去年の夏、北海道旅行へ行った私たちは、旅への楽しくてワクワクした気持ちの裏側に、実はひっそりと、それぞれが今や未来に対するいろいろな不安や問題を抱えていた。
1週間弱の旅の間、私たちは心が澄むような美しい風景や心にも身体にも豊かな食事を共にしながら、常に各々が自分の心の赴くまま、思い思いに過ごしていた。
車の中、レストランやカフェ、ホテルの部屋でも、静かに食べることに集中したり、持ってきた小説や楽譜を読んだり、キラキラしたおもちゃで夢中になって遊んだり。
話したい時に話し、特に話したくない時は無理して言葉を発しない。気を使って場を盛り上げようとしたり、心配させまいと元気を出そうとも、安易な言葉で誰かを元気付けようともしない。
けれども旅の間ずっと、私たちはどんな時でも自分がありのままの心の状態でいられる、それを互いにそっと受け容れ合うことのできる安心感や穏やかさに、ひたひたと満たされていた。そのことに、どれほど心を救われたことか。
ふと、ある食べ物を口に入れた時、それまで静かに佇んでいたあの子の目がはっとしたように見開かれたかと思うと、「おいしい…」ととても幸せそうな顔で穏やかに微笑んだ。
その瞬間、私はそのささやかな笑顔がなんて愛おしく大切なものだろうと思ったし、いつまでもこんな心地よい微笑みが生まれる場所や関係性を大切に思うことのできる自分でいたい、と強く願った。