むすめは知ってる/マキヒロチ

お母さんの恋を知っている人、こっそり教えてください

2017年11月 特集:ははとむすめ
テキスト:マキヒロチ編集:野村由芽
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自分の父親以外の男性と母親が恋をしているのを知っている娘はどのぐらいいるのだろう? 『昼顔』なんてドラマがあるぐらいだから、昨今は珍しくないのかもしれない。

私は母が父以外に恋をした人を何人も知っている。私の母は別に不倫をしていたわけではなく、私が3歳の時にさっさと父と離婚したので、正々堂々と恋愛をしてよかったのだけど、まだ「昼顔」なんて言葉も一般的ではなかった90年代、小学生だった私の前で母はまだオープンな交際ができずに、予期せぬ出来事によって仕方なく、恋愛の事実をポロポロと口にするぐらいだったので、まぁ知っていると言っても、本当のところはよく知らない。

母が恋愛をしているのは別に嫌じゃなかった。むしろ美人でモテる母を持って誇らしかった。そして、勝手に母の恋愛の断片を拾っては勝手に物語を作り上げて、切なくなるのが好きだった。

例えばある日、母と一緒に家に帰ると、家の近くに見知らぬ男性が乗った車が停まっていた。その車を見つけると母が男性に声をかけて、数分だけ話してサヨナラをした。その時はなんだかわからなかったけど、後日母から「あの人は、あなたの父親と別れた後に婚約したけど別れてしまった人なのよ」と教えてもらった。

その話を聞いた日から、私はなんでもかんでもその人に結びつけた。母が『想い出にかわるまで』という今井美樹と石田純一が主役のドラマを毎週熱心に見ては、アンハッピーエンドに向かう二人の運命に泣いていたのも「自分達の運命に重ねてたからなんだ」と思ったり、「昔、すごく好きだった人がこの曲を教えてくれたの」と、車を運転する時に狂ったように米米CLUBの“浪漫飛行”をエンドレスでリピートしていたのも「あの人が好きだった曲なんだ」と思ったり、どれもこれも全てその人に繋がる悲しいラブストーリーだと勝手に想像してはどんどん物語を膨らませていた。自分の漫画作品がそこはかとなくどこか暗いのはきっとこのトレーニングのおかげである。

こんな話を人はどう思うかわからないし、中には「母親の恋愛なんて気色悪い」なんて人もいるかもしれないけれど、私はたまにこぼれ出る母の恋愛話を聞くのは嫌いじゃなかった。母の恋愛においては好きなポイントがいくつかあったのでむしろ話を聞くのは好きだった。

その中で愛すべき点は、母は美人でギャルソンやヨウジの服を着るようなおしゃれさんだったのに、選ぶ男が毎度地味なことだ。母は昔、某大手家電メーカーの子会社で働いていて、その工場で働く、ギャルソンの服に袖を通すことなんて一生なさそうな真面目で地味でサラリーマンとばかり付き合っていた。私は母の自分の市場価値がわかってない(orわかってる)ところが好きだった。いや、いつも私のために最善の選択をしていたのかもしれない。そう考えると母の愛情深さに泣けてくる。これも想像に過ぎないけれど。

話は少し変わるけれど、先日大好きな祖父が亡くなって、久しぶりに祖父の亡骸に寄り添って母と祖母と夜を過ごした。とりとめもなく思い出話をしている中で、なぜか父と母の馴れ初めの話を聞いた。二人は海で出会って、最初父は違う女の子に夢中だったんだけれど、母が友達を通してアタックしたのだと初めて聞いた。そして母が父に恋をしてくれたから私がいるのだなぁと思ったら、「お母さん恋をしてくれてありがとう」と思った。その横で祖母が、大昔に祖父と結婚する前に祖父に宛てた70通ぐらいあるラブレターを「お父さん、持って行ってください」と、棺に入れていた。祖父が捨てずにとっておいたのを発見したのだそうだ。それを見て、尊いものを見てしまったなぁと思った。母もまた、祖母が恋をしたから存在するのだから。

母は今ではもうすっかりおばさんで、相変わらず着ているギャルソンの服も、セールで買ったよくわからないブランドとのコンビネーションで奇妙な服装に成り果てている日も多いが、かつては別れた男が家の近くで車で待ち伏せしていたことがあったぐらいの女性だったことを、娘の私はちゃんと知っている。

話は戻って、これを読んでいる人の中に、お母さんの過去の恋、または現在進行形の恋を知っている人はいるのだろうか? もしいたらこっそり教えて欲しい。私はそれを知っている関係性に母と娘を感じてドキドキするし、勝手に物語を作るのが好きなんです。

PROFILE

マキヒロチ
マキヒロチ

漫画家。現在、『いつかティファニーで朝食を』『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』を連載中。

INFORMATION

リリース情報
マキヒロチ『いつかティファニーで朝食を』(12)

2017年11月9日(木)発売
価格:605円(税込)
発行:新潮社

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マキヒロチ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(5)

2017年12月6日(木)発売
価格:637円(税込)
発行:講談社

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