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これまでの婚姻制度から抜け出した手作りの婚姻契約/遠藤麻衣

結婚式のパフォーマンスを行ったアーティストが問う

2017年12月 特集:だれと生きる?
テキスト:遠藤麻衣 写真:藤川琢史、宮澤響 編集:竹中万季
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初めまして。遠藤麻衣と言います。2017年10月、私は『アイ・アム・ノット・フェミニスト!』というタイトルで結婚式のパフォーマンスを行いました。婚姻制度を自明なものとして捉えるのではなく、夫と二人で手作りのルールを設定し、婚姻契約を作成しました。どのようなパフォーマンスだったのかは、こちらの関連記事を読んでいただけると幸いです。

ゲーテ・インスティトゥート:『アイ・アム・ノット・フェミニスト!』
FT Focus:夫、家族、世間との関係を問い直してみる

ゲーテ・インスティトゥート(東京ドイツ文化センター)屋上で行われた

このパフォーマンスがきっかけで、今回の特集にお誘いいただきました。

「だれと生きる?」
こう問われれば、私は夫と答えます。だれと生きるかということは一方的な選択だけでは成立しません。私が選んだのと同時に、夫も私を選んでくれたことで、初めて一緒に生きることができます。

話がそれますが、私は人とご飯を食べに行くときに、人が選んだものを一緒に食べるのが好きです。反対に、「何食べたい?」と聞かれることが得意ではありません。なんでも良いときがほとんどだからです。なんでも良いというのは、なんでも楽しめるということです。「何が来るかな?」と予期できないことが楽しいので、自分で選ぶことをなるべくしたくない。相手が選ぶものに振り回されたいと思うからです。

そんな考えと照らし合わせると、結婚はなかなか楽しいです。夫が選ぶことに、わたしも付き合うことが増えるからです。自分にとってなんでも良いことは、夫に委ねます。夫の選択に付き合うのは、飽くことがありません。

相手の選択に委ねることができるという夫婦のあり方は、社会的に肯定されています。夫婦は、二人で一つの人格とみなされるからです。同時に連帯責任も求められます。例えば、民法761条(*1)には「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う」と書かれています。私は新聞を購読していますが、集金時に私が不在だった場合、夫が代金を立て替えて支払いを行わなければなりません。こういうことが法律で定められています。

他方、この条項には「第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない」とも書かれています。つまり、夫が集金者にあらかじめ立て替えない旨を伝えておけば、代金を立て替えなくてよくなるのです。法律では、婚姻した夫婦が二人で一つの単位になることと、個人でいられることの両立を保障しています。

ですが、実際的にはこの両立が難しい……! 一方のあり方がもう一方のあり方を脅かすことがあるからです。

婚姻契約作成の過程を記録したビデオ・インスタレーション「2人の間で約束事をちゃんとしておいた方がいいと思うの。」

例えば、夫婦の貞操義務(夫婦が相互に配偶者以外の相手と性的関係をもたない義務)という観念は、この両立の難しさを表しているように思います。私は、恋愛関係と、夫婦という家族の単位を大切にする思いとの間には因果関係がないように思っています。とは言え、婚姻関係を結ぶことは、セクシャリティに排他的になることだという一般的な観念も持ち合わせています。ただ、なぜこの観念を持っているのかを考えるとよくわかりません。家族であれば、セクシャリティの先にある子供のことを思うからでしょうか。家族の生産性を脅かす行為を罰するべきだと考えるからでしょうか。ですが社会通念だけでなく、利己心や、嫉妬、所有欲なども絡む事柄なので、私にはまだこのことをどう考えれば良いのか判断がつきません。

しかし、わからないなりにも、現時点の解は出しておこうというのが私と夫のスタンスでした。ですので、作成した婚姻契約書には、貞操義務についての項も記載しています。民法770条(*2)を見ると、不貞行為は離婚事由と規定されています。ですがこの規定の背景にあるのは、ある種パートナーを性的な所有物とみなして独占しようとする結婚観とも言えるのではないでしょうか。それには私は共感できません。これは夫も同意するところでした。

とはいえ、法律からあまりに逸脱した内容を書けば、契約そのものの効力が疑わしいものとなってしまいます。ですので、貞操義務に関しては、公序良俗に反しない範囲で項目を作成しました。具体的には、不貞行為が確認された際は直ちに離婚するのでなくまず話し合いによって解決を図る、不貞相手への慰謝料を免除する、などです。これはつまり、多様な性のあり方を許容し、お互いを所有物ではなく、話し合える個人同士と捉えるということです。そして法律ではなく自治によって夫婦関係を構築しようという思いを込めています。

さて、「だれと生きる?」という問いに戻りたいと思います。この問いには「パートナーといつまで一緒にいるのか?」ということも含まれています。言い換えると、「いつ、一緒にいることをやめるのか?」が可能性として示唆されている問いです。死が二人をわかつまでなのか、あるいはもっと早い段階で別れが訪れるのか。ある段階で別れを選ぶとしたら、その選択は私にとって一緒に生きることを選ぶ以上に困難なことだろうと想像します。その切断は、たくさん遊んだゲームのセーブデータをリセットするようなものです。それに、一緒に遊びながらルールを考案しあった相手がいなくなるのは、幻肢痛を抱えて生きるようなものでしょう。

これから実際に自治を運用していく際に、夫と話し合いジャッジしていけるのかはまだわかりません。私が思っていることと、夫が考えることは全くずれていて折り合いがつかないこともありえるからです。ですが、折り合いがつかなかった時に、性格の不一致などを理由に相手を諦めるのではなく、原因をルールに求め、改変しながらいつまでも遊び続けることを選んでいたいです。

* 1 【民法761条】日常の家事に関する債務の連帯責任 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

* 2 【民法770条】夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

PROFILE

遠藤麻衣
遠藤麻衣

俳優、美術家。1984年8月5日、兵庫県生まれ。現在、東京藝術大学美術研究科博士後期課程に在籍。「演じる」というテーマを軸に、美術や演劇など領域横断的な活動を展開している。主な発表に『アイ・アム・ノット・フェミニスト!』 (2017)『MOTアニュアル2016 キセイノセイキ』(16)、『ボクは神の子を妊娠した。』(15)。また、主な出演にsons wo:『シティⅢ』(17) 、二十二会『へんなうごきサイファー』(14~)、岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』(16) 、西尾佳織『透明な隣人 ~8 -エイト-によせて~』(14)(岸井大輔『始末をかく』(13~18)など。

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