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いつだって離れ離れだけど、いつだって一緒に生きている/竹内ももこ

こんなにも家族が必要なのに、何も疑わずに離れて暮らしてる

2019年5・6月 特集:ぞくぞく家族
テキスト:竹内ももこ 撮影:竹内ももこ、ヤスヲ、マム、けいご 編集:竹中万季
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竹内ももこって、世界一いい名前だ
って、産まれてから今までに、きっと何百回も思っている。

私の家族は私を「ももちゃん」って呼ぶ。お腹にいる時から、ずっと。
私は父をヤスヲ(本名はやすし)、
母をマム(たまにオカーチャン! とかサヨチャン! とか呼んでみたりする)、
兄をけいご(オニーチャン! と呼んでみることもあったけど、どうも気持ちが悪くて1日もたなかった)などと呼んでいる。

世界一、最高な名前を
世界一、大好きな家族が
世界一、愛たっぷりに「ももちゃん」だなんて可愛い言葉で呼んでくれるから、
私は「ももちゃん」が好きだし、そうやって呼んでくれる人(極々わずか)にふふんっと少し好意を抱いてしまう。

不器用な性格だけど超がつくほど真面目で、最高に美味しい料理をつくるし、外では無愛想なのに家の中では優しくておもしろいヤスヲ。
フレンドリーでお喋りで誰とでも仲良くなれるのに、壁が厚くて友達が少ない(つくらない)マム。
家族の中で一番自由で生きる力が強くて、ほとんど英語が話せない状態で急にカナダに行ったけいご。
私はこの家族と、京都の海街で育った。
これから、ヤスヲ、マム、けいご、私の四人の家族について書く。

ヤスヲとマムは二人でフレンチレストランを経営している。
お店のインスタのアカウントがあるから是非見てほしい)
私が3歳の時から始めたから、まるっと20年たっている。
その間ずっと本当に二人だけで、お店を切り盛りしているのだ。
お店とお家は繋がっていて、二人とも他の場所に遊びに出かけもしないから、ヤスヲとマムはほぼ365日24時間、一緒にいる。
こどもながら、なんで二人はこんなに仲がいいんや……? とかなり不思議に思っていた。

ある時、お風呂でマムに
「ヤスヲとずーーーっと二人で、嫌にならんの? 仕事もお家もずーーーっと一緒で、もう嫌やわぁってならんの?」と聞いたことがある。
そしたら一言、マムは「だって家族やし」と言った。
なんだか、分かるような、分からないような、でもなぜだか腑に落ちる言葉だった。

家の玄関の扉を開けると、厨房に立つヤスヲの背中が見える。

幼稚園の頃から、魚をさばくところを見るのが大好きで、厨房独特の、焼いたり揚げたりする音とヤスヲの好きな音楽が、ムワッとした熱気と混じり合うあの空気が心地よかった。
厨房はそんなに広くはなくて、私やけいごが手伝いに入ると丁度いい大きさ。
その厨房で一緒に働いたり、家のご飯を持ってきて二人の働く姿を見ながら食べたり、なんとなくそこにいたりした。

厨房にいると、ヤスヲがいつもお肉とかデザートとか美味しいやつの端っこをなんでもくれた。
するとすかさずマムも「食べ〜食べ〜!」と言って温め直したマムお手製のパンを渡してくれた。

記憶をできる限り辿ってみると、家族を嫌いだとか、いらないだとか、そういう風に感じたことが一切ないと改めておもう。同じように、家族からそういう風に扱われたことも一切ない。
すごいことだと思う。
ヤスヲとマムは本当にどんな時でも私たちへの愛情を絶やさなかった。
これも本当にすごいことだと思う。
泣いて帰った時、学校に行けなくなった時、剣道が嫌になった時、試合で勝った時、負けた時、赤点を取った時、どんな時でも。
その愛情は甘いものあったし辛いものもあった。それを惜しみなく受け取ったし、いつも心がふやけつつも背筋がピシィッと伸びる思いだった。
私も、その二人の愛情を真似して投げ返したりもした。

小学校の頃から「家に帰って今日あったことを話す!」のが、登校してから部活を終えて帰宅するまでの楽しみだったし、マムはたまに夢の中で娘のクラスの一員になっていたほど、私のクラスメイトやクラスの諸々の事情を把握していた。

高校の時には、剣道部の朝稽古にヤスヲがよく来てくれた。ヤスヲも幼い頃から剣道を続けていて、今や錬士六段というすごい実力を持っていて、それはそれは超強いのだ。
段審査や試合の前には特に熱心に稽古をしてくれて、稽古終わりにヤスヲが車に乗って帰る時に「あ、竹内のお父さんやん」とクラスメイトに見つかると、なんだかとても誇らしかった。

けいごは、私が高校に上がるころにはカナダに引っ越していて、今では10年も別々の地で生きている。会うのも、何年かに一度。
それでも、会わなかった時間と気まずさや距離感が比例することはなく、いつ会っても私とけいごの「仲間」のような関係はいつも変わらない。
ちなみに、私がまだお腹の中にいる時に「ももちゃん」と名付けたのは実はけいごで、そこからももこという名前になった話は竹内家のおもしろエピソードのひとつだ。

