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お揃いの制服を着た彼女達に出会い、私は“僕”を取り戻す/五十嵐文章

性別と言う固定観念に囚われていたのは私の方だった

2018年6月 特集:おんなともだち
テキスト:五十嵐文章 編集:野村由芽
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“女のコ”にも“男のコ”にもなりたくない。

最初にそう思ったのは、小学校三年生ぐらいの頃。
当時、人見知りだった私にはともだちがほとんどいなかった。幼稚園の頃から仲が良かった幼馴染みの女のコがひとり。それ以外は、同級生も先生もみんな敵だと思っていた。
よくある話だ。当時私は、ちょっとしたいじめにあっていた。

「お前キモイ」は挨拶代わり。給食当番の時は配膳の列に並んだヤツらにあからさまに嫌な顔をされ、体育の時間には足の遅さを盛大に笑われた。登下校中、すれ違いざまに「死ね」と連呼された事すらある。
悪意むき出しに暴言を吐いてくる男子達はまだシカトのしがいがあったが、ともだちぶって笑いかけながら悪意を向けてくる女子の方がたちが悪かった。

“男のコ”は凶暴で単純バカ。
“女のコ”は可愛くて、したたかで、みんな仲良しなふりしてベタベタしてるけどお腹の中はどろどろのぐちゃぐちゃ。

したたかじゃないと“女のコ”にはなれない。私にはああはなれない。幼心に、私は一生“真の女のコ”にはなれないのだと思っていた。
だからと言って“男のコ”になりたいわけでもなかった。あんな凶暴な単純バカと同類になるのだけは御免だった。

最悪だった小学校を卒業した私は、小学校の同級生と同じ中学に行きたくないと言う理由だけで私立の女子校へ進学した。
正直、私の中では「したたかな生き物」と認識されていた女のコ達の中で楽しく学生生活が送れるとは到底思っていなかったので、最悪ともだちがひとりも出来ない陰キャまっしぐらな青春でも結構だと思っていた。

だけど、この学校での経験が後に、私の人生に多大な影響をあたえるのだった。

沢山の同い歳の女子達に囲まれながら生活をしていくにつれて、性別と言う固定観念に囚われていたのは私の方だったと言う事に気がついた。小学生だった頃の私は、「女のコの多様性」を知らなかったのだ!
同じ学年には色々な子がいた。コロポックルみたいな子、物静かだけれどお母さんみたいな子、一人称がナチュラルに“俺”の子、「王子」と呼ばれていた子。同じ女子校に進学した、昔から女のコっぽくて可愛かった幼馴染みだって、今や立派な男装コスプレイヤーだ。
よく考えればそれは至極当たり前の事なのに、私にはそれがえらく感動的だった。同じ“女のコ”なのに、こんなに色んな子がいるんだ! 可愛くてしたたかでお腹の中がどろどろの、アイツらみたいなヤツだけじゃないんだ!

自然と私も、自分の事を“僕”と呼んでみるようになった。“あたし”よりもシャキッとしていて、“俺”よりもちょっぴり柔らかいその響きは、とても心地が良かった。物書きを志すようになって、男性的なペンネームを名乗るようになったのも、それぐらいの頃からだ。
お揃いの“女のコ”の制服を着た彼女達に出会って、私は似合わなかった“女のコ”を脱ぎ捨てる事が出来たのだ。

“女のコ”の制服を脱ぎ捨てた今の私は普段、不本意ながら女性として生活している。
女性目線の原稿をお願いします。女のコなんだから夜道気をつけなきゃね。有難いお言葉である。
まあまあ、その事は実は満更ではない。皮肉なようだが、私から“女のコ”の重圧を取っ払ってくれた女ともだちと出会えたのは、私が“女のコ”として生まれたお陰だからだ。不服がないとは言わないが、甘んじて受け入れようではないか。

あの頃みたいに毎日ふざけ合えるわけではないけれど、今でも割と頻繁に彼女達と顔を合わせられるのがとても嬉しい。
あの頃と同じように、彼女達と屈託なく笑い合う時間が、私を“僕”に戻してくれるのだ。

PROFILE

五十嵐文章
五十嵐文章

平成初頭生まれのライター。性自認はXジェンダー(FtX)。普段は主に音楽関連の記事を執筆している。ロックバンドにフェティシズムを抱いており、「rockinon.com」「UtaTen」「RealSound」などの音楽情報メディアにて主に邦楽ロック関連のレビュー・ライブレポート・コラムなどを書くほか、note・ブログでは個人の趣味全開なエッセイやディスクレビューなども公開している。学生時代の友人達と結成したクリエイター集団「PL@Y GROUND」のメンバーとしても活動(現在企画準備中)。

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