承認欲求が強いのに豊かで自由に生きている、永遠のヒーロー・森茉莉の『贅沢貧乏のお洒落帖』
「何度も紹介している作家の作品があるんです」と山崎さんが紹介してくださった3冊目は『贅沢貧乏のお洒落帖』(森茉莉)です。森茉莉さんを「茉莉」と親友のように呼び捨てする山崎さん、「茉莉は、永遠に私たちのヒーローなんです」と話す愛の深さに気持ちが高まります。
森茉莉といえば、森鴎外の娘で育ちはお嬢様。周りに甘やかされて過ごしたため、部屋の片付けができなければ裁縫もできず、貯金もできない。「40歳で無一文。彼女はこれまで数々の伝説を残してきました。穴のあいたセーターを縫えないので、風呂敷に包んで川に沈めに行くんですよ。世田谷文学館の常設展示で、幸田文さん(森茉莉と同世代の随筆家・小説家)の美しい文字で書かれたお礼状の近くに、森茉莉が女優の赤木春恵さんからもらったボロボロのぬいぐるみが飾られていて安心するんです(笑)」。
一日中テレビの前にいるほどお笑い番組が大好きなことから生まれたテレビ評『ドッキリチャンネル』の話や、行きつけの喫茶店で恋に落ちた彼女が彼への思いをフランス語でつづっていた日記が発見された話など、森茉莉のエピソードを次々と教えてくれる山崎さん。小さな頃から多くの教養を身につけ、ロマンチックな妄想と豊かな文章表現を持った彼女の愛らしさを山崎さんはこう語ります。「つねに自分を主役にしてしまううぬぼれ感や、承認欲求が強くて豊かに自由に生きている彼女を私の友人はみんな愛しています。ベストセラーを書いたわけでもないのに、みんなのヒーローで、森茉莉のことばかり話していた忘年会があったくらい(笑)。誰もが親戚にお気に入りの変なおじさん・おばさんが必要だと思う。そのポジションに彼女は永遠にいてくれるんです」。
本のあとがきを書かれている黒柳徹子さんとは仲良しで、ボロボロのアパートに招き入れて二人でお茶をしていたそう。人を招くために掃除をしたり、招くためのお菓子を買ったり、そんなことは楽しかったら関係ないという自己肯定感の強さに元気が出ます。一般的にはすごく美人ではなかったかもしれないけれど、自分の「美人自慢」も多かった森茉莉さんのことを、山崎さんはこう話します。「かわいいって言われたら自分の中にとっておいた方がいいし、自慢したらいい。いいことを言われたらそれが真実なんだと茉莉に教えてもらいました」。
都会のシングルガールの必読書。身の丈サイズの幸せが描かれた『プリンセスメゾン』(池辺葵)
「社会のルールにとらわれない自由な女の人は大好きです」とトミヤマさん。そんな気持ちで紹介くださった3冊目は『プリンセスメゾン』(池辺葵)。居酒屋勤務年収300万円以下、恋人もいない主人公の「沼ちゃん」がマイホームを買うストーリーです。「『マンション購入なんてまぼろし』と語る同僚に沼ちゃんがこう答えるんです。『努力すればできるかもしれないこと、できないって想像だけで決めつけて、やってみもせずに勝手に卑屈になっちゃだめだよ』と。都会暮らしで独身、結婚の予定もなく、仕事だってこの先どうなるかわからない。そんな女の人が淡々と、自分で自分の城を買い、負け惜しみでもなんでもなく、ちゃんと満たされてゆくんです」。
この話の中で、沼ちゃんは正真正銘のヒロインでプリンセス。「女の人それぞれに、それぞれの人生があります。身の丈サイズの幸せが描かれていることで、自分の人生もなかなかいいんじゃない? と気づかせてもらえる1冊です」とトミヤマさんは話します。結婚が正解ではないし、恋をすることが一番ではない。自分が生きていく場所をみつける楽しさを感じる本は、「都会のシングルガールはみんな読んでね!」というメッセージつきで語られました。
もっと自由に、もっと勝手にしていい。女の人はヒーローになれる。
トークの最後、「二人にとっての未来からきた女性」について伺いました。山崎さんは「キャリアにつまずいたからって傷つかなくていいし、目に見えた成果がすべてじゃない。成果なんてなくても、女の人はヒーローになれると思う。もっと自由に、もっと勝手にしましょう!」と力強いひと言を。
トミヤマさんは『ちひろさん』を描いた安田弘之さんから教わった「半分妖怪説」をメッセージに残しました。「生きづらいなと感じている女性も多いと思うのですが、それはちゃんとした人間にならねばと思うからです。不器用な自分を半分妖怪だと思えば、『妖怪のわりには、けっこう人間の世界に馴染めているのでは?』と気持ちが楽になります(笑)。妖怪としての自覚を持てというのも変な話ですが、それによって社会のルールに押しつぶされない自分になれるはずです」。
人目なんて気にしなくても、女性や男性という枠組みにとらわれなくても、自分を自分で認める強さを持とう。「勝手にします」と言い切れる女性は最強! そんな勇気が出る6冊が贈られたトークイベントでした。
SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSでは、今回のイベントで取り上げた作品を紹介する棚も展開中です(11月30日まで)。
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