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一枚の自撮りが変えたデモへの意識、世界との関わり方/中川えりな

在学中にSEALDsに参加、『Making-Love Club』主宰

2018年3月 特集:変身のとき
テキスト:中川えりな 編集:野村由芽
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新聞を毎日読み、政府がした判断を「よくない」と思ったときには自分の足でデモへ行く、ということをするようになる前と後との変化について書きたいと思います。これは単純に「政治に興味を持つか持たないか」という興味関心の矛先の違いではなく、自分の人生観の変化だと思っているのでこのような書き方をしました。

変化のきっかけは、「この世の中にはこのままではいけない問題がある」「解決させるべき問題がある」ということを意識するようになったことです。

森友学園にまつわる公文書改ざん問題に対して、2018年3月16日に行われたデモ「#0316官邸前大抗議行動」に参加した様子

以前までは自分と自分の家族が幸せならそれだけでいいと思っていました。自分の欲望を叶えながら、家族を幸せにできるだけの財力が欲しい。大学受験直前くらいまで、そんなことしか考えていなかったように思います。高校の部活動も大学受験も全てそのためでした。

全ての物事は「成るようにしかならない」というように考えていました。それは苦しんでいる人は苦しむために存在するのだと言ってしまえるくらい残酷な考え方だったかもしれません。世の中の需要と供給は全てバランスが整っていると思っていました。遠い国の人が苦しんでいるなんて私には全く関係がなかったし、ご飯を残す私に「ご飯が食べられない人たちがこの世界にはたくさんいるんだから残さず食べなさい」と怒る母の言葉は何も響きませんでした。

上智大学の神学部を受験するために、高校3年の冬頃から教会へ通うようになります。もともとカトリックの幼児洗礼を受けていたこともあり勉強したかったということと、キリスト教はこれまで社会にコミットしてさまざまな社会問題を解決していることなどから興味を持ち、受験しました。

初めて聞いた神父さんの説教は、原発の危険性が3.11で証明されたことを受け原発を廃止した国がいくつもあるにも関わらず、日本が廃止していないという問題などについてでした。日本国内に解決すべき問題があるということを知ったのが、世の中の不完全さに気づくきっかけになりました。政府の決定などにより不利益を被った人たちのことを他人事ではないと思うようにもなりました。

そこから半年後くらいに、安保法制の問題(*1)が新聞などで大きく取り上げられるようになります。解釈改憲によって日本が集団的自衛権を持ち、他国の戦争に参加できるようになるということは、間違った判断だと思いました。戦争放棄を記した憲法9条はこれまで世界的にも高く評価されていたし、それは戦争をなくそうと努めている国際社会の中で、名誉ある地位を占めたいと記されたこの国の憲法前文を実現するために必要なものだと思っていました(*2)。誤った戦争が世界中で起きている中で、日本がそのような立場を取っていることはとても誇らしいことでした。いつ敵に襲われるか分からないという不安から打ち勝つことができ、たくさんのお金を生み出すこともできる安直な選択肢を放棄するということは、簡単なことではないと思うからです。

デモには抵抗がありました。ダサいし、怖いし。でも自分が安保法制に反対しているということを示すことが必要だとは感じていました。おばちゃんたちに混じってあのちょっとダサいプラカードを持って自撮りしたら面白いかなと、「1日だけ」と思って首相官邸前の座り込みへ足を運んだのは、誕生日だったその日を印象深いものしたいという気持ちと、「インスタ映え」を狙ってだけの行動だったと思います。

その自撮りがTwitterですごい数のリツイートをされたことや、同じ時期に、自分と同世代の若者(*3)がいい感じのデモをやっているという情報が入ってきたこともあり、少し覗きに行こうという気持ちで国会前のデモに参加したのはそれから数週間後だったと思います。信じられないくらいの数の人が国会前に集まっているのを目にし、しかもそれが噂通りにいい感じにイケてたのを目にしたとき、この法案を止められるかもしれないと思いました。自分が頭数の一部になってデモに参加することの意義を初めて感じ、そこからSEALDsのメンバーとして活動するようになりました。

私の投稿を見て、「自分もデモに行ってみよう」と思ったという声が多く届いたり、実際にデモに来た人からそのように声をかけられたり、周りの友人たちから「自分も連れてって」と声をかけられたりという変化がありました。

