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宝石のようなパリ/Ruru Ruriko

ずっと片思いをしている、夢見る宝石のような街パリ

2019年3・4月 特集:夢の時間
テキスト:Ruru Ruriko 編集:竹中万季
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私にとってのパリ。
小さなキラキラと光る宝石のようなパリ。
思い出すと胸がぎゅっとなって、私の心を離さない。

留学していたロンドンを除いて、パリは旅行先としては私が唯一何度も何度も訪れた街。日本国内を含めてもパリのように足繁く通った街はない。

何がそんなに魅力的なの? そう聞かれたらどう答えたらいいのかわからないけど、本当に街全体が宝石のようなのだ。キラキラしていて、天気が良い春の日の暖かく眩しい日差しのように、雨降る冬の夜に雨粒が光に反射してきらめくように。日常にあるふとした小さなことだけれど、何度見ても美しく感じるような、そんな街。

もちろん、道端に犬のウンチがあったり、お世辞にも丁寧とは言えない感じの悪い接客や、高い喫煙率、鼻をスカーフで覆うほど臭いメトロなど、いわゆる観光ガイドには出てこないようなパリの日常も知っている。でも、それでもやっぱり思い出すパリはいつもキラキラしている。

宝石のようなパリ。

思い出すと沢山のことが蘇ってくる。それは良いことだけじゃなくて、悪いことや悲しいこともある。キラキラしているだけじゃない。キラキラしている中にも、胸が押しつぶされるような思いにさせられたこともある。住んでもいない、旅行先だというだけなのにこんなに色々な感情にさせられるなんて。

パリの一番美しい季節で、思い出すのは春。
満開の花々に、日差しの中にいると少し暑いくらいの燦々と輝く太陽、街中の人が外に出てきてセーヌ川沿いに座ってリラックスしてる。エッフェル塔の前の公園に、サンマルタン運河沿い、ルイ島、どれも王道だけどピクニックするには最高の場所。一人でも誰かと一緒でも、スーパーでお酒やおつまみを買って食べるだけで他は何もいらない。

ある年に訪れた時は、友達の紹介で出会ったレバノン人の女の子と意気投合。彼女の友達も合流して夜まで遊んだ。その日に初めて会った女の子たちと、外国の、しかもパリで遊ぶなんてワクワクした。パリの大学生である彼女たちに、ここが今パリの若者の中で人気なエリアだよと連れて行ってもらった場所は、もう何処だか忘れてしまったけれど、彼女たちと夜のパリの街を、少し酔っ払って口を大きく開けて笑いながら歩いた。「You are so beautiful!」ほろ酔いの中そう言い合って別れた。

今ではもう一切連絡を取っていない人に会いにパリを訪れたこともある。その時は、パリ出身のその人にモンマルトルやルクセンブルク公園に連れて行ってもらった。その後、その人と会わなくなってからそれらの場所を数回訪れたけれど、もう何とも思わない、そんなこと思い出しもしない、と思いつつも、その人との記憶が頭の片隅から離れず、100%ハッピーな気持ちにはなれないのだった。

ロンドン以外で初めて友達と訪れた海外の街もパリだった。ロンドンから夜行バスに乗って7時間。ウディ・アレンの映画『ミッドナイト・イン・パリ』を見て、すぐに友達を誘ってチケットを取った。初めてみるエッフェル塔は思ったより小さくて、なんだかオモチャが大きくなったみたいだと思った。レストランで食べたムール貝や、古着屋さんで買ったグリーンのカーディガン、終電のメトロで演奏するおじさんに合わせて即興でプラットフォームでダンスを披露していた男性2人のパフォーマンスに盛り上がる車内、その時のワクワクは今でも覚えている。その日の夜は歩いて見る風景が全部『ミッドナイト・イン・パリ』みたいに見えて、あの映画の世界にいるような、私も1920年代にタイムスリップしてしまえるのではないかという興奮に包まれていた。

イギリスで出会って、パリでも東京でも遊んだ、ちょっと天然でうふふっと悪戯っ子のように笑うパリジェンヌの彼女は、もうこの世から居なくなってしまった。私が南仏に引っ越してすぐに交わしたメッセージが彼女と話した最後になった。「次パリに来る時はフランス語で話そう、私がフランス語のスラングを教えてあげる」。教えてくれるって、そう言ったじゃない、どうして? 今でも繰り返し、帰ってこない問いを繰り返す。前回パリに行った時に、昔彼女に連れて行ってもらったクレープリーに行こうと思って、名前も住所もわからない中、曖昧な記憶を使って探してみたけれど、結局見つけられなかった。

恋人と一緒に訪れた時は、5月初めなのに真夏のように暑くて、歩いてるだけで疲れてしまったけれど、大好きな人と大好きな街にいる、それだけで死ぬほど楽しくてどうしようもなかった。エッフェル塔のもとでピクニックをし、近くの噴水から飛んでくる水が気持ちよくて、噴水に入ってはしゃいでる子供たちを羨ましい、私たちも入りたいねと笑った。卒業してからパリに引っ越した大学の友人と再会した時は、19区にある大きな公園でたわいもない話をしながら、丘の上からパリの街が綺麗に見えて、この街に住みたいと思った。

キラキラして眩しくて、はっきり見ようとしても眩しくてぼやけている。こんなに何度も来ているのに私はパリについて全然知らない気がする。メトロの乗り方だって全然問題ないし、ある程度の地理感覚もある、少しだけどフランス語もわかるようになったけれど、それでもパリは私に心を開いてくれてはいないし、本当は何を考えているのは全然わからない。それでもやっぱり綺麗で、キラキラしていてもっと見ていたい、なんでだかわからないけど目が離せない一方通行な片思い。一度イタリアからイギリスへ夜に飛行機に乗った時に、窓からキラキラと空の下に広がるパリの街を見たことがある。真っ暗な暗闇の中に光る街のライトがもうどうしようもなく美しく、目が離せなかった。

パリはいつか私に心を開いてくれるんだろうか? そしたら私はもっとパリを好きになるだろうか? それとももう飽きてしまうのだろうか? だったら一生、この手が届きそうで届かない片思いでもいいのかもしれない。子供時代、夏に飲んだラムネのビー玉のように、出せないとわかっていても瓶を逆さまにしたりして、光に当ててキラキラ光るビー玉を見るような気分。だってそれでも十分幸せだから。

PROFILE

Ruru Ruriko
Ruru Ruriko

18歳の時にイギリスに留学、4年半過ごす。大学時代にファッション、ファインアート、写真を学ぶ中でフェミニズムと出会い、日常で気になった女の子として生きることなどの疑問についてSNSに書くようになる。朝日新聞社のweb媒体「telling,」のライター他、多数のウェブメディアに文章を寄与している。現在は南フランス在住。

INFORMATION

イベント情報

NYLON Bloggerまりあんぬとつくっている性とアートのジン、イベント『セックスジン』の第2弾を12月に開催予定。詳しくはRuruのInstagramやTwitterにて。

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