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わたしが、わたしを幸せにする~占い師の母をもって~/羽佐田瑶子

娘の交通事故を予知し、結婚年齢を当てる占い師の母

2019年5・6月 特集:ぞくぞく家族
テキスト:羽佐田瑶子 編集:野村由芽
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「わたしが、わたしを幸せにする」
思考を巡らせ選択をするとき、最後は願かけのようにこの言葉を反芻する。自分の人生は、自分のもの。自分を幸せにする責任は自分にある。偶然が招いた結果をよろこぶロマンもあるけれども、そこに至る過程ではわたしの身体や頭の中で無数のせめぎ合いが起こり、生まれたり消えたりする「わたしの意志」に支えられて選択をしたはず。だから、わたしがわたしを褒められるようでありたいと思う。もし、うまくいかなかったとしても「まあ、仕方がないか」と思えるだけ、自分の人生を悔いなく整えておきたい。

「意志」を大切にするようになったのは、きっと、母親が占い師という特殊な環境がそうさせたのだと思う。

小学校4年生の、スイミングスクールの帰り道。わたしは交通事故にあった。住んでいた団地の向かい側の道路でスクールバスを降り、青信号を渡っていたら、右折してきた車に撥ねられた。周辺はトトロの森とよばれる鬱蒼した公園と墓地が広がり、夕方でも薄暗く静かで、人通りも少ない。わたしの記憶は一瞬絶えたが、静寂の中から「ようこ」と呼ばれる声で目が覚めた。見ると、すこし離れたところで弟の手を握り、申し訳なさそうにたたずむ母親が居た。轢いた人が車から降りてくるのとほぼ同じタイミングで、母親も目の前にいる。当時は携帯電話なんてないし、物音に気づいたとしても早すぎる。「え? なんでもういるの?」と混乱しながら病院に運ばれた。

後日母から「轢かれることを知っていた」と言われた。そういえば、出る時に「気をつけてね」と何度も言われ、手を握られた。「あなたが轢かれるのは辛かったけれど重症にはならないと感じた。轢いたおじさんの運命を変えてしまう方が、もっと辛い運命をたどる可能性もあったの」。大きな千疋屋のフルーツ籠を持って謝罪に来たおじさんは、自身の息子も前日に交通事故で重症を負ったことを涙ながらに話してくれた。未来が見えてしまうさだめを受け入れることはどれだけ怖いことなのだろうと、親になったいまならわかる。

他にも、親の勘にしては鋭すぎることが多々あった。幼いころから「あなたは25歳で結婚する」と言われてきたのだが、本を読んだり映画を観たり、やりたいことが多い私は、そもそも結婚が難しいと思っていた。周りの友人も母の占いを笑い流した。しかし、その年齢を迎えるとあっさりと結婚した。結婚してから「あれ、25歳だ……」と驚愕し、もはや占いではなく親の刷り込みではないのかと震えた。

母の占いは手相と顔相で、性格やある程度の未来を占う。学生時代、新宿の母に「あなたは(未来が)見えるでしょう?」と路上で声をかけられたことがきっかけで弟子入り。ただ、本職は別にあるため、占いは「見るべき人がいたら見る」という軽いスタンスだ。親しい友人や家族に対しては占い能力を押し付け気味で、たとえば付き合っている人を母に会わせると悲惨なことになる(知りたくないことも占われてしまう)。好き、という曖昧な感情よりも不確かな事実が尊重され、時に「あの人の方がいい」と授業参観で見つけためぼしいクラスメイトをリコメンドされることもあった。占いとは根拠がなくても妙な信憑性があり、感情が一瞬で変わる。信じすぎないように気をつけてきたがそれでもこれまでの人生を振り返ると、占いに翻弄されて生きてきたと思う。

だから、運命に盲目的になることがとても怖い。占いによってあらゆる「運命」を受け入れることができる性格に整ってしまったからこそ、気がついたら流されて本位ではない、愛想笑いのような選択をしてしまいそうになるからだ。いろんな考え方を一度は受け入れるやさしさは持ちつつ、ここぞというときには「わたしの意志」を持ちたい。

母親もよく「占いは自分次第だ」と言う。たとえ手相に結婚線があったとしても、本人にその気がなかったら結婚線はないのと同じ。成功線があったとしても、本人が努力してチャンスを掴みにいこうとしなかったら成功線はないのと同じ。逆に、結婚したい気持ちが強いなら結婚線は作れる、とも言う。この言葉は励みになった。だから、わたしは「言霊」をとても大切にしている。新月にはアフォメーション(「~する」とやりたいことをノートに書き出すこと)をし、悪いことが起こりそうなときや体調が悪いときはなりたい方向をイメージして友人や家族に話す。悪口は言わない。思ってもいないことは言わない。わたしの意志によって生まれた言葉に魂が宿り、現実が微調整されるような気がしている。

占いを良くも悪くもするのも、自分次第。「占いを頼りに自分を奮い立たせることで、運命はいくらでも変えられる」という母の言葉は、どこかファンタジーと現実の間にたたずむ光のように思えた。あらがえない運命がこの世にはたしかに存在するけれど、「運命を選ぶ力もわたしにはある」と言ってくれているようだ。母は言った。「絶対、なんてない。予想以上の変化が人生にはたくさんあって、その時に何がいちばん大切か、自分の心に素直になることが大事」だと。自分次第だからこそ、その時どきのわたしの意志を大事にして選択を重ねれば、運命を変えることだってできるはず。「わたしが、わたしを幸せにする」。おまじないにも、祈りにも似た、わたしだけの魔法の言葉。

2019年、2月。子どもを出産し、親となった。霊感0と言われたわたしには子どもの未来を予知する能力はないけれども、親に教えてもらった魔法の言葉はそっと教えたい。

PROFILE

羽佐田瑶子
羽佐田瑶子

1987年生まれのライター。女性アイドルや映画などガールズカルチャーを中心に、インタビュー、コラムを執筆。主な媒体はShe is、Quick Japan、テレビブロスなど。映画『21世紀の女の子』パンフレット編集。岡崎京子とグザヴィエ・ドラン、ハロープロジェクトなどロマンティックで力強いカルチャーや人が好きです。2019年、2月に出産。「親」についてのZINEを目論み中。

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