SEALDsとしてデモに参加したときの写真(撮影:志葉玲)

大学で神学や哲学を勉強することで、問題の根本に立ち返って人間論的に考えてみるという観点から、政治の問題を考えるようになりました。世界で起こるさまざまな問題は、人間が完全な存在ではないがゆえに起こることで、それらは、人の手でなんとかする必要があるし、知恵があればそれができる。人間の知恵の可能性を信じるべきだと考えるようになりました。残った食べ物を捨ててしまうほどご飯が満足に食べられる人と、食べたくても食べられない人がいるという格差は、人間の不完全さを痛感させるとても悔しいことだと感じるようになりました。

「政治も愛もセックスも、同じテーブルの上で話せる空間を目指す」カルチャーマガジン&イベント『Making-Love Club』を発足させてやりたかったことは、リベラルや保守など政治的思想の枠組みを超えて人間の不完全さに向き合うことです。もともと『Wooly』という雑誌で編集長をしていた同い年の友人と昨年3月に発足させてから1年が経ちます。

左から『Making-Love Club issue no.01 “The Myth of Infallibility”』『Making-Love Club issue no.02 “LOVE?”』表紙

マガジンの発行とイベントの開催を3か月に一度のペースで続けていて、5回目の開催になった前回3月7日のテーマは『WHAT ARE YOU LONGING FOR?』でした。トークセッションでは、なりたい自分であるために理想を掲げること、心が弱っているとその理想を忘れてしまったほうが楽だと考えてしまうことがあるという内面的な話から始まりました。そして日本国憲法とは、先の戦争(*4)での反省からくる思いを決意として記してあるものなのではないかという話と、国際情勢の変化に対する恐れでいまその理想を放棄しようとしているのではないかという話をしました。

Making-Love Club Vol.5『WHAT ARE YOU LONGING FOR?』イベントの様子

環境が変化していく中で人間は、不安や恐れから大切なものを忘れてしまうことがあります。自分の大切なものを忘れないために、最低限のルールを設けたりすることが必要なのは、人間も世界も同じなのかもしれません。

私が設けた最低限のルールが、世界と接続されること、新聞を毎日読むことです。私は、自分や家族が幸せならそれだけでも十分幸せだという自分本位な思いを持ちながらも、その大切なものを守るために、世界にあるさまざまな問題について怒ったり悔しがったりすることを忘れたくないと思っています。

* 1……2015年、集団的自衛権の行使容認などを含む「安全保障関連法案」の改正案が、法案提出から2か月で可決・成立。国民の理解が進まない中での採決に多くの議論を巻き起こしました。
* 2……日本国憲法前文には「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と記載されています。
* 3……SEALDs。自由と民主主義のための学生緊急行動として2015年5月~2016年8月まで活動。
* 4……第二次世界大戦のこと。

PROFILE

中川えりな
中川えりな

1996年生まれ。学業の傍らモデルとして国内問わず海外でも雑誌やMVなどで活躍中。2017年、園子温の作品『東京ヴァンパイアホテル』で女優としてデビュー。若手映像作家UMMMI.の作品『忘却の先駆者』では初主演を果たす。昨年3月にカルチャーイベント&マガジン『Making-Love Club』を発足させる主催者で編集長。『Making-Love Club』は『花椿』2018年 春号にて、野中モモ推薦のリトルプレスとして紹介され、発行から半年程のインディペンデントマガジンながら、徐々に認知度を広げている。イベント第5弾目が開催された3月7日に最新号となる第3号が発売された。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『Making-Love Club issue no.01 “The Myth of Infallibility”』

価格:350円(税込)

オンライン販売:
公式オンラインサイト
Lilmag

取り扱い店:
北海道:MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店
東京:ジュンク堂池袋本店、NADiff a/p/a/r/t、B&B、Loft9 Shibuya、12XU
愛知:C7C gallery and shop
大阪:Blackbird books、清風堂書店
京都:みずいろクラブ

『Making-Love Club issue no.02 “LOVE?”』

価格:350円(税込)

オンライン販売:
公式オンラインサイト
Lilmag

取り扱い店:同上

『Making-Love Club issue no.03 “Nobody』

価格:350円(税込)

オンライン販売:
公式オンラインサイト
Lilmag

取り扱い店:同上

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