20万枚以上のレコードに会いに、金沢へ
はじめまして、村岡紗綾(むらおかさあや)と言います。普段は大学生で、音楽、ファッションへの好き! を広げるためDJやライター、アプリ開発など多岐にわたって活動をしています。レコードを広めるための「VinylCruise」という企画の第1弾を龍崎翔子ちゃんのホテルでスタートさせています。何卒です。
先日、石川県の金沢工業大学の中にあるPMCという施設に行ってきました。そこはレコードを大量にアーカイブしている施設で、課長の深川いずみさんと話したり、見学させてもらったりして、レコードにまつわる感性と時間の話を考え直すきっかけになりました。わたしが思う、感性と時間の話です。
まずはPMCの紹介から。PMCというのは「ポピュラー・ミュージック・コレクション」の略でレコード20万枚以上を保存している金沢工業大学の施設。工業大学にどうしてこんな施設があるの? と思うのですが、実は「将来エンジニアを目指す工業系の学生が多い中で、ジャケットの芸術性から彼らの感性を磨いてもらいたい」とのことで、レコードを展示したり眺められるようにしたとのこと。
ヒプノシスにアンディ・ウォーホル。ジャケットから感性を養う
入り口にも飾ってありましたが、Pink Floydのアートワークを手がけたヒプノシス(1968年に結成されたイギリスのデザイングループ)、The Velvet Underground『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』のジャケットのバナナはアンディ・ウォーホル作。昔の人はこれを眺めながら、その厚紙に包まれた円盤から流れる音楽に何を思ったんだろう……。
わたしがレコードを好きな理由も、CDよりも圧倒的なジャケットの存在感、その強烈なイメージと音楽が結びついてくれるから。
わたしたちは日々たくさんの情報に触れています。小説、映画、音楽はもちろん、目の前に広げた景色、最近よく街で見る服、友達がこぼす独り言、ふらっと入ったお店のコーヒーの味。ずっと考えてたことだけど、感性を養うためにできることの一つに、それらを横断して繋げることが大事だとわたしは思っているのです。
「この人と話すといつも頭の中に流れる曲がある」「あの映画を見た後とピザを食べた後の満足感は一緒」とかそんなことでいいから、意識して考えます。そこには「なんでだろう?」って疑問が生まれるし、問い続けると自分がどんなことを感じているのかはっきりするから。だから、PMCが掲げている「ジャケットの芸術性から学生の感性を磨く」という目的は素敵だし、絵と音楽が結びついて良い感性が磨けそうだと思うのです。
ハート型の盤、現役のジュークボックス、デザインが素敵な楽譜や雑誌。音楽の歴史を感じるお宝たち
もっとPMCの説明をしますね。ここでは20万枚以上のレコードを22ジャンルに分けて保存しています。その中でもロックとポップスが中心。川島なお美のハート型や、アフリカの形をしたToto『Africa』の超変化球レコード、ジャケットに仕掛けがあって遊べるものも見せてもらいました。
レコード以外には、1990年代の『rockin'on』『Rolling Stone』などの雑誌。今じゃ少しイメージできないくらい、とてもデザインが可愛い楽譜まで。
今はなかなか見ることができないジュークボックスや、座ってくつろぎながら館内のレコードを視聴し、体感できるボディソニックという機械もあります。
一般の方も入館でき、自分でレコードを持ち寄っても聴けるので、わたしもお気に入りのレコードOasisの『Be Here Now』2016年リマスター盤を持って行きました。すると、なんとPMCに2006年リリースの盤があり、出してもらえることに。
並べて見ると、とにかく感慨深い。ジャケットは少しだけ変わったけど、親子の再会みたい。音楽は時間を超えるし、写真だって時間を超える。そんな当たり前のこと、もう一回言葉にしたくなってしまいました。
レコードに乗っている音楽が連れてきた、時代の空気を未来に受け継ぐ
音を記録する媒体はCD、MDから今ではストリーミング。超未来的な話で言うと、やくしまるえつこは“わたしは人類”という曲をバイオテクノロジーを使って作り、微生物のDNAに音源の情報を乗せちゃったから、これからもどんどんその形は変わっていくかもしれません。でも、記録するものとしてレコードが母であることには間違いないなって。
ふだん抱えてるデータの束から1枚でもいい。母のような存在であるレコードで、持ってみたり聴いてみたりしてほしいです。触ったことがない人は特に、黒い円盤に好きな曲が入ってることが、逆に新鮮で、不思議で、わくわくしてしまうと思う。
レコードにまつわる感性と時間の話を散らかしましたが、古いものが絶対に良いと言いたいんじゃない。「もの」をより強く感じられるから、そこに豊かに思いを馳せることができる。レコードに乗っている音楽が連れてきた時代の空気を感じて、現代の私たちもまた「何かを生み出していくぞ」と無敵な気分になれちゃうのかもしれません。