「いつ会えるんだろう、ずっと待ってました」。運命的なつながりを感じていた二人が「母と娘」を語る夜
瀬々敬久監督によって映画化されることになった、AV女優・紗倉まなさんの処女小説『最低。』。この作品では、AV業界を舞台に、AV女優を母に持つ娘や、母になりたくてもなれない女性、母とケンカの絶えないAV女優など、She isの11月の特集テーマでもあった「母と娘」の姿が多く描かれています。
「より多くの女性に観てもらいたい」という思いから、She isでは11月18日(火)に、映画『最低。』の女性限定先行試写会を開催。トークゲストとして紗倉まなさんと、紗倉さんが大ファンと公言するイラストレーター大島智子さんにご登壇いただき、それぞれ3冊ずつ「母と娘」をテーマに本を選んでいただきました。
ちょうどこの日は、初個展『パルコでもロイホでもラブホでもいいよ』の会期中だった大島さん。実は、紗倉さんが『ダ・ヴィンチ』で掲載していた短編『赤い波 赤い花』にイラストを寄せたこともあったそうです。
そのほかにも、映画『最低。』の主題歌“ふちどり”を歌う泉まくらさんのCDジャケットのイラストを描かれるなど数多くの接点がありながらも会ったことはなく、紗倉さんも「いつ会えるんだろう、とずっと待っていました」と運命的なつながりを感じていたそう。ようやく二人で会えた特別な夜、母と娘について考えます。
母と娘の抗えない血のつながりの濃さを感じる『漁港の肉子ちゃん』
普段から本をよく読まれている紗倉さんが「選んでみたら、自然と普段からよく読む作家さんの本ばかりになりました」と紹介してくれた1冊目は、西加奈子さんの『漁港の肉子ちゃん』(2014年)です。「魚肉ソーセージが好きで、タイトルに惹かれて手に取りました(笑)。母と娘の関係で、いちばん抗えないものは血のつながりだと思います。切りたくても切れない血のつながりの濃さを、この本に登場する二人にも感じました」。
漁港で働いているぽっちゃり体型で愛嬌のある肉子ちゃんと、すらっと綺麗な娘のきくりん。互いのコンプレックスをさらけ出しながら、ぶつかり合う二人の心情が深く描かれています。「容姿は全然似ていないのにやっぱりどこか似ている母と娘の姿は、読んでいると胸がチクリとしました。繊細な二人の心情の動きに感動するんです」と紗倉さん。ラストは意外な結末が待っているそう。
それは本当に愛なのか? 束縛なのか? 親への揺れる心境が反映された『春にして君を離れ』
「姉が勧めてくれて、『結婚前に読むべき本だね』と話していたんです」と大島さんが選んだ1冊目はアガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』(1944年)です。
弁護士の旦那さんと3人の子どもに恵まれた、40代の普通の主婦。理想的な家庭を築き上げ、満ち足りた毎日を送っていたある日、娘の病気見舞いの帰り道に長い時間電車が停まります。見知らぬ土地で、彼女はぐるぐるとこれまでの人生を振り返り、「旦那の幸せを奪ってしまったのではないか?」「自分の理想を求め、子どもを束縛してしまったのではないか?」と答えのない疑問にぶつかります。
「母が娘に注ぐ愛情は、場合によっては母から娘への一方的な支配や教育になったり、間違った影響を及ぼすこともあったりします。私はまだ母になっていませんが、母になりうる立場として、この本に描かれている疑問をひとつずつ確かめながら自立したいと、考えるきっかけになりました」と大島さん。
著者のアガサ・クリスティーは、母親の意向により、学校には行かず、両親から教育を受けるという特異的な幼少期を過ごしてきたそうです。「著者の『これは愛なのか? それとも教育なのか?』という、親への揺れた心境が反映されているのだと思います」。人生の岐路に立つときに手に取りたい本、という大島さんの特別な一冊です。
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