私のいつの記憶にも必ず、家族がいる。

三人のことを思い返していると、ヤスヲ、マム、けいご、三者三様で、それぞれとの関わり方や繋がり方、信頼の仕方は全然違って、
でもちゃんとお互いの関わり合いの中に愛と誠意を持っている。

私の家族は絶対的な信頼で繋がっている。
人を疑わないというのはほぼ不可能なことだと思っているけれど、家族の間では絶対的な信頼がいとも簡単に成立してしまう。その絶対的な信頼による安心感はとても強い。
信頼とは、相手が発する言葉、行動にかけられているものは全て愛だ、という確信。

私の家族は、ひとつの同じ命を共有しているように思う。

マムは、私のことが良く分かる。
この分かる、は「理解」より「感じ取る」に近い。
私に悲しいことがあったり、好きな人ができた時、マムはすぐに分かる。
私自身が自覚するよりも先に、マムはその全ての感覚を真っ先にキャッチすることもある。
「なんで分かるん?」って聞くと「なんでもや」っていつも返される。きっと、私はマムの分身なのだ。

今だって気を抜けばホームシックになるし、悲しいことや耐えきれないことがあれば泣いてマムやヤスヲに電話することもある。
会話するたび、感謝や尊敬、幾つかの想いがどんどん積み重なり、電話を終える時にはその想いによって膨らんだ家族の存在に、いつも圧倒される。
こんなにも私には家族が必要なのに、なんでわざわざ離れて暮らしているんだろう、と不思議でたまらない。それでも私は何も疑わず東京で生きることを選ぶし、家族は当たり前のようにあのお家にいる。
いつだって離れ離れだけれど、
いつだって一緒に生きている。

18歳の時に東京に出てきて、今年でまるっと5年が経った。
初めの2年は一人暮らしで、後の3年は3人のおんなともだちとシェアハウスをしている。
よく皆ですき焼きとかたこ焼きとか、楽しいご飯会をする。

衣食住を共にして、お祝い事があればみんなでお祝いしたり、なんてことない会話で夜と朝を繋いだりする。新しい家族の形のような気がしている。
一緒に住んでいる女の子たちとの関係は、友達や知り合いよりも「家族」という呼び方がなんだかしっくりくる。
いつか終わることが約束されている「家族」。
とても不思議で、とても尊い。

東京で過ごす月日が流れるほど、家族と私の間にある温度や重量感は静かに柔軟に、それでも確かに変化していっている。
私の中の父と母はいつの間にかヤスヲとマムという「一人の人間」にもなっていて、東京で多くの人たちと出会い関わり、いろんな人を知った今、改めて二人のことを人として好きだ、と確信する。そう思えることがとても嬉しい。
この家に産まれた私は超ラッキーだ! と、いつも思う。

そんな家族で満たされている私が、いつかの未来、自分の家族をつくることを考えるといつもひどくゾッとする。とても怖い。
ヤスヲとマムみたいなこと、私にはできっこない。
あんな計り知れないほどの大きな愛情は私にはない気がする。
私はヤスヲとマムがつくって、けいごのいる、あの家族の中であまりにも幸せに愛されて生きてきたからこそ、自分にはそういう家族をつくれるのかと怖く感じてしまう。
それでも、私は家族によって根付いた幸せの、特別な感覚を知っている。
だから、怖いけれど、いつかは私も、母親になって、家族を育てたい。

私は家族に生かされているのだと、心から思う。

私がこれまで育ってきた家族
東京で一緒に生活している新しい家族
そして、いつか誰かと一緒に育ててゆく家族
全部、何もかも違い、それぞれへの心の在り方も違う。
それでもやはり、今の私をつくってくれた竹内家で知った幸せが自分にとっての「家族」の基準となり、その幸せをなぞっていくのだと思う。

それぞれに、きっと、最高の家族の形がある、けれど、やっぱり、私の中では竹内家しかありえないのだ。

PROFILE

竹内ももこ
竹内ももこ

1995年6月6日生まれ。京都府出身。
主な出演に、映画『21世紀の女の子−離ればなれの花々へ』(監督:山戸結希)、映画『LAPSE−失敗人間ヒトシジュニア』(監督:アベラヒデノブ)、映画『満月の夜には思い出して』(監督:川北ゆめき/MOOSIC LAB2018)など。雑誌『Hanako』でレギュラーモデルを務めるほか、ミュージックビデオにも出演、とけた電球「覚えてないや」、足立佳奈「ウタコク」などがある。自身のパン好きを活かし、東京のパン屋を巡る『パンとキミ ももぱん記録』が発売中。

撮影:飯田エリカ/ヘアメイク:夢月

INFORMATION

イベント情報

6月8日(土)から映画『満月の夜には思い出して』、6月28日(金)から映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』、7月27日(土)から映画『約束の時間』が公開。野球日本代表応援CMに出演中。

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