読書家3人が選ぶ、誰かと生きることの謎を見つめるきっかけをくれる9冊
結婚ってなんだろう? 夫婦や、パートナーってなんだろう。その形はパートナーの数だけ存在するはずだから、「結婚する、しない」の前に、ひとりひとりがまず「誰とどう生きたいのか?」という地点に立ち返ることで、自分が求める生き方の道筋が見えてくるのではないだろうか? そんなふうに考え、She isの12月の特集「だれと生きる?」では、さまざまな方に、ごく私的な自身のパートナー観を教えていただく数々の企画を実施してきました。
そしてその一環として行ったのが、毎月の特集テーマから連想される本をゲストに選んでいただくイベント「She is BOOK TALK」。ゲストはパーソナルなZINEにファンも多い文筆家のきくちゆみこさん、普段から一緒に読書会をやっているというエミリーさん、垂水萌さん。読書家3人を駒沢公園近くの「出会い系本屋」ことSNOW SHOVELINGに迎え、参加者と共に本を囲み繰り広げられたこの度の催し。本への想いが溢れてなんと3時間超え(!)した親密な一夜を、凝縮してお届けします。
自分の物語を語ることで、自分の人生を切り開いていく『灯台守の話』
『灯台守の話』(著:ジャネット・ウィンターソン、訳:岸本佐知子)(Amazonで見る)/常にストックを用意して、人にプレゼントできるように準備しているぐらいきくちさんにとってお気に入りの一冊だそう
「射抜かれたように読んでいる」と、きくちゆみこさんが紹介してくれた1冊目は、ジャネット・ウィンターソンの『灯台守の話』(2007年)です。
孤児の少女シルバーは、盲目の灯台守ピューに引きとられます。ピューの仕事は船乗りの安全を守るために光を照らすことと、物語を語ること。「灯台って外を照らすもので、内側は真っ暗なんですよね。それで印象的なのが、灯台を日々守るということは、暗闇の中で自分の物語をつくることでもあるという言葉。自分でつくった物語をさらに自分で語ることが、人生を切り開いていくのだという考え方に私自身も大きな影響を受けました」。
ピューから聞いた恋愛物語から「真実の愛」を考え始めるシルバーについては、こう語ります。「この本の帯にも書いてある『真実の愛』という言葉って、一見恥ずかしいですよね。でも『真実の愛』を信じたり、追い求めたりすることで、やがて自分を愛せるようになる。自分が安心して生きていける場所を探すシルバーの姿を見て、あらためて愛というのは、相手のことを考えると同時に、私が私としてどう生きるのか考えることでもあると気づかされます」。
わかりあえなくても、言葉を尽くしながら共に生きる『フラニーとズーイ』
「誰かと共に生きるためには、『対話をすること』が一番大事だと思い、この本を選びました」と垂水さんが紹介する1冊目はJ.D.サリンジャー著、村上春樹訳の『フラニーとズーイ』(初版は1968年、村上春樹訳は2014年)です。
名門大学に通う妹フラニーと、俳優の兄ズーイ。俗物的で知性のない世界に失望したフラニーは、宗教書にのめり込みます。そんな妹を救い出そうと言葉をかけ続けるズーイ。「フラニーとズーイの会話が全く噛み合っていないんです(笑)。でも、最後の一瞬だけ、わかりあえる。会話は簡単に終わらせることもできるけれど、わかりあえなくても言葉を尽くしていくことのよさを、この本で感じました」と垂水さん。「私は昔、マッチョな体型の人にどうしても惹かれてしまっていたんですけど、恋が冷めると会話がなくなってしまって。その後、会話が続く人と付き合ったらすごく楽しい。だから一緒にいるなら何より長く会話を楽しめる人がいいなというのは、読書と実体験の両方で体感していることなんです」。
相手の考えを理解できなくても、受け容れる『春になったら莓を摘みに』
『春になったら莓を摘みに』(梨木香歩)(Amazonで見る)
「人生でずっと読んでいく本だと思います」とエミリーさんが選んだ1冊目は、梨木香歩さんのエッセイ『春になったら莓を摘みに』(2006年)です。
著者の英国留学時の下宿先の女主人、ウェスト夫人。人種や宗教、犯罪歴など関係なく、どんな人でも住まわせてしまう博愛主義のウェスト夫人との出会いや下宿先での出来事を描いています。「相手の考えを理解できなくても、受け容れる。たとえば最近、他国や異なる主張に対して、偏見を持つ人のまなざしを息苦しく感じることがあって。そんなときに、先入観を持たず、誰にでもフラットに接するウェスト夫人の柔らかさに心がほどけていく心地になるんです。私もこういう風に生きたい、と思えるあこがれの人です」と、すこし涙目になりながら語るエミリーさん。
それを受けてきくちさんは、「確かに『だれと生きる?』と問われると一生一緒に過ごすイメージだけど、私たちはどの瞬間も誰かと生きているわけですよね。それに気づきました」と思考をめぐらせます。異なるものを受け入れるのは少し怖いことだけれど、そもそも自分と全く同じ考えの人など一人もいないはず。自分の考えはずっと変わらないと決めつけて意思を押し通すのではなく、その瞬間ごとに柔軟に相手と対峙し、時には受け入れ、対応していくことが、他者と生きる上でもしかしたら重要なポイントなのかもしれません。
- 1
- 3