別れようと言われたとき、たぶん、いや絶対セックスが原因だなと思った。7か月付き合って2回しかしていなかったから。それも1回は「失敗」と呼んで差し支えない結果に終わっていた。
私には割と性欲がある。どちらかというとエロスに意欲的な方だ。彼のことだってかなり好ましく思っていた。
デートの前日まではかなり「やる」気があるのだ。だけどいざ対面してがさごそ始めると、突然何もかもうっちゃって、叫びだして、走って帰りたくなる。そして実際に走って帰ってしまう。自分の家に戻るとまた気分が盛り上がる。その繰り返しだった。彼の顔を触ったり呼吸を嗅いだりしていると抑えようのない違和感が腹の中で煮立ち、背骨にらせん状に巻きついて染み込んでいく。
2回目のセックスを途中で終えたとき、彼は励ましてくれた。
「気にすることないよ。絶対に必要なことではないし。そりゃ、一生できなかったら困るけど」
私は礼を言いながら、今聞いたセンテンスのどこにも私が含まれていないことについて考えていた。
この人、一生できなかったら困るのか。ときどき間欠泉のように沸く我慢ならなさの決定的なヒントがそこにあった。2週間後に私たちは別れた。
既に決まっていたデートの予定をフリクションペンのキャップで擦りながら、ふと、これからはこの予定帳のどのコマにセックスの予定を入れてもいいのだと気づいた。それも、自分の思いのままのセックスを。
試しに今日の日付の下に星マークをひとつ書き入れてみる。やっぱり消す。
そうか、そうか。消してもいいのだ。もちろん書いてもいい。てんで整っていないふにゃふにゃの五芒星を残りのページの全ての枠に書き込むと、その星灯りは私の体の中でとろりと光った。