同時に「“うちでおどろう”という楽曲における作者の意図は一言で語れるものではなく、どこまでも開かれている構造ですらあるのにも関わらず間違ったポイントをついてくるというか……意図の読み解きの誤解がすごいな」と思ったんです。そこから生じた「官邸にどんなに筆を尽くしてパブコメを送ったとしても、もしかしたら書いた意図が伝わらないかも?」という不安が動機の核となっています。
友達と会えない。飲み会もできない。
ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。 pic.twitter.com/VEq1P7EvnL— 安倍晋三 (@AbeShinzo) April 12, 2020
星野源さんが外出自粛期間中に発表した楽曲“うちでおどろう”。多くのコラボレーションが生まれた中で、安倍首相が投稿したコラボレーション映像は多くの批判を呼んだ
齋藤:また、これだけの数のパブコメが送られているという事実が検閲なく公開されるWebサイトが存在することが、「パブコメを送っても改竄が当たり前の政権のブラックボックスに吸い込まれるだけでは」という個人の恐怖感の払拭につながるのではないかという直感もありました。
うらさんとも話したのですが、現在の政府や行政の動向はのちに確実に歴史に記されるに違いありません。しかし、私たちの日常で今起こっているできごとやニュースを知る都度感じる怒りは、Twitterのトレンドにこそなれども、歴史には残らず消えていってしまいます。それを留めておくような、アーカイブの役割を担う場所としても必要であると考えました。
「パブコメ閲覧室」という名前や内容紹介の文章については、うらさんが考えてくれました。私はうらさんが世界へ投げる言葉の感覚を信頼していて、自分が考えるより絶対遠くまで届けてくれると思い、名称の案をいただいてすぐ賛成しました。そこからサイトの大枠を一気に作ることができて、周囲で意見を送ったと言っていた人から文章をいくつか集めて、サイトを公開したのが4月20日でした。
政府の記録物の取り扱いを信頼できないため、自分たちで記録をとっておいた方が良さそうだと感じていた。(うら)
うら:齋藤さんのツイートをみて、絶対にあってほしい! と思ってリプライしました。自分の意見の置き場が欲しかったのと、記録をとる必要があるなと感じていました。わたしの場合は何よりも政府の記録物の取り扱いを信頼できないため、自分たちで記録をとっておいた方が良さそうだと感じていたので……。パブコメを投函しても、無かったことにされていそうだなあと普通に思います。悲しいことですが……。そんなところに齋藤さんのアイデアがツイートされているのを見つけて声をかけました。
サイト立ち上げにあたって、そんなにたくさんのことは決めていないのですが、身近ではない人まで参加してほしいことや、検閲を入れたくないこと、投稿への心理的ハードルを下げることは大事だよねと話していました。また現状の投稿フォームを作る際、投稿者の氏名の記述欄に関しては少し悩みました。署名が入るのと入らないのでは文章の持つ意味が大きく違うので、すでにオープンしている今でもここに関しては悩みどころです。
うら:「パブコメ閲覧室」というタイトルは実はすごく適当に付けたんですが、自分のこれまでの仕事で培った瞬発力みたいなものが発揮されている気がします。作品やイベントなどでも、タイトルを考えるときに色々と自分にとっての基準はあるのですが、不特定多数の人が参加する目的を持った活動に関しては、キャッチーさやどんな取り組みなのかができるだけわかりやすい方がいいので、既存の言葉を組み合わせて使うようにしています。英語で耳慣れている言葉はできる限りそのまま取り入れたり。ひねりを加えたりしすぎて、渋みやポエジーの要素が強くならないことが大事かなと思っています。発起人の思いや影が強すぎない方がいいと思うので。活動が発起人のコントロールを離れ、いろんな人を巻き込んで自立し現象として現れることができたらいいなとわたしはひっそりと思っているのですが、この欲望は自分の作品制作とも通じる部分でもあります。